病
エピソード7
ある時、人類に厄災が訪れた。
それまで人々は当たり前の生活を続けていた。
ある人は家族と、あるいは恋人と、そして一人で暮らすものもいたが、それでも隣人と関わりながら、それぞれの幸せのために懸命に生きていていた。
そんな中、奇妙な現象に出会うものが現れた。
それまで隣にいたはずの人物が、突然、姿を消すようになったのだ。
そして跡には、その人を型取ったように、桜の花びらが降り積もっていた。
あるものは白昼夢を疑い、あるいは集団幻覚の類として処理されることもあったが。
それが多くの人々に発生するようになった頃、ようやくそれが「病」として分類されるようになった。
人が、桜になる病。それは、瞬く間に世界を埋め尽くしていった。
原因、治療法は、世界各国で研究が進めてられていったのだが、ついには、それらが見つかることもなく。
人類は、減少の一途をたどることになった。
死を待つ人類に希望がもたらされた時には、人類の数は数十人になっていた。
突如として現れた「ウサギ」は、一瞬にして生き残った人々をひと所に「招集」し、そして宣言した。
「人類を救いに来たスよ。」
彼はそれまで人類が持っていた科学力をはるかに超えるテクノロジーで人類を導いていった。
人々は彼に促されるまま、コロニーを建造し、地球を海に沈めた。
南極の氷を溶かし、それでも地球を埋める水量には足りなかったが。
「それじゃあ、空気も全部、水に変えて用意するス。」
という言葉で、ウサギが全て解決した。
彼は、時間も空間も、その法則さえも無視するかのように、世界を再構築していった。
「というわけで、皆さんには、これから救世主を産み出してもらうス。」
こうして人類は、地球最後の人類を誕生させるため、その営みを続けることとなった――。
「――ス。」
……突っ込みどころが多すぎる。
「結局、アンタは何者なの?」
「それは、今のアンユッチには教えられないスね。」
なんだかとても重要な話だったはずなのだが、いちいちウサギがキメ顔を挟むせいで、私はすっかり緊張感が抜けてしまっていた。
「じゃあ、その『病』っていうのは?アンタの口ぶりからして正体も知ってるんでしょ?」
「あれは、植物の生殖活動みたいなもんスね。」
「生殖活動で、人が……花びらに変わったっていうの?!」
植物の中には、ヤドリギを代表とした寄生植物というものがある。
そしてそれとは別に、寄生生物の中には、宿主の肉体を変異させ、その変異を自己増殖の手段として用いる生き物もいるのだとか。
それらの性質が組み合わさり、「人そのものが植物となる」、そんな生き物が誕生したとウサギは言っていた。
「なら……私が食べた、あの『サクラ』って……。」
最悪の想像をしてしまった。が。
「あれはまた別ス。一応これでもアンユッチの味方スから。ネっ?」
と、やはりウザいながら、それでも私を安心させようという気遣いを見せてくれたであろう言葉に、救われた。
「あぁ……そう、なんだ。」
「これに関しては伝えるより直接見てもらった方が速いスね。じゃあ、そっちはマスターにお願いするス。」
「分かりました。それではアンユさん。次は、この塔の最深部に向かいましょう。」
まだまだ、分からないことだらけだけれど、マスターに並んで、私は観測室を後にした。
なんで、私はこのウサギの言葉を、こんなに信じられるって思うんだろう?
続きも投稿されています。
引き続きよろしくお願いいたします。