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アンユの日記~Pollen・Allergy・Lover~  作者: 昼場まなと
第七話「四度目の対話」
34/42

習慣

エピソード33

 翌日、私は日が昇るより早く、キッチンに立っていた。

我が家では、一番早く起きた者が全員分の朝食を作ることが暗黙となっていた。

だから、この日は私が誰よりも早く起きると決めていた。

昨日の残り物からサラダとスープを作り、後はトーストと目玉焼きを簡単に焼いた。


 両親のトーストは、各々でやってもらおうと、一人で早めの朝食を摂り。

置手紙を残して、家を出ようとしていた。

そして、部屋から荷物を持ち、玄関に向かおうとした時、私の手紙を持った母と出くわしてしまった。


「こんなに早く出るつもりだったの?」

「あぁ、起こしちゃった?仕事があるから、もう行かなきゃいけないんだ。」


 もちろん嘘だった。顔を見たら、いつまでもここを離れられなくなりそうだったから。


「アンユって本当に、嘘つくの下手ね。そゆとこ、父さん似ね。」


 母でなくとも、簡単に見抜かれていたのだろう。

だって、私の顔は、自分でも分かるほど引きつっていたから。


「それでも、挨拶くらいしてくれてもいいでしょう?こんな紙切れ一枚じゃお母さん寂しくなっちゃう。」


 母は、私が置き書きをした、簡単な別れの言葉をひらひらとさせた。


「なによ、この『お父さんと仲良くしてね。』って。言われなくてもそうしてます。」

「うん。……そうだよね。」

「あのね。アンユ――。」


 言いながら、母はそっと近づき、私を優しく抱きしめた。


「――あなたがきっと、大切なことをやろうとしていて、その為に、母さん達には言えないことがあって。それを気に病んでいたこと、私達ちゃんと分かってる。」

「うん。」


 私はもう、自分の気持ちを隠すことはしなかった。したくなかった。


「でもね、私達のことは、私達で何とかするから。あなたはあなたが信じたものの為に頑張りなさい。」

「うん。……頑張る。」


 枷から放れた私の感情が、頬を伝って、母の肩を濡らしていく。


「アンユ。これだけは忘れないで。私達は、いつまでも、あなたの味方よ。」


 母は、私のあふれる想いを、いつまでも受け止めてくれていた。




「それじゃあ、行ってきます。」


 ひとしきり泣いて、スッキリとした気持ちで家を出た。


「行ってらっしゃい!」


 母は外に出て、いつまでも私に手を振っていた。

私もなんども振り返り、手を振り返しては、一歩ずつ進んでいった。

小さな頃、何度も繰り返していたこの習慣の本当の意味に、私はやっと気が付いた。

私がもし、振り返ることをやめても、きっと母は手を振り続けてくれている。

私に、いつでも帰る場所があることを伝えるために。




「もう少し、ゆっくりしても良かったんスよ?」


 センタータワーに戻ると、ウサギが真っ先に出迎えてくれた。


「いいの。これ以上居たら、ここに戻ってこれなくなりそうだったから。」

「その時は、オイラが引っ張ってでも連れてきましたけど、とりあえず――。」


 ウサギは鏡を取り出した。


「――みんなに会う前に、その顔をどうにかした方が良いスよ。」


 涙の別れで、私のメイクは崩れに崩れ、大変なことになっていた。


「え……私これで0区まで歩いて来てたの?」

「そういう意味では、早朝に出てきて良かったスね。」


 ケタケタと笑うウサギを見て、私も一緒になって笑ってしまった。


「ていうかアンタ、デリカシーなさすぎ。もっとうまく気づかせなよ。」

「えぇー、一番わかりやすいじゃないスかぁ。」


 こうして、私は再び、この場所に「帰って」きた。

 続きのエピソードも投稿いたしました。

よろしくお願いいたします。

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