遊び心
エピソード34
身なりと気持ちを整えて、マスターの元へやってきた。
「おかえりなさい、アンユさん。ご実家の方はいかがでしたか?」
「ただいま帰りました。二人とも変わりなくて安心しました。これで、任務にも熱が入りそうです。」
報告を済ませると、ウサギが聞いた。
「それにしても、何でアンユッチはみんなの恋愛話を集めてたんスか?」
マスターから事情を聴いたのだろう。私はこれまで、コック長、マスター、そして両親という3組に馴れ初めを聞いて回った。
「最初は、両親の話が聞きたかったの。私のことをカルラに話すとき、どうやって生まれたのか知ってもらいたかったから。」
「なるほど。」
「マスターとコック長は話の流れだったけど。でも、結果として面白い話が用意できたからいいかなって。」
正直に話すと、マスターはガクっと大げさに肩を落とした。
「ま、まぁ。対話に貢献できたなら良かったです。カルラ君も、対話の準備は出来ているようですが、いかがなさいますか?」
カルラの準備とは即ち、新しい実を付けたという事だろう。
「それじゃあ、午後に対話しようと思います。皆さんも準備をお願いいたします。」
私は、観測室の皆さんに頭を下げた。
その後私は、休憩室でこれまでの話をどうカルラに伝えるか、考えていた。
そこへ、準備を終えたであろう観測係さんがやってきた。
彼女は、お茶を入れると、私の正面に座った。
「はぁ……。また、『アレ』を見せられるの?」
アレとは当然、イチャつきの事だろう。
「いや、今回はそうはならない予定ではいるよ?」
「ならいいけどさ。なんか考えでもあるの?」
「考えっていうほどじゃないんだけどさ……。」
私は、カルラと私が、どういう関係になるべきなのかを考えていた。
この想いに答えが出せず、続く言葉を出せずにいると。
「こういう事、言えた立場じゃないけどさ――。」
と、観測係さんは、私の気持ちを後押しするように言った。
「――前回の『アレ』を見せられて、みんなの意識って変わった気がするんだよね。」
彼女は手にしたコップの中を見つめていた。
私もつられ、彼女の手の方をぼんやりと見ていた。
「これまで私達は、サクラをどこか『自分たちとは違う存在』として認識してた気がするんだ。だけど、アンユが彼を、一緒に世界を救う仲間にしたっていうか。」
私の視線に気づくと、彼女は顔を上げ笑いかけた。
「ま、なんだかんだ言って、あたしもアンユの恋の行方が気になるしね。」
「そういうんじゃないから。」
仲間……か。
この言葉は、私の中の感覚を的確に言語化してくれていた。
それなら、私のやるべきことはハッキリしている。
彼女の言葉にヒントを得て、私は対話へ向かっていった。
「さ、今日もよろしくね。」
もう何度目になるのか、いつもの暗闇の中、木に触れて語り掛けた。
「あれ?今日はどこに実を付けたの?」
彼の足元から、ザっと見回しても、赤い色が見えなかった。
私は、彼の周りを散歩でもするように、後ろ手に組んで歩き出した。
こうしている間にも、花びらはヒラヒラと一片ずつ舞い降りていた。
なんとなく、地面に落ちた花びらを踏まないように気を付けながら、私は彼の傍を踊る様にしながら周って行った。
「あ!あった。」
よくよく目を凝らしてみると、サクラの束の中心付近にひときわ赤い影があった。
「なに?意地悪でもしたつもり?」
これは、カルラの遊び心に違いなかった。
「いいですよ~。そっちがその気なら、私だってみんなに手伝ってもらうから。」
私は両手を広げて、空に向かって息を吹く。
すると、地面に広がっていた花びらたちは、私を取り囲むように渦を巻いた。
そのまま私も一つになって、空へと浮かび、この子たちと一緒に、くるくる回りながら木の実へ向かって舞い上がる。
花が咲く境界へ着くころには、その木に付いた花たちも道を開けて、私は木の中に出来た丸い部屋の中へ吸い込まれて行った。
そうして、サクラの内部に、私と赤い実だけがいる広場が出来上がった。
一面サクラのホールを歩いて、私は実を手にした。
そして、薄紅色の床に寝転がると、眠る様に木の実に口をつけた。
「いただきます。」
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