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1

 その日、その街にはじめてきた少女は(はしゃ)いでいた。


「ビルがいっぱいだ!」


 大好きなアーティストがライブをするというのでわざわざやって来たのである。

当然テンションは上がる一方で、開演までまだ時間があったので来たことのない街を練り歩いていた。


 ウィンドウショッピングだけでも楽しく、ついついライブ会場よりも離れた場所へと出ていたことに気が付く。


「やだな、調子乗り過ぎちゃった」


 少女は慌てて元の道に戻ろうとするが、少し道が入り組んだところに入っていたらしく戸惑っていた。


 スマホで場所を確認し、ライブ会場までの道を検索していく。


 幸い、そこまで遠くでは無いらしい。


 ほっと安心しながら歩き出そうとした時、声をかけられた。


「おっじょーさん」


「え?」


 振り返ると男が一人立っていた。


「どうしたの?」


「いえ、ちょっと迷ってしまっただけで」


「そりゃあ、いけないなあ」


「じゃあ、私行かないといけないので」


「送っていってあげるよ」


「いえ、悪いので」


 少女は突然の申し出に戸惑い、()(ろた)えてしまう。


 こんな時どんな対応すればいいのだろう。


「それとももっと面白いところに連れてってあげようか?」


 ニヤリと笑う笑顔がどうにも胡散臭くて、彼女は此処から急いで離れた方がいいと思った。


「あ、あの、結構で……」


 だから直ぐさまその場を後にしようとしたのだが、そんな少女の前にぬっと影が現れる。

それも幾つもだ。

気が付かないうちに囲まれていたらしい。


 最初の男は優男だったが、現れた男たちはどの男もガタイがよかった。


「あ……」


「なあに、心配はいらないよ。楽しいことしようってだけだからさ」


 優男は相も変わらず彼女の言葉なぞ無視してそう笑う。


「わ、私、用事があって」


 それでも必死にそう言い、その場を逃れようと足掻いた。

元々気の強い方でもないし、見知らぬ場所でのトラブルだ。

上手く対処が出来なくても不思議は無い。


「俺たちといた方が楽しいよお?」


 ぎゅっと肩を抱かれ、少女の動きは既に封じられていた。


「だ、だから用事が」


 それでも必死にそう言い、逃れようとするが、取り囲まれてしまっていてどうにもならない。

しかも人通りが極端に少ない場所らしく、先ほどから誰も通らない。


「遠慮はしなくていいんだよお」


 如何にも優しげに言うが、そこに拒否は認めない響きがあった。


「つまんない用事なんて忘れるくらいいいところだからさ」


「そうそう、安心して付いてきてな?」


 誰も彼もが彼女を逃す気は無いらしい。


 少女は絶望にその身を支配されていくことを感じた。


 どうして、どうして?

 何が起きてるの?


 そう叫びたかったが、それすら出来ない。

そのくらい恐かったのだ。


 男たちは何処かが違っていた。

人の姿をしているが、決してそれが本当の姿ではないことを彼女を本能で感じ取っていた。


 そしてそれは残念ながら当たっている。


「さあさ、行こうぜえ」


 少女は取り囲まれたまま、男たちに連れて行かれてしまった。


 逃げたいのに逃げられない、誰にも助けを求められない、聞こえない悲鳴を上げながら。



 その日、少女が一人消えた――忽然と、何の手かがりもなく……

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