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アンユの日記~Pollen・Allergy・Lover~  作者: 昼場まなと
最終話「最後の対話、そして……」
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最後の対話

エピソード37

 カルラが、実を付けたという報告を受けて、私はすぐにエレベーターに乗った。

今はただの土人形でしかない、ウサギを両手で抱きしめて。


「アンタは一人でこれに乗った時、何を考えてたの?」


 当然ながら返事などないけれど、夢の中と同じように話しかけていた。


「最後に、私は楽しかったって言ったよね?」


 夢の中で。


「アンタはどうだったの?ずいぶん長い間、この塔で暮らしていたんでしょ?」


 その間に、たくさんの人が生まれ、たくさんの人をコイツが見送ってきたはずだった。


「アンタの話も、聞きたかったな……。」


 エレベーターが動きを止めた。




 扉を開き、地下空間を進んで行った。

これまで幾度となく嗅いだ、土のにおいが、この日は一段と強いように感じた。


「初めて来たときは、足元を取られないように必死だったなぁ。」


 私はちょうど2週間前の出来事を、もはや懐かしく感じていた。


「それくらい、色々あったもんね。」


 そうして進むうちに、薄明りに照らされたサクラの大木が見えてきた。

カルラは、最後の木の実を、これまでで一番分かりやすい位置に実らせていた。

それはサクラの群れでも、一番高い所に。

まるで、すべてのサクラを従えて、この実が桜達の総意であると言っているようだった。


「それじゃあ、最後の対話を始めよう。」


 私が「お願い」をするまでもなく、サクラは姿を変えた。

うねり、蠢いて、木の頂上と私の間を繋ぐ。

サクラ達は、巨大な塔のように広く、緩やかな螺旋階段となって、私が進むべき道を示してくれた。

彼らの想いに応えるべく、私は一段一段、しっかりとした足取りで上り、木の実の傍へとやってきた。

手に取り、そして、いつもの言葉を告げる。


「いただきます。」


 私は、いつも以上に一際、紅く輝いたそれに、くちづけた。




 カルラは、光の空間に立っている。


「あのね。今日は、『私の話』をしに来たんだ。」


 彼が口を開く前に、語り掛ける。


「……君の?」


 カルラは、表情を変えることなく、言う。


「そうだよ。これまで、カルラの話や、外のみんなの話はしたけど、私の話はしてなかったでしょ?」

「あぁ、そうだね。」

「だから、聞いてくれる?」


 カルラはゆっくりと頷いてくれた。


「私はね『巴野アンユ』。第八居住区で生まれて、そのまま大学までそこで育った。」


 私が両手を前に広げると、そこに赤い革張りで装丁された一冊の本が現れる。

すでにカギは解き放たれている、その表紙を開くと――。




『 巴野アンユ


 コロニージパング・第八地区所属


 フィメール


 出生22年目




 モニターに私のパスが表示され、移動手続きを進めていく。』




 ――私がこれまで経験してきた物語が記されている。




「『私はこの待ち時間に、地球がたどった歴史に思いをはせては、我々人類の未来を憂いるのだ――。という現実逃避にはまっていた』んだ。」




「『飲みっしょ?いやぁ、良いところあるんスよ、おねぇさん。ネっ?おねぇさん?』なんて言ってウサギが声をかけてきて。コイツはいちいちキメ顔をしてムカつくんだ。」




「『あなたには、人類を救っていただくことになります。』なんて突然言われても、困っちゃうよね。」




「『それでも私は、「私らしく」世界を救おうと思っていた。』だから、頑張ったんだ。」




 私は、その一つ一つをカルラに伝える。




「『まずは鼻を拭くスよ。』なんて笑われたの。意味わかんないトレーニングでしょ?」




「お父さんは『アンユには、良い人は出来たのか?』なんていきなり聞いたけど、私の気持ちに気づいてたからなんだよね。」




「お母さんの『アンユ。これだけは忘れないで。私達は、いつまでも、あなたの味方よ。』ていう言葉が私に勇気をくれたんだ。」



「『やっぱり、アンユッチはそうでないと。ネっ?』これが、最後の言葉なんて、ホント酷いよね。……もっと、声を聞きたかったのに。」




 そして、最後の一行には『私は、いつも以上に一際、紅く輝いたそれに、くちづけた。』と、記されている。




「こうやって、『今』の私がいるの。」


 本を閉じ、カルラを見る。


「この中の一つが欠けても、今の私は居ないの。それは、『カルラ』あなたも同じだと私は思ったんだ。」


 カルラは頷く。


「だから、あなたの答えを聞かせて。私と一緒に、外へ出よう。」


 カルラが、目を閉じる。


「僕が、この前そう言われた時……。思い出したのは罪悪感だった。」


 カルラが最初に抱えていた想い。


「だから、みんなと話をした。……はずだった。」


 そう言うと、カルラは一つ息を吐いて、目を開ける。


「でも、みんなが言うんだ。『カルラはどうしたいんだ。』って。」


 その赤く美しい瞳には、力強い光が灯っている。


「僕は、君と共に在りたい。」


 カルラは微笑む。


「僕は、君と出会って、『カルラ』になったんだ。だから、これからも君と一緒に、世界を紡いで『生きたい』!」




 私は、カルラに向かって歩く。

カルラも私に向かって歩み寄る。


「ありがとう、カルラ。私にあなたの『声』を聞かせてくれて。」

「ありがとう、アンユ。僕に『世界』を見せてくれて。」


 私達は、両手をだして、握り合う。互いの存在を色濃く感じる。

自然と呼吸が重なっていく。私の心臓と、カルラの息吹が繋がっていく。


「カルラ……。私の中に入っておいで。」


 二人の距離がなくなって。

光の中に包まれていく。

 続くエピソードも投稿いたしました。

よろしくお願いいたします。

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