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第2話:私を下に見てると後悔するわよ

 アルトの動揺は表情から明らかだった。先ほどまでの余裕ある笑みは影を潜め、その手が微かに震えている。


「……セレーナ、君は何も心配することはないよ。僕の家のことは万全だ。それに、君の家に恥をかかせるようなことは絶対にないからね」


 アルトは低い声で囁きながら、そっとセレーナの手を握った。その手は優しく、少し誘惑的だった。彼は今までこうして多くの女性を手玉に取ってきた。セレーナも例外ではない——そう確信していた。


「アルト様がそうおっしゃるのでしたら、でも……私も初めての婚約で、色々と心配なのです…」

(ここでスキンシップ?……愚策よアルト。色仕掛けで私を落とせると思ってるのね……笑えるわね。)


 セレーナは内心で冷笑を浮かべつつ、あえて少し頬を赤らめたように見せ、アルトの期待に応えるように微笑んだ。


「セレーナ、君は本当に美しい。まるで、僕に与えられた神の贈り物だよ」

(どうせこの女は顔は良いだけで思慮が浅い、とりあえず容姿を褒めておけば……)


 アルト・デュラハンは、庭園の席で低く甘い声を響かせながら、セレーナの細い手に、自分の指を絡める。その手の動きには、彼なりの自信が溢れている。


 だが、今のセレーナは——百戦錬磨の婚活カウンセラー(チート付き)だ。その裏にある軽薄さを瞬時に見抜いていた。


「まあ、アルト様ったら……そんなに褒められると、照れちゃいますわ」

(そもそもスキンシップは婚活NG。外見の褒め落としは今時コンプラ違反だっつーの。しかも「神の贈り物」?……はあ?この時代のテンプレなのそれ?)


 セレーナは心の中で皮肉を浮かべながらも、にっこりと微笑みを浮かべる。


 アルトの顔には、まるで勝利を確信したかのような表情が浮かんでいる。


「僕は素直な人間だからね、この目に見えている真実は……隠せないよ」

(やっぱり簡単だな。ちょっと褒めただけですぐに上機嫌だ。こりゃ楽勝。彼女の心は、もう俺の手の中だ)


 アルトは、さらに自信を深めたのか、もう一段階甘さを増して声を低める。


「君が僕の婚約者になってくれたこと、それが僕にとっての幸運だ。君と一緒なら、僕の人生は完璧になる。すべてが君で満たされるよ」


 彼の言葉は甘く、誘惑的だった。だが、セレーナは微笑を崩さず、内心で冷静に観察を続けている。


「アルト様……なんて素敵なお言葉でしょう」

()()()()()でしょ…笑わせる。こいつ、絶対私を下に見てるわね。でも、いいわ。ここは泳がせよう)


 セレーナは、突然柔らかくも冷静な目でアルトを見つめた。その瞳には、先ほどまでの無邪気さとは異なる鋭さがあった。


「本当にそう思ってくださっているのですね?でも……まだお互いをよく知らない気がしますわ」


 そして、あえて柔らかな声で返しながらも、わざと無邪気な調子で続けた。アルトは彼女が自分の言葉に夢中になっていると確信し、さらに言葉を続けた。


「そうだね、これから一緒に過ごす時間が僕たちをもっと結びつけてくれるだろう。君のすべてを僕は知りたいし、君にも僕を知ってほしい。僕は君にすべてを捧げるつもりだよ」

(ほら簡単だ、もう俺に夢中だな。やはり、ちょろい女だ。もう少し踏み込めば、完全に落ちるはず)


 アルトの言葉は甘く、さらに距離を縮めようとするかのようにセレーナに手を自分の指をさらに深く絡めていく。


「それにしても……アルト様は本当に素敵ですね。あなたと一緒にいると、私も安心してしまいます」

(まあ自信満々だこと。婚活現場じゃ自分の容姿に自信があるタイプが一番めんどくさいのよね。まあ、もっと泳がせるか)


 セレーナは甘い言葉を返しながら、さりげなく彼の手を軽く握り返した。アルトの顔に、一瞬、勝ち誇ったような笑みが浮かんだ。


 アルトはさらに顔を近づけると、手を絡ませながら甘い言葉をささやいた。


「君には僕のすべてを見せるつもりだよ、セレーナ。君さえそばにいてくれれば、他には何もいらない」


「嬉しい……私も同じ気持ちですわ」

(何もいらない?財産全部持ち逃げする気の男がよく言うわ。あなた軽いのよ、言葉が。)


 するとセレーナは絡むアレクの指をゆっくりと引き離し、その甲に再び自分の手のひらをそっと置く。

(さて、そろそろ仕掛けようかしら)


「それにしても……アルト様、あなたのお屋敷についてもっとお聞きしたいですわ。いつかお招きいただけるかしら?あなたのことをもっと知りたいですもの」


 その一言に、アルトの表情が一瞬固まった。彼の家は破産寸前で家財などの多くが売却されている。それはセレーナに絶対に知られたくないことだった。


「……え、ええ、もちろん。君を歓迎するよ。ただ、少し準備が必要で……ね」


「そうなのですね。少しでも早く、アルト様のお屋敷にもご挨拶に伺いたいのですが……」

(はい、ヒット。やっぱり何か隠してるわね。おおかた家財も処分されてるってパターンでしょ)


 セレーナはあくまで微笑みながら、アルトの反応をじっと見守っていた。彼が隠しているもの、それが何であれ、焦りがその顔に現れ始めている。


「あの、お嬢様、アルト様の家は大きいですから……準備には少し時間がかかるのかもしれませんよ」


 突然、メイドのアリサが控えめに口を開いた。純朴な彼女は、アルトの困惑を素直に解釈しているようだ。


 セレーナは一瞬驚いたが、すぐにそれを利用するアイデアが浮かんだ。


(アリサの純粋さ……逆にこれを使えば、アルトをさらに追い詰められるかもね)


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