知らなかった
エピソード6
「あなたには、人類を救っていただくことになります。」
「……私が、人類を救う?」
「はい。我々人類が、種を存続させること、それは今となってはあなたにしかできないことなのです。」
意味が分からない。マスターいったい何を言ってるの?
「分からないこともたくさんあるかもしれませんが。……まずは、この地球の真実の姿を知ってもらうことから始めましょうか。」
そう言って、施設を案内されることになった。
私が今いるこの場所は、中央0区にあるセンタータワーの内部だという。
移動管理の度に利用していたセンタータワーだったが、内部にこんな研究所のようなところがあるというのは聞いたことがなかった。
円を描くように伸びる、長い廊下の途中には、よくわからない部門に分かれた部屋がたくさんあった。
色々聞きたいことはあったが、まずは全部の話を聞こうと決心した私は、黙ってマスターの後についていくことにした。
そして、「観測室」と書かれた部屋に通された。
中にはたくさんのモニターが所狭しと並んでいて、それらすべてを研究員と思わしき人達が監視していた。
横からのぞき込むとモニターには、コロニー内の様々な場所が映されているようだった。
一番奥にあるひときわ大きなモニターの前にやってきたとき、そこには、見覚えのある顔が私を待っていた。
「アンタもこの人たちの仲間なんだ。」
「まぁまぁ、そんな警戒しないで。アンユッチにとっても、そこまで悪い話じゃないスよ。」
相変わらずだらしない顔をしたウサギが、いつも以上に腹の立つ動きで私の隣へ並んだ。
目の前のモニターには、私がさっきまでいたであろう、一面真っ白な部屋と拘束台が映っていた。
私がここで気絶してる間、アンタがずっと「見守ってた」ってことね。
マスターは端末を見ると、少し複雑な表情をしたが、すぐに向き直ると、モニターにつながった機械をいじり始めた。
「アンユさん。これからお見せするのは、今現在のジパングを、その遥か上空、コロニーの外から撮影したものです。」
映し出された映像は、私が今まで知っていた、その姿とはかけ離れたものだった。
正確に言うと、コロニーそのものは、よくなじみのある、小学校で皆と習ったドーム状のソレだったのだが。
「この、ドームの外にある。……外海に浮かんでいるのって。」
一面に広がる、薄紅色。
絨毯のように連なり、波の動きに合わせて揺らめいている小さな粒。
「この花のことを、我々は『桜』と呼んでいるんです。」
地球は、ジパングを残して、全て――。
――桜の花びらで埋め尽くされていた。
「アンユッチは歴史が好きスよね?」
地球がこんなことになっているなんて、知らなかった。
「なんで、一般教養の部分はサクっと省くスけど。」
私が習ったのは、病気が広まって、それを海に沈めて、それでもコロニーのおかげで人類は救われて――。
「これからする話が、本当の歴史っス。」
――まだ、病原菌は外に残っているかもしれないけど、それでも少しづつ消滅していくから。
「ちょっと長くなるかもしれないスけど、ちゃんと付いてきてください、ネっ?」
だから、世界中のみんなも各コロニーの中で、細々と、それでも幸せに「その時」を待っているって……。
「それじゃあ、『勉強』を始めまスか。」
それが全部、優しい嘘だったなんて。
ここから第二話「Pollen・Allergy」が始まります。
エピソード7も投稿いたしました。
よろしくお願いいたします。