お願い
エピソード39
私が食堂にやってくると、すでに大量の食事が並べられていた。
「さぁさ!お腹いっぱい食べていってください!今日は全部の食材を使い切りますよ~。」
コック長さんはいつものように笑顔で出迎えてくれた。
「ごめんなさい。急にお願いしちゃって。」
「良いんですよ、ボクはその為に居るんですから。」
やっぱりコック長さんの料理は最高だ。
一口一口を噛み締めながら、私は食べる。
「あの、コック長さんに一つお願いがあるんです。」
「なんですか?何でも言ってください。」
私はこれから、塔のすべての人に同じお願いをするつもりでいる。
「みんなの食事の用意が終わったら、……どうか、大切な人に会いに行ってください。」
「えっ……。」
「もう、機密を守る必要もないでしょう?だから――。」
――私が、両親ともう会えない代わりに。
「……分かりました。今夜は『あの人』と過ごします。」
口には出さなかったけど、コック長さんは察してくれた。
「でも料理だって、大切なボクの仕事ですから。さ、こいつも楽しんでください!」
そういって差しだしてくれた、最後の「花のおひたし」を、私はお腹いっぱい堪能した。
次に私は、観測室に向かう。
「お疲れ様です。準備はどうですか?」
マスターはこの時も、モニターの前で待って居てくれた。
「はい。全ての工程がおわり、後は最終決定を下すだけです。」
「良かった。じゃあ、その時になったら、お願いします。」
「ええ。お任せください。」
そこへ、観測係さんもやってくる。
「ねぇアンユ。もう少しゆっくりしてからでも良かったんじゃない?」
彼女がこう思うのも当然だけれど、私は決めていた。
「ごめんね、急で。でもね、早く迎えに行ってあげたかったんだ。」
「迎え?」
今の私には、外の桜達の声が聞こえている。
「外の彼らは、長い間、人と言葉を交わすことができなかったから。」
モニターには、地球の水面を覆いつくす、桜の花が映し出されていた。
「これ以上、寂しい思いをさせたくないんだ。」
「そゆことか。……最後までアンユはブレないね。」
「そうかな?」
「うん。……あのさ。」
観測係さんは、少し俯いて、それでもすぐに私の目を見る。
「アンタを憎んでた。なんて言ってごめんね。アンユに出会えて良かった。」
そんなことは、みじんも気にしていなかったけど。
「私も、あなたと友達になれて良かった。」
こうやって、彼女と笑いあえた事は、私の大切な思い出になりそうだと思う。
「あの~、司書さーん?」
私は、彼女の姿が観測室にない事が気になって、図書室へ来た。
「アンユさん。お疲れ様です。」
彼女は、キーボードの前で、データを入力していた。
「何をされてるんですか?もう、記録は無くても良いんですよね?」
「無くても、問題はありません。」
手を止めることなく、彼女は答えた。
「でも、私は最後まで、この世界の全てを記録したいんです。」
「どうしてですか?」
すると、司書さんは私を見る。
「アンユさんはみんなに『最後は大切な人と過ごしてほしい』と言って回ってますよね?」
「はい。」
「それなら、私はこの記録を続けるべきだと思うんです。」
はじめて、司書さんの手が止まる。
「私には、似合わないことに聞こえるかもしれませんが――。」
前置きをして、彼女は言った。
「――こうすることで、誰かに届く気がするんです。」
「誰か?」
「えぇ……。私達が、ここに居たことを知る、誰かに。」
そして、再びキーを叩き始める。
「……そうですね。そうかも知れません。」
私も、そんな気がしている。
「じゃあ、手が空いた時で良いので――。」
だからこそ、お願いしたかった。
「――コック長の料理を食べに行ってあげてください。」
すると、彼女は笑った。
「そうですね。彼の料理は私も好きですから。」
こうして、私はその時を待った。
エピソード40も投稿いたしました。
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