習慣
エピソード33
翌日、私は日が昇るより早く、キッチンに立っていた。
我が家では、一番早く起きた者が全員分の朝食を作ることが暗黙となっていた。
だから、この日は私が誰よりも早く起きると決めていた。
昨日の残り物からサラダとスープを作り、後はトーストと目玉焼きを簡単に焼いた。
両親のトーストは、各々でやってもらおうと、一人で早めの朝食を摂り。
置手紙を残して、家を出ようとしていた。
そして、部屋から荷物を持ち、玄関に向かおうとした時、私の手紙を持った母と出くわしてしまった。
「こんなに早く出るつもりだったの?」
「あぁ、起こしちゃった?仕事があるから、もう行かなきゃいけないんだ。」
もちろん嘘だった。顔を見たら、いつまでもここを離れられなくなりそうだったから。
「アンユって本当に、嘘つくの下手ね。そゆとこ、父さん似ね。」
母でなくとも、簡単に見抜かれていたのだろう。
だって、私の顔は、自分でも分かるほど引きつっていたから。
「それでも、挨拶くらいしてくれてもいいでしょう?こんな紙切れ一枚じゃお母さん寂しくなっちゃう。」
母は、私が置き書きをした、簡単な別れの言葉をひらひらとさせた。
「なによ、この『お父さんと仲良くしてね。』って。言われなくてもそうしてます。」
「うん。……そうだよね。」
「あのね。アンユ――。」
言いながら、母はそっと近づき、私を優しく抱きしめた。
「――あなたがきっと、大切なことをやろうとしていて、その為に、母さん達には言えないことがあって。それを気に病んでいたこと、私達ちゃんと分かってる。」
「うん。」
私はもう、自分の気持ちを隠すことはしなかった。したくなかった。
「でもね、私達のことは、私達で何とかするから。あなたはあなたが信じたものの為に頑張りなさい。」
「うん。……頑張る。」
枷から放れた私の感情が、頬を伝って、母の肩を濡らしていく。
「アンユ。これだけは忘れないで。私達は、いつまでも、あなたの味方よ。」
母は、私のあふれる想いを、いつまでも受け止めてくれていた。
「それじゃあ、行ってきます。」
ひとしきり泣いて、スッキリとした気持ちで家を出た。
「行ってらっしゃい!」
母は外に出て、いつまでも私に手を振っていた。
私もなんども振り返り、手を振り返しては、一歩ずつ進んでいった。
小さな頃、何度も繰り返していたこの習慣の本当の意味に、私はやっと気が付いた。
私がもし、振り返ることをやめても、きっと母は手を振り続けてくれている。
私に、いつでも帰る場所があることを伝えるために。
「もう少し、ゆっくりしても良かったんスよ?」
センタータワーに戻ると、ウサギが真っ先に出迎えてくれた。
「いいの。これ以上居たら、ここに戻ってこれなくなりそうだったから。」
「その時は、オイラが引っ張ってでも連れてきましたけど、とりあえず――。」
ウサギは鏡を取り出した。
「――みんなに会う前に、その顔をどうにかした方が良いスよ。」
涙の別れで、私のメイクは崩れに崩れ、大変なことになっていた。
「え……私これで0区まで歩いて来てたの?」
「そういう意味では、早朝に出てきて良かったスね。」
ケタケタと笑うウサギを見て、私も一緒になって笑ってしまった。
「ていうかアンタ、デリカシーなさすぎ。もっとうまく気づかせなよ。」
「えぇー、一番わかりやすいじゃないスかぁ。」
こうして、私は再び、この場所に「帰って」きた。
続きのエピソードも投稿いたしました。
よろしくお願いいたします。




