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第37話:それぞれの裏切り

 夜の城内、ヨージは一人、薄暗い部屋で思索にふけっていた。部屋の中は静まり返り、彼の目には冷たい光が宿っている。


 彼の本当の名は高村洋司(たかむらようじ)。かつて現代日本で情報屋として生き、闇の中で情報を売りさばいていた男だ。


 ——ヨージは転生前の自分の生涯を振り返っていた。

 裏社会の情報を売買するその日常は危険に満ちたものだった。ある日リスクの高い情報に手を出したことで命を狙われ、結局は逃げきれず殺された。


 その死後、目覚めた時にはこの世界の、今の体に転生していた。その前世の名はヨハネス「セバスチャンの弟」であり、帝国へスパイとして潜入していた王国の諜報員でもあったらしい。


 ヨージが転生直後にヨハネスの人生の記憶を辿り始めたとき、そこに浮かび上がったのは、諜報員としての使命と、彼が命を落とした真相だった。


 ヨハネスは、ベルトラムがセレーナとフォルスター家を使って貴族社会の分断工作を企てている事実と、縁談を餌に帝国内でも暗躍している陰謀を突き止め、それを王国に知らせようとした。


 しかし、セバスチャンを探るためにベルトラムが放っていた間者に察知され、その事実を知ったベルトラムの刺客によって、橋から突き落とされて命を絶たれた。


 彼は、セバスチャンにすら助けを求めることができず、孤独のうちにその短い命を終えたのだった。


(そして俺が、このヨハネスの体に転生した。正体が知れれば再び命を狙われる。ならば、この記憶を使いベルトラムを失脚させるしか俺が生き残る術はない)


 ——がしかし、せっかく貴族に転生したんだ、この人生ではもっと高みを目指すべきだろう。


  ヨージは再び冷酷な情報屋「高村洋司」としての自分を呼び戻し、ベルトラムに復讐することを決意した。


 ただし、復讐だけでなく、彼のもう一つの狙いは、その地位を手に入れることだ。王国の貴族社会において、ベルトラムに代わり、自分が力を握ること——それが、ヨージの真の目的だった。


 そのために、ヨージは計画を練り上げた。

 

 まず帝国貴族からアリシアへ縁談を持ちかけ圧力をかけるベルトラムの陰謀を逆に利用して、弟エルドラドとアリシアを婚約させた直後に、裏で過激派の帝貴族と暗躍し、縁談破棄の報復としてラインハルト侯爵領へと侵攻させる。

 侵攻が始まった時点で、ベルトラムが帝国貴族と通じて縁談を仕掛けさせた陰謀の証拠を開示し、セバスチャンの私兵でもって彼を拘束させる——そういう計略だった。


 表向きはセバスチャンに協力してベルトラムを失脚させた後、過去のヨハネスの記憶でセバスチャンを操り、自身が貴族社会における影響力を手に入れるつもりだった。


◇ ◇ ◇


 一方、セバスチャンは初めからヨージの動きに対して警戒を強めていた。セバスチャンの胸には、弟ヨハネスが不慮の死を遂げたことへの負い目が残っており、ヨージがヨハネス本人である可能性が常に頭をよぎっていた。


 しかし、セレーナ(真奈美)と出逢った事で転生者という存在を感じ始める。様々な難題を彼女に仕掛けることで、今のセレーナが転生者ではないかと考えはじめたセバスチャンは、常人では不可能なアリシアとアレクセイの縁談をセレーナが達成した事で『転生者』という存在をもはや『確信』していた。

 

(やはりヨージも弟ヨハネスでばなく、別人の『転生者』だ……であれば、もう迷いはない。)


 セバスチャンはいよいよ決意を固めた。


(ヨージ、お前の計画はここで終わりだ。弟を騙るならば、私がそれを正さなければならない)

 

 彼はヨージの計画を阻止した上で、より確実で、完璧な方法でベルトラムを失脚させるための極秘策を実行に移し始める。


 そのためにはもう一度、ルミナスとして活動するセレーナの才覚と、これまで温め続けた()()()()()()()の才覚に賭ける必要があった。

 

 ベルトラムを議長席から引摺り落とし、この王国を正しい方向へ導く、セバスチャンの一世一代の大仕事が始まろうとしていた。



 ——その頃、ヨージも黙って手をこまねいているわけではなかった。

 

 アリシアとアレクセイの縁談が成立したことで自らの計画が阻まれたことに、内心激しく憤っていた。しかし、それ以上に、弟ヨハネスの体を借りた自分を出し抜こうとしたセバスチャンへの怒りが込み上げていた。


(セバスチャン、お前が俺の正体に気づいているかは分からないが……これで終わりだと思うなよ)

 

 冷ややかな笑みを浮かべ、ヨージは新たな策略を巡らせることを決意した。

 今、彼はセバスチャンへの復讐を果たすために、ある人物を密かに訪ねていた。


 そこは——ベルトラム・オービル貴族院議長の邸宅だった。

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