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火山(ひやま)の神に選ばれた花嫁は、永遠に愛される

双子の娘は山の神に愛されている。

そう言い伝えのある村に産まれた双子の娘 カヤとミネ。神の花嫁となる修行の中、村長の息子カツラと出会う。花嫁になるため隔離された神社で育てられた双子が神か人か!を選んだ時、宮司の口から真実を知らされる。

火山の神に守られし村には昔から言い伝えがあった。

双子の娘が産まれたら、その娘たちは火山の神に愛される。

その娘たちが15の年にどちらかが花嫁に選ばれる。

選ばれた花嫁は火山の神に生涯愛され、また村も繁栄する。と・・


「村長、栄作のところに双子の娘が産まれたと知らせが入りました。迎えに行かせますか?」

「そうか、双子の娘が産まれたか!その前に宮司さまに連絡を入れて、ここまで連れて来てくれ。」


村長と呼ばれた男に言われた使用人は、急いで走っていった。

(我が家に息子が産まれ、双子の娘まで産まれた。

俺の代でますますこの村は繁栄するだろう。火山の神に愛されているのは娘では無くこの私かも知れないな。)

村長はそう思いながら、産まれたばかりの息子を抱き上げた。

「花嫁に選ばれなかった方がカツラの花嫁だ!

選ばれなかった方にも火山の神のご加護があり、村長のところに嫁ぐと決められている。カツラも愛された子だぞ!」

布団に横たわったままの妻も、隣りの村から嫁いできたため火山の神の事は知っていた。

火山の神の加護はこの村だけの恩恵では無い。

神が怒れば山全体の村に被害が起こる。

それゆえに花嫁の存在はとても大切なものとされていた。


使用人に呼ばた宮司が屋敷に着いたと同時に、栄作の妻と双子の娘たちが村長の屋敷へと運ばれてきた。

産まれたばかりの双子はとても愛らしい顔立ちをしており、

(まさしく神に愛された赤子たちだ。)

と誰もが思った。


言い伝え通り、宮司により親子の縁を切られた親は村長より報酬を受け取り村を出て行った。

親子の情を断ち切るためだ。


「今日より15の年まで私が双子の親となり、花嫁修行を行います。」

あらかじめ外の村から選ばれた乳母2人と、身の回りの世話をする女性5人を連れ[火山神社]へと連れて行かれた双子 [姉はカヤ 妹はミネ]は、神からの神託が降りるその日まで囲まれた神社で過ごすことになった。



3才から乳母は躾係となり神さまの元へ行っても恥ずかしくない作法を教えられた。


5才からは宮司による花嫁修行が始まった。

朝餉の前と夕餉の前に、神が祀ってある洞窟へ行き祝詞を上げる。

その際の衣装は巫女装束のため、冬はとてつもなく寒い。が、これで亡くなった花嫁はいない!と言われてしまえば我慢の他ない。

それ以外の時間は乳母による作法の手ほどきと使用人たちと掃除や食事の手伝いをする。


落ち葉を使って芋を焼いていたとき、

「この間村長と宮司さまが話してるのを聞いちゃったんだけど!」

誰もいない事を確認した姉のカヤが箒を持って近づいてきた。

「花嫁に選ばれなかった方は村長の息子に嫁ぐんだって。」

「村長に息子がいるの?」

「同じ歳みたいだよ。」

その時はまだ同じ歳の男の子に興味が無かった双子が、13の年に会った息子カツラに対し抱いてはいけない感情を持ってしまった。



「息子のカツラです。」

そう紹介されたカツラは誰が見ても不細工な顔だった。

おそらく村長の息子で無ければ嫁取りも難しいほどの容姿だった。

「妹のミネです。」

先に挨拶を返したのはミネだった。

「姉のカヤです・・」

カヤは直ぐにでもその場から離れたそうで、お茶のおかわりを持って来る!と言ってその場を離れた。


顔合わせから10日に一度顔を出すようになったカツラは、いつも自分の相手をしてくれるミネに特別なお菓子を持ってきては隠れて2人で食べていた。

「カツラ、いつもおいしいお菓子をありがとう。カツラが持ってきてくれなかったら、こんな美味しいお菓子があるなんて知らずにいたかも知れないわ!」

「ミネがいつも美味しそうにたべてくれるし、一緒に食べた方がもっと美味しくなると思って・・」

最後は声が小さくなるが、2人はこの時間がとても好きだった。

確かにカツラは不細工だがとても優しい人だった。

いつも身体のどこかに怪我をしていたが使用人から聞いた話しでは、村で若者同士のいざこざがあると必ず仲裁には入り怪我をしてでも止めているそうだと。


14の年になるとそれが特別な感情と認識してしまい

「宮司さま、私を罰して下さい!そしてカツラには来ないよう伝えて下さい!」

そう言い残し洞窟の中へ閉じ籠った。

そんなミネに対してカヤは、自分こそが火山の神に選ばれ贅沢な暮らしが出来る者と思い、ミネの行動を止めるどころかワザとカツラと2人になるように仕組んでいた。

急に会えなくなったミネに不安と心配で食事の量も減り、いつしか誰もカツラの姿を見なくなった。


そして15の年、花嫁の神託が降りたのは妹のミネだった。焦ったカヤは

「この子は村長のところのカツラと隠れて、人には言えない様な事をしていました!」

「そんな事はしていません!カツラを悪く言うのは止めて!」

「カツラだけでは無いわ!この子はカツラ以外の男とも隠れて会っているのよ!私は知ってるのよ!」

「!?」

何も言い返せないミネに宮司は

「神の花嫁に選ばれた以上は一刻も早く神の元へ行かねばなりません!」

ミネ付きの乳母に合図をしてその場からミネを下がらせた。

今夜中に準備をし、早朝送り出します。と村長と話し

「ミネを送り出した後にカヤをそちらへ送ります。

その後はどうかカヤをよろしくお願いします。」

と頭を下げ宮司と村長はその場から去った。

(私があの不細工に嫁ぐの?神の元ほどの贅沢も出来ず、不細工の相手をして子を産むの?無理よ無理・・)

自分こそが花嫁に選ばれると思っていたカヤは、明け方ミネの食事の中へ毒を仕込んだ。毒といっても数日寝込む程度の物だが倒れて熱を出したミネを前に、急に嫁ぐ事になり支度を急がされた使用人たちは

「神託は私に降りたのに、ミネが横槍を入れてしまった。どちらにしてもミネはムリだから私に着付けなさい。大丈夫!声を出さなければ誰も分からないわ!」


そしてミネの代わりとなったカヤは宮司と使用人4人と共に山へ向かって行った。

高熱を出したミネは5日後、迎えに来た村長たちと村へと降りた。

「ミネ!迎えに行けなくてごめんよ!隣り村へ行ってたんだ!」

村長の屋敷へ入った瞬間、奥の部屋から細身の男が出てきた。

「えっ?カツラ・・なの?・・私の知ってる容姿では・・」

カツラはとても痩せており、身体も筋肉がつきとても男らしい青年へと変化していた。

「君に会えなくなって心配と不安で食事も喉に通らなかったんだ。気付いたら痩せていて・・でも君に何かあった時痩せててはダメだ!と言われ皆と一緒に畑を耕したんだ。」

そしたらホラッ。

と見せられた腕には立派な力瘤が出来ていた。


カツラは使用人に姿を見られていなかった訳ではなくて、痩せて気付かれていなかった・・だけ。


次の日、カツラとミネは夫婦となった。

神に愛された子は神に選ばれた花嫁と共に村に繁栄をもたらした。


ミネが後継となる男の子を産んだ日、宮司はカツラとミネの元へきてこう話し始めた。

「神の愛しい子が産まれた時、神に選ばれる花嫁も産まれる。だが同時にまた魔も産まれると・・

そのため双子の娘が産まれた年に産まれた村長の息子こそが愛しい子なのです。

これは宮司にしか伝わっていない事なので・・」

そう言って人差し指を唇に当てた。

2人は顔を見合わせて笑った。

ミネの腕に可愛い息子を抱きしめながら。



嫁入り前までさかのぼり、

「ここからは私と花嫁だけで行きます。あなた方はそのまま神社に戻って下さい。」

「わかりました。神社でお待ちしております。」

使用人たちは輿をその場に置くと山を降りて行った。

「宮司さま、私こんな姿で山を登る事は難しいです。」

輿から降りるなりそう言ったカヤは宮司の顔を見て青くなった。

「あなたはカヤですね。言い訳は結構です。これも神託で降りたことなので何もかも知っています。」

自分の方へ向かってくる宮司から距離を取ろうと思っても、着せられた衣装が足元を隠し、また頭に飾りを沢山付けられたせいで上手くバランスも取れない。

「宮司さま・・・?私は選ばれた花嫁ミネですよ?」

「ええ、ええ。確かに選ばれたのはミネですよ。」

「でしたら早く火山の神の元へ連れて行って下さい。」

ジリジリと近づいてくる宮司にとうとう捕まったカヤは、震える声で懇願する。

「最後だから教えて差し上げますね。神に愛された子はカツラです。そして選ばれた花嫁はカツラに嫁いだ娘、本物のミネです。」「えっ・・?」

身体中から冷や汗が湧き出て、震えも止まらない。

肩を掴まれた宮司の熱が、力が、カヤをどんどん追い詰めて行く。

「神は2人に試練を与えたのですよ。

あなたと言う魔から・・・」

この人は何を言ってるのだろう?

私はただ、愛し合う2人を一緒にしてあげただけ。

別れを選んだのも2人。

「わたしが・・・魔?」


そうですよ


そう言うのが早いか、体を押すのが早いか・・

私はそのまま崖から下へ落とされてしまった。





ちょっと長めの話しに挑戦してみました!

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