客観的に
エピソード28
「なんていうか。見てられなかった。」
いつものように対話を終えて、観測室へ戻ると、観測係さんにいきなり声を掛けられた。
「ん?どうしたんですか?」
「……自覚なし、と。」
「え、まって?私何かしちゃいました?」
慌てて周りをきょろきょろすると、心なしかスタッフのみんながよそよそしいような気がした。
というか、なぜかみんな目を逸らして、顔を赤くしている人までいるようだ。
「うん。まぁ、分かんないなら良いんじゃないかな?とりあえず報告行ってきな。」
そう言うと、観測係さんは自分のデスクに戻ってしまった。
言われるまま、マスターとウサギの元へ行くと。
「あー、アレっスね。端から見るとこういう風に映るんスね。」
と、ウサギも困ったような様子だった。
「えーっと。……何か問題ありましたか?」
恐る恐るマスターに聞くと。
「そう……ですね、対話自体には問題は無かったと思います。はい。」
どこか歯切れの悪い反応が返ってきた。
「失礼します。対話を文書化した記録ができましたので、確認をお願いいたします。」
と、いつもと変わらない調子で、司書さんが現れた。
この様子の司書さんならば、私の疑問に答えてくれそうだと思い。
「あの!みんなどうしたんでしょうか?」
すがる思いで司書さんに泣きつくと、彼女は冷静なまま答えてくれた。
「そうですね。こちらの記録をアンユさんにも読んでいただければ、伝わるかと思いますが、端的に申し上げますと――。」
そう言って、データを巨大モニターに表示する。
そこには今回の私とカルラの体験が、事細かに描写されていた。
客観的に書かれたその様子を読み進めていくうちに、みんなの態度がいつもと違う原因に思い当たる。
「――皆さんは、若いカップルがイチャイチャする光景を前に、『いったい何を見せられてるんだ?』という気持ちになったからだと思われます。」
冷静に分析されると、それはそれで恥ずかしい!!
「い、いや、私だって、そんなつもりは無いというか。彼らの情報を引き出せないか、必死だったわけで。というかアレはカルラの方から――。」
なんとか取り繕おうとするが、言い訳を並べる度に、自分でも「そう」にしか見えないことに気づいて、余計に顔も熱くなっていった。
違う、私はそんなことないはずだ。違うよな?きっと違う。おそらく、たぶん、ぱーはっぷす。
「とりあえず、対話に問題はなかったという事なので、私は午後のトレーニングに向かおうと思います!はい。それではっ!!」
自分の中に芽生えた混乱を、誤魔化すようにまくしたてると、私は逃げるように観測室を後にした。
部屋の扉が閉じる直前、中からドッと笑いが起きた。なんてことはないと思い込むことにした。
当然のことながら、そのまま行ったボイストレーニングに身が入るわけもなく。
私はただ、モヤモヤとした感情を抱えたまま、ただ時間が流れて行った。
むぅ。覚えとけよ。……明日はみんなのコイバナをかき集めてやるから覚悟しろ。
翌日の一時帰省と、マスター達との約束を思い、この日は布団に頭をうずめた。
私は、焚火をしていた。
何本かの木組みが燃えていて、小さな炎が消えそうになりながらも、なんとか揺らめいていた。
私が足元に落ちている焚き木をくべると、炎はほんのしばらく勢いを増して、落ち着くとまた、一塊の火となって燃えた。
「君は、何をしているんだ?」
火の奥に座る人が聞いた。
「なにって、火があったから薪を入れてみただけだよ。」
顔の見えない相手に向かって答えた。
「なぜ、あなたはそんなことをしているの?」
「なんでだろう?……なんとなく?」
特に考えがあっての行動ではないことを正直に話した。
「いつまで続ける?」
声の主が、木の枝を火にくべる。
「分からないけど、消えちゃうのはもったいない気がするから、しばらく続けてみようかな?」
私も続いて薪を入れると、火の大きさが一段大きくなった。
「お前は、火が怖くはないのか?」
「もちろん大きいのは怖いけど。これくらいならむしろ落ち着くよ。」
ぱちぱちと音を立て、ゆらゆらと昇る明かりに両手をかざした。
私の手の甲は影となって、輪郭だけが炎を透かすように輝いた。
「もう少し、焚き木を集めて来ようか。」
言いながら相手が立ち上がった。
「ありがとう、それじゃあ私は火が消えないよう見ておくね。」
「よろしく、頼んだよ。」
影が闇に飲まれる寸前になって、私はあの人に見覚えがあることを思い出した。
エピソード29も投稿いたしました。
エピソード29から第七話が始まります。
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