オニギリ効果
エピソード4
お腹がカユい……。
正確に言うなら、お腹の「中が」痒い。
まるで、蚊を何百匹も飲み込んで、胃の中を刺されまくった後のような感じがする。
その感覚は、土から虫が這いあがる様に、私の体の中を上っていき、食道がかゆくなり、口の中がカユくなり。
そのまま顔や頭、首から下へと、全身が痒くなる。
かゆい。カユい。痒い。――。
「スゴクかゆい!!」
自分の寝言にびっくりして、飛び起きる。
意識が覚醒すると同時に、ひどい頭痛を感じた。
そして、これまたひどい吐き気とも闘いながら、なんとかして上体を起こした。
「うぅ……。完全に飲みすぎた……。」
やっとの思いで、ベッドから足を下ろすが、私はしばらくの間、頭を抱えることになった。
えーと。……昨日は結局、どうなったんだ?
今、私の目に映る見慣れたカーペットから察するに、どうやら自宅には帰れたらしい。
重い頭で記憶を手繰る、……が。
浮かんできたのは、とにかく料理がおいしかったという印象と、腹立つウサギのキメ顔だけだった。
一瞬、このまま会社を休んでしまおうかという考えがよぎるが。
さすがにそれは、人としてダメダメすぎるな……。
と、私は最悪の気分のまま、のそのそとスーツに着替えて部屋を出ることにした。
「ふふっ。やっと起きたのね?」
リビングに出ると、お母さんが「あなたの状態はお見通しだ」と言わんばかりの顔で声をかけてきた。
「昨日は、帰ってくるなり玄関で寝ちゃって、大変だったんだから。」
言うには、お父さんが酔いつぶれた私を背負って、ベットまで運んでくれたらしい。
「そうなんだ。……お父さんは、もう出たの?」
一応、お礼というか謝罪をしようかと思って、聞くと。
「今日は、配送先が多いからって先に出たの。私ももう出るけど、『コレ』。お父さんから。」
そう指し示されたテーブルの上には、父の筆跡で「二日酔いの時は、無理してでも腹に入れろ。」と書かれた紙と、絶妙にでかいおにぎりが皿に乗っていた。
「でもお父さんも、なんだか嬉しそうにしてたよ。」
と言う母を見送ってから、私は、彼らしさがあふれる無駄にでかい梅おにぎりを噛み締めた。
「うーん。昨日食べたアレ何だったんだろう?」
午後が近づく頃には、父のオニギリ効果もあってか、体調は落ち着いていた。
そんな中、かすかに記憶が残っていた「花のおひたし」が気になって。
空いた時間を使って、システム管理用のデータベースを覗いていたのだが。
食べられる花どころか、新種の植物すらヒットしないなんてあり得る……?
コロニーが建設されて以降、外に広まる病原菌に対する危機感は、当然高まった。
その為、ドーム内で栽培される植物や、育てられた家畜など、あらゆるもののデータが調査され、この第一管理センターに集積されている。
しかし、新種の植物が研究されているという記録そのものが、見つけられなかった。
「アンユさん?さっきから調べ物でもしてるみたいだけど、仕事は順調?」
「あ!はい。……今後のためにもどんな作物があるのか知っておきたくて。」
二日酔いで出社した、という負い目を感じて、とっさにごまかしてしまった。
「勉強もいいけど、明日の会議で使う資料がまだ送られてないんだけど?」
「あぁ!すみません。すぐに作成しますっ。」
マスターに直接聞けばいいか。
完全に自業自得であることは棚に上げ、今日も今日とて、ストレスを積み重ねては、帰りにまたあの店に行こうという思いを募らせていった。
エピソード5も投稿いたしました。
事前の予告では月~金曜に投稿としていましたが、土曜日にも投稿することといたしました。
ご理解のほど、よろしくお願いいたします。