あなた
エピローグ
月。
それは、世界を写す鏡。
一面、銀に輝く砂が広がり、どこまでも、どこまでも、ただ地平が広がっている。
私はそれを、上空から眺めていた。
私が、その傷一つない、まっ平らな大地へ向かって手をかざす。
すると、もはや私が意識するまでもなく、私を取り巻く桜達は、月を覆いつくしていく。
銀の砂地を、薄紅の平原へと変え、浸食し、根付き、姿を変化させていった。
まるで、夕陽が沈む海みたい。
きっともう、地上へ私の想いは届いていないのだろう。
「そうだね。……とても綺麗だ。」
でももう、私は一人じゃない。
さぁ、始めようか。
『「新しい世界を。」』
カルラと共に、海に飛び込む。
見えるすべてが薄紅色になって、深く、深く、沈んでいく。全てと私が一つになって、溶ける。
私の見えるものが全てであり、全てのものが私になる。
その海の中心で、私は子供の様に丸くなって、瞳を閉じる。
世界はまどろみ、そして、眠りについた。
私は夢を見ている。
世界には光が溢れ、そして、人々は希望を抱いて生きている夢を。
決して楽な事ばかりじゃないかもしれないけれど。
それでも、幸せになる為に、それぞれ、当たり前の人生を歩んでいく。
ある人は家族と、あるいは恋人と、そして一人で暮らすものもいたが、それでも隣人と関わりながら、それぞれの幸せのために懸命に生きていく未来を。
「ねぇ、アンユはどんな世界を創ったの?」
世界を漂い、ただ見つめるだけとなった私の中で、カルラの声が響いている。
ふふっ、それはね――。
結局私は、ほとんど全て、かつての地球で起こったことを再現することにした。
私達は、生まれる事が無いけれど、それでもこれまでの世界を無かったことにはしたくなかったから。
植物が栄え、動物が住む世界を広げていく。そして「病」が誕生する。
ただ、私の持つ「ポーレン・アレルギー」の力をほんの少しだけ、皆に分けてあげることにした。
病を体に取り込んだ時、その原因を知って、理解し、対処する力を、生き物すべてが持てるように。
だけど、私は、たった一つのイタズラをした――。
もしあなたが、何かに疲れてしまって、くじけそうになった時は思い出してほしいんだ。
きっと、生きていくのは大変で、もしかしたらあなたの持つ免疫の力で、苦しむことだってあるかもしれない。
でもそれは、あなたが何かを理解し、立ち向かう力になってくれるはずだから。
もし、あなたが夜に一人ぼっちで、空を見上げた時。
――二足歩行で、はしゃぐウサギの姿が、月に浮かんで見えたなら。
思い出してほしい。
あなたが今、見ているものにも、物語があることを。
沢山の人が、あなたの今に繋がっていることを。
あなたには、「私の気持ち」が分かるはずだから。
ご愛読いただきまして、誠にありがとうございました。
参考文献
「創世記」より「ノアの方舟」




