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アンユの日記~Pollen・Allergy・Lover~  作者: 昼場まなと
第七話「四度目の対話」
33/42

エピソード32

 夜も更けていき、床に就く支度をした。

しかし、眠るにはやや早いように感じて、「飲み物でも貰おうか」と、リビングへ下りると。


「お父さん、本なんて読むんだ?」


 父は一人、今時珍しい紙媒体での読書をしていたところだった。


「意外か?配達の休憩中なんか、こういうものでもあると落ち着くんだよ。」


 思えば、この家にある書斎は結構な貯蔵数だったのかもしれない。

私が、歴史に興味を持つようになったのも、父の書斎でそれらの書物を目にしていたことが影響していたのかもしれないな。と、あらためて自分のルーツを考えさせられた。


「どうした?眠れないのか?」


 物思いにふけり、黙っていたことが気になったのか、父は読みかけの本を閉じて、私の方に向き直った。


「いや、そう言うわけじゃないけど。」


 せっかくだし、父と話すのも悪くない。

母は、私達と夕飯を食べた後、いつものお店に顔を出してくる、と0区に出かけていた。


「なら、少し二人で飲むか?母さんにも内緒にしてたんだけどな――。」


 と、言いながら、父は書斎に入っていった。少しすると、その手には何やら年代物であろう、お酒の瓶があった。


「ちょっと、0区外での飲酒は禁止でしょ?ていうかどうやって持ち込んだの!?」

「はは、配送屋ならではの方法ってのがあるんだなぁ。」


 父は、二人分のグラスを用意すると、手慣れた様子でボトルを開けて、その褐色の液体の片方を私にくれた。

なんでも、取引先からいただいた、とても良いブランデーなんだとか。

父はそれを、配送途中に自宅へ運び入れたらしかった。


「あ、しまった。アンユは政府の人間なんだっけか?」

「いや、私にそんな権力無いから。」

「ならよかった。それじゃ、乾杯。」


 父はグラスを軽く上げた。


「あぁ、うん。乾杯。」


 習う様に、私も掲げて、口をつけた。

その琥珀色は、グラスの肌を滑らかに滑り、口の中へ入ると、豊かな木の香りと甘さを私の舌に伝えてくれた。


「ふっふっふ。これでアンユも共犯だな。」


 鬼の首でも獲ったかのようなしたり顔で、父も口へ運んだ。


「良いけど、ほどほどにしときなよ?」


 父の身を案じたことで、私はこの先、コロニーに起こるであろう状況を考えた。


その時には、両親も当然……。


「あのね……、お父さん――。」


 思わず、私は計画について打ち明けてしまおうかと、意識した途端。


「アンユには、良い人は出来たのか?」


 私の言葉を打ち消すように、父は聞いた。


「え!?……いい人って。そんなのいないよ。」


 とっさにの言葉に、カルラの顔が浮かんだ気もするが、少なくとも今はそんな関係ではないと思い当たり。そう答えた。


「そうか。てっきり今回はそういう報告でもしに帰ってきたのかと思ってたんだが。」

「全然、そんなのじゃないから。というか、お父さんはそういう話が聞きたかったの?」

「そうだな――。」


 一言つぶやいてから、父は再びグラスに口をつけた。


「――思うところがないわけじゃないが……、なんというか、父さんはそれが使命だと思って生きてきたから、かな。」

「使命?」

「アンユが生まれた時、母さんに抱かれたお前を見たときにな、父さん思ったんだよ。」


 父は、グラスを回して、揺れるアルコールの軌跡を眺めながら言った。


「俺は、この為に生まれてきたんだ。って。」

「私を生むためってこと?」


 コロニーは、私を産み出すために造られた。そのことを父も本能的に感じ取ったのかもしれないと思ったのだが。


「う~ん。それ以上に、もっと、継続的な想いだな。いうなれば――。」


 彼は、グラスを叩く掲げて、リビングの明かりを透かすように見た。


「――また一つ、人類の歴史を、次の世代につなぐことができたんだ。なんて、今読んでる歴史小説に影響されすぎか。」


 そういって、私を振り返り、笑ってはまた一口、ブランデーを口に含んだ。

私もつられて、グラスを傾ける。

先ほどは感じていなかった。いや、感じようとしていなかった、そのアルコールが歩んだ年月を、口の中いっぱいに体感したような気がした。


「俺たちはもう、次へ繋いだ存在だ。それはとても幸せな体験だったんだ。だから、アンユにもその幸せを繋げて欲しい。なんていうのはお節介かね?」

「ふふっ、ホントに小説みたいに話すね。」


 やや芝居がかった父の話口に、自然と笑みがこぼれていた。


「まぁ、アンユの人生はもう、アンユのものだから。そうだな、アンユらしく、幸せを繋げて欲しいとは思うよ。」


 この時確かに、私は父の想いを受け取った。

彼もまた、私が私らしくあることを望んでくれている。

だから、私は、私のできるやり方で、「次」へ繋ぐことを決意した。


 私は残りのブランデーを一気にあおると。


「話せてよかった。明日も早いから、もう寝るね。ご馳走様。」


 と、立ち上がった。


「なんだもう良いのか?なら、これは飲みきるまでしばらくもつな。」


 父がボトルを閉める仕草をみて、私の中にイタズラ心が沸き上がった。


「あ、仕事を思い出した。」


 私は、言いながらボトルを取り上げると、驚く父を見下ろした。


「このお酒は違法なので取り上げます!」

「そんなぁ~。」


 残念そうにうなだれる父の前に、ボトルを置くと。


「見逃してほしければ、近日中に、お母さんとも一緒に飲んでね。」


 父は、「ははあ~」と、大げさに両手を上げて頭を下げた。

私が笑うと、父も一緒になってガハハと笑った。

幼いころから何度もみた、父の笑顔を、私は目に焼き付けた。


「それじゃ、おやすみなさい。」

「あぁ、おやすみ。アンユ。」

 次のエピソードも投稿いたしました。

よろしくお願いいたします。

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