プロローグ
婚活業界。それは、まさに戦場だ。
表の面では、愛を求める人と人を結びつける場所。
しかし、その裏には打算や計算が渦巻いている。
結婚カウンセラー佐藤真奈美は、それを誰よりも理解していた。
「もう、誰も信じられないわ」
結婚相談所を経営する真奈美は、数々のカップルを成立させてきた。
天才カウンセラーと称される彼女の手腕は業界でも名高く、彼女の相談所は今や2年先まで予約待ちの人気だった。雑誌やテレビに取り上げられるほど成功を収めているが、華やかな表舞台の陰で、彼女が見てきたのは冷徹な現実だった。
「この人と結婚すれば、会社の後継者に近づけると思っているんです」
「相手の資産が多ければ、見た目や性格は、まあ、妥協できます」
「年収は3,000万以上、顔は最低でも役者レベルかな。医者か弁護士が理想ですね」
「健康で長生きしてくれる人。子どもができれば、それで十分です」
「見栄えが良くて、仕事関係のパーティーに出しても恥ずかしくない人じゃないと」
「もし離婚しても、慰謝料で安泰な生活が送れそうな相手がいいです」
こんな言葉を何度も聞いてきた。真奈美はそのたびに、心のどこかが冷えていくのを感じていた。
結婚とは本来、愛によるものだと信じたかった。だが、現実は違った。
仕事を通じて見えてきたのは、人々が互いの欠点を隠し、条件の合致を計算する無機質な交渉だった。
そのうえ、自分自身の婚期は遠のくばかり。結婚を「商品」として捉え、冷静にビジネスを進めるほど、異性を信じられなくなっていた。
「自分の感情に正直に生きる人間なんて、この世にはいない」
そう信じるようになってから、恋愛なんてものは馬鹿らしくて、自分には関係のないものだと思うようになった。
だが、それでも時折、孤独が胸を刺す。
仕事ではこれ以上ないほど大成功しているのに、心の中にはぽっかりと穴が開いている。
そんな夜、彼女は一人、ワインを片手にぼんやりと考えていた。
「何が天才カウンセラーよ……自分のことすらままならないのに」
その疑念が胸に浮かびながらも、次の日も仕事に追われる日々だった。
そんなある日、彼女の元に一人の男性客が訪れる。
彼は真奈美の手によって婚約者を見つけたが、結婚寸前で破談に至った人物だった。
逆恨みともいえる言いがかりをつけられ、激しい言葉を浴びせられる。
「お前のせいで俺の人生はめちゃくちゃだ! あんな女、結婚相手として紹介するなんてどうかしてる!」
冷静に対応しようとしたが、彼の怒りは収まらなかった。真奈美は顧客を失うことよりも、彼が一線を越える危険を感じていた。
「もうお引き取りください」
そう言って強引に話を終わらせたが、その出来事がすべての始まりだった。
数日後、仕事帰りに遅くなった真奈美は、夜の街中でその男に再び遭遇する。彼の目には、常軌を逸した光が宿っていた。
「お前みたいな悪徳コンサルタントは、消えた方が世の中のためになる」
そう言うや否や、男は彼女を道路へと突き飛ばした。
全身が宙に浮く感覚。真奈美の心臓が激しく鼓動し、車のヘッドライトが間近に迫る。恐怖が一瞬にして彼女を包み込んだ。
「これで、終わり……? 私の人生って、何だったの……」
その瞬間、彼女の視界は暗転し、すべてが消え去った。
◇ ◇ ◇
目を覚ましたとき、真奈美は柔らかいベッドの上に横たわっていた。
天井には見たこともない豪華な装飾が施され、異世界のような光景が広がっていた。
体を起こすと、彼女は自分が着ているドレスに目を見張った。まるで時代劇にでも出てきそうな、繊細な刺繍が施された貴族風のドレスだ。
「え? 何このドレス……ここ、どこなの?」
部屋の外から誰かがやってくる気配がする。
扉が開き、メイドのような姿をした女性が入ってきた。彼女は真奈美の顔を見るなり、深々と頭を下げる。
「お目覚めですか、お嬢様。今日も婚約者様とのお茶会が控えておりますので、ご準備をお願いいたします」
婚約者? お嬢様?
「え、ちょっと待って、どういうこと?」
「お嬢様……昨夜のお酒が過ぎたのでは?もう少しお身体を労わってくださいませ」
真奈美は混乱しながらも、鏡に映った自分の姿を見て、さらに驚愕する。
そこに映っていたのは、今の自分ではなかった。顔は若々しく、肌は透き通るように白い。まるで異世界の王女か貴族のようだった。
「え……なにこれ、まさか誰かに……転生した?」
現実離れした状況に呆然としながら、真奈美は異世界の貴族令嬢、セレーナとして新しい人生を歩み始める。
しかし、その新たな世界でも、彼女を待っていたのは一筋縄ではいかない結婚事情と陰謀の数々だった。
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ネット小説におけるテンプレとはなんなのか?
皆が同じような設定ではたして成立するのだろうか?
リレー小説みたいな感じで書けばいいのか?
ランキングを見ながら、そんな疑問が浮かんでは消えていた日々を過ごし
やらずに悩むくらいなら、やってから悩めばいいじゃん
という気持ちでとりあえず、読んだこともない悪役令嬢&ざまぁという題材で
なんとなくこういうことなのかしら?と予測値だけで書く実験小説です