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アンユの日記~Pollen・Allergy・Lover~  作者: 昼場まなと
第六話「三度目の対話」
29/42

客観的に

エピソード28

「なんていうか。見てられなかった。」


 いつものように対話を終えて、観測室へ戻ると、観測係さんにいきなり声を掛けられた。


「ん?どうしたんですか?」

「……自覚なし、と。」

「え、まって?私何かしちゃいました?」


 慌てて周りをきょろきょろすると、心なしかスタッフのみんながよそよそしいような気がした。

というか、なぜかみんな目を逸らして、顔を赤くしている人までいるようだ。


「うん。まぁ、分かんないなら良いんじゃないかな?とりあえず報告行ってきな。」


 そう言うと、観測係さんは自分のデスクに戻ってしまった。

言われるまま、マスターとウサギの元へ行くと。


「あー、アレっスね。端から見るとこういう風に映るんスね。」


 と、ウサギも困ったような様子だった。


「えーっと。……何か問題ありましたか?」


 恐る恐るマスターに聞くと。


「そう……ですね、対話自体には問題は無かったと思います。はい。」


 どこか歯切れの悪い反応が返ってきた。


「失礼します。対話を文書化した記録ができましたので、確認をお願いいたします。」


 と、いつもと変わらない調子で、司書さんが現れた。

この様子の司書さんならば、私の疑問に答えてくれそうだと思い。


「あの!みんなどうしたんでしょうか?」


 すがる思いで司書さんに泣きつくと、彼女は冷静なまま答えてくれた。


「そうですね。こちらの記録をアンユさんにも読んでいただければ、伝わるかと思いますが、端的に申し上げますと――。」


 そう言って、データを巨大モニターに表示する。

そこには今回の私とカルラの体験が、事細かに描写されていた。

客観的に書かれたその様子を読み進めていくうちに、みんなの態度がいつもと違う原因に思い当たる。


「――皆さんは、若いカップルがイチャイチャする光景を前に、『いったい何を見せられてるんだ?』という気持ちになったからだと思われます。」


冷静に分析されると、それはそれで恥ずかしい!!


「い、いや、私だって、そんなつもりは無いというか。彼らの情報を引き出せないか、必死だったわけで。というかアレはカルラの方から――。」


 なんとか取り繕おうとするが、言い訳を並べる度に、自分でも「そう」にしか見えないことに気づいて、余計に顔も熱くなっていった。


違う、私はそんなことないはずだ。違うよな?きっと違う。おそらく、たぶん、ぱーはっぷす。


「とりあえず、対話に問題はなかったという事なので、私は午後のトレーニングに向かおうと思います!はい。それではっ!!」


 自分の中に芽生えた混乱を、誤魔化すようにまくしたてると、私は逃げるように観測室を後にした。

部屋の扉が閉じる直前、中からドッと笑いが起きた。なんてことはないと思い込むことにした。




 当然のことながら、そのまま行ったボイストレーニングに身が入るわけもなく。

私はただ、モヤモヤとした感情を抱えたまま、ただ時間が流れて行った。


むぅ。覚えとけよ。……明日はみんなのコイバナをかき集めてやるから覚悟しろ。


 翌日の一時帰省と、マスター達との約束を思い、この日は布団に頭をうずめた。




 私は、焚火をしていた。

何本かの木組みが燃えていて、小さな炎が消えそうになりながらも、なんとか揺らめいていた。

私が足元に落ちている焚き木をくべると、炎はほんのしばらく勢いを増して、落ち着くとまた、一塊の火となって燃えた。


「君は、何をしているんだ?」


 火の奥に座る人が聞いた。


「なにって、火があったから薪を入れてみただけだよ。」


 顔の見えない相手に向かって答えた。


「なぜ、あなたはそんなことをしているの?」

「なんでだろう?……なんとなく?」


 特に考えがあっての行動ではないことを正直に話した。


「いつまで続ける?」


 声の主が、木の枝を火にくべる。


「分からないけど、消えちゃうのはもったいない気がするから、しばらく続けてみようかな?」


 私も続いて薪を入れると、火の大きさが一段大きくなった。


「お前は、火が怖くはないのか?」

「もちろん大きいのは怖いけど。これくらいならむしろ落ち着くよ。」


 ぱちぱちと音を立て、ゆらゆらと昇る明かりに両手をかざした。

私の手の甲は影となって、輪郭だけが炎を透かすように輝いた。


「もう少し、焚き木を集めて来ようか。」


 言いながら相手が立ち上がった。


「ありがとう、それじゃあ私は火が消えないよう見ておくね。」

「よろしく、頼んだよ。」


 影が闇に飲まれる寸前になって、私はあの人に見覚えがあることを思い出した。

 エピソード29も投稿いたしました。

エピソード29から第七話が始まります。

よろしくお願いいたします。

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