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アンユの日記~Pollen・Allergy・Lover~  作者: 昼場まなと
第七話「四度目の対話」
35/42

遊び心

エピソード34

 身なりと気持ちを整えて、マスターの元へやってきた。


「おかえりなさい、アンユさん。ご実家の方はいかがでしたか?」

「ただいま帰りました。二人とも変わりなくて安心しました。これで、任務にも熱が入りそうです。」


 報告を済ませると、ウサギが聞いた。


「それにしても、何でアンユッチはみんなの恋愛話を集めてたんスか?」


 マスターから事情を聴いたのだろう。私はこれまで、コック長、マスター、そして両親という3組に馴れ初めを聞いて回った。


「最初は、両親の話が聞きたかったの。私のことをカルラに話すとき、どうやって生まれたのか知ってもらいたかったから。」

「なるほど。」

「マスターとコック長は話の流れだったけど。でも、結果として面白い話が用意できたからいいかなって。」


 正直に話すと、マスターはガクっと大げさに肩を落とした。


「ま、まぁ。対話に貢献できたなら良かったです。カルラ君も、対話の準備は出来ているようですが、いかがなさいますか?」


 カルラの準備とは即ち、新しい実を付けたという事だろう。


「それじゃあ、午後に対話しようと思います。皆さんも準備をお願いいたします。」


 私は、観測室の皆さんに頭を下げた。




 その後私は、休憩室でこれまでの話をどうカルラに伝えるか、考えていた。

そこへ、準備を終えたであろう観測係さんがやってきた。

彼女は、お茶を入れると、私の正面に座った。


「はぁ……。また、『アレ』を見せられるの?」


 アレとは当然、イチャつきの事だろう。


「いや、今回はそうはならない予定ではいるよ?」

「ならいいけどさ。なんか考えでもあるの?」

「考えっていうほどじゃないんだけどさ……。」


 私は、カルラと私が、どういう関係になるべきなのかを考えていた。

この想いに答えが出せず、続く言葉を出せずにいると。


「こういう事、言えた立場じゃないけどさ――。」


 と、観測係さんは、私の気持ちを後押しするように言った。


「――前回の『アレ』を見せられて、みんなの意識って変わった気がするんだよね。」


 彼女は手にしたコップの中を見つめていた。

私もつられ、彼女の手の方をぼんやりと見ていた。


「これまで私達は、サクラをどこか『自分たちとは違う存在』として認識してた気がするんだ。だけど、アンユが彼を、一緒に世界を救う仲間にしたっていうか。」


 私の視線に気づくと、彼女は顔を上げ笑いかけた。


「ま、なんだかんだ言って、あたしもアンユの恋の行方が気になるしね。」

「そういうんじゃないから。」


仲間……か。


 この言葉は、私の中の感覚を的確に言語化してくれていた。

それなら、私のやるべきことはハッキリしている。

彼女の言葉にヒントを得て、私は対話へ向かっていった。




「さ、今日もよろしくね。」


 もう何度目になるのか、いつもの暗闇の中、木に触れて語り掛けた。


「あれ?今日はどこに実を付けたの?」


 彼の足元から、ザっと見回しても、赤い色が見えなかった。

私は、彼の周りを散歩でもするように、後ろ手に組んで歩き出した。

こうしている間にも、花びらはヒラヒラと一片ずつ舞い降りていた。

なんとなく、地面に落ちた花びらを踏まないように気を付けながら、私は彼の傍を踊る様にしながら周って行った。


「あ!あった。」


 よくよく目を凝らしてみると、サクラの束の中心付近にひときわ赤い影があった。


「なに?意地悪でもしたつもり?」


 これは、カルラの遊び心に違いなかった。


「いいですよ~。そっちがその気なら、私だってみんなに手伝ってもらうから。」


 私は両手を広げて、空に向かって息を吹く。

すると、地面に広がっていた花びらたちは、私を取り囲むように渦を巻いた。

そのまま私も一つになって、空へと浮かび、この子たちと一緒に、くるくる回りながら木の実へ向かって舞い上がる。


 花が咲く境界へ着くころには、その木に付いた花たちも道を開けて、私は木の中に出来た丸い部屋の中へ吸い込まれて行った。

そうして、サクラの内部に、私と赤い実だけがいる広場が出来上がった。

一面サクラのホールを歩いて、私は実を手にした。

そして、薄紅色の床に寝転がると、眠る様に木の実に口をつけた。


「いただきます。」

 次のエピソードも投稿いたしました。

よろしくお願いいたします。

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