秘密
エピソード30
「いや~、いい話を聞かせてもらいました。」
「ははっ……楽しんでもらえたなら良かったですよ。」
コック長はぐったりしていた。
今でも二人は、食材調達のわずかな時間の逢瀬を楽しんでいるのだという。
「でも、それってこの先、大変じゃないですか?」
でも計画が終われば、塔の機密もなくなるのか?
そう考えると、二人は顔を見合わせて、神妙な面持ちとなった。
「アンユさん。計画の最終段階のことは、すでに耳にされていますね?」
「はい。私が月に行って、世界を書き換えるんですよね?」
あれ?その時、この世界はどうなるんだ?
「ことが為されたとき、その瞬間に、世界は『元からそうだった』という形に作り替えられることになります。」
「それって、……ここでの出来事がなかった事になるってことですか?」
「そういった考え方もあるかもしれません。しかし、それ以前にアンユさんには知っておいていただきたいことがあるんです。」
マスターは、私の目を見据えた。
「このドームの外が、どのようになっているか分かりますか?」
「それは、桜が蔓延していて……。でもそれは私が制御しますよね?」
「その時、ドームは開かれることになりますが、我々が彼らを水没させるためには何をしたでしょうか?」
マスターの問いに、これまで聞いた話を思い起こす。
南極の氷をすべて溶かし、それでも足りない分は――。
「……あっ。」
「お分かり、いただけたでしょうか。」
ドームの外には、大気が存在していない。
つまり、それが開かれたとき、コロニー内部はもはや、人が暮らせる環境でなくなることを意味していた。
「我々はすでに、そうなるしか道は残されていないのです。」
「そんな……。」
「ですが、こう考えてみてください。その後、アンユさんが世界を書き換えることにより、そうなる世界を変えることができると。」
この話は、両親にも秘密にしなければならない、機密事項として扱われていた。
私は、自分がいかに考えずにいたのか。
そしてこれから、両親と会うことが、何を意味しているのか。
改めて、受け止める必要があった。
「おかえりなさい!」
実家に帰り、笑顔で出迎えてくれた母を見て、私はなんとか笑顔をつくった。
「ただいま!いやー、数日しかたってないのになんか久し振りな気がするー。」
この日、私が帰ることはあらかじめ両親に伝えられていたらしく、二人は仕事を休んで支度してくれていた。
これまで何度も開けたはずの扉を開いて、リビングに入ると、父は新聞から目を離すこともなく――。
「おう、おかえり。」
――と言っていたが、その仕草は平静を装っていることがバレバレだった。
「お父さん。ただいま。」
その態度に、私の心は和らいだ。
「今日は泊まっていけるんだって?」
「うん。朝にはすぐ帰らないといけないんだけどね。」
「それなら、新しい仕事についてもゆっくり話せそうだな。」
などと、「本当は仕事のことより言いたいことが沢山あるんだぞ。」という裏返しの言葉を言っていた。
「さっきまで大変だったのよ?」
母は、テーブルにお茶を持ってきてくれた。
「今日の夕飯は何にしたらいいか?とか、飲み物の準備は足りてるか?とか、邪魔だから座っててって言ってようやく澄ました顔になったの。」
「お、おい、バラさないでくれよ。」
という、もはや懐かしさを感じる、いつも通りの会話を聞いて、私は「本当に帰ってきたんだな。」と実感していた。
続きとなりエピソードも投稿いたしました。
よろしくお願いいたします。




