はじまり
エピソード27
はじまりは、小さな小さな『粒』だった。
大きな海原を漂い、空から海中に届く光を食べて、酸素を吐き出していた。
『私』はただ、海の流れに身を委ねて。
その広大な世界を感じながら、ぱくぱくと光を食べては酸素を吐き出していた。
やがて、その酸素を使って「動くもの」が生まれた。
彼らは私達を食べて、私達は食べられることで、知る世界を広げることができるようになった。
知ったことで、私達の住処も広くなった。
海の外には、地上があった。
私達は地上にも仲間を増やし、動くものもまた、私達に続くように地上で暮らし始めるようになった。
私達の中にも、争いが生まれることがあった。
地上の私達は葉をつけるようになり、その葉を足元に落しては栄養とする自給自足を始めたのだが。
ある時、その葉が海に流れ着き、海に住む私達が大きく勢力を伸ばしたのだ。
海の私達は海面を覆って、その結果、海中のエネルギーが大きく変動して、海の動くものを絶滅に追いやってしまう事にもなってしまった。
私達はその事から学び、成長して、地上の動く者たちの成長を促したりもした。
地上には、昆虫と呼ばれる動くもの達が、大きな羽を広げて空を舞うようになっていった。
しかし、世界には「火の時代」が到来した。
地上のあちこちで岩を噴き上げては炎が生まれ、その炎は私達が生み出した酸素を消費しつくしていった。
火の時代は長く続いたが、その中でも次々と動くもの達は生まれ、地上の覇権を争っては消えていった。
そして、そんな火の時代も終わりを迎えることになる。
地上の覇権を「恐竜」が握っていた頃。
突如として、巨大な光の矢が空から降ってきたのだ。
その「インドラの矢」は大地を穿ち、大地には火の雨が降り続けることになった。
火の雨は降りやむことを知らず、やがてその熱を失ってなお、石の雲として世界を覆った。
恐竜たちは死滅していったが、その空いた座席を埋めるように、新たな動くものも生まれ、命を繋いでいった。
「こうして、アンユ達『人類』へと、世界は繋がっていったんだ。」
カルラが頭を離すと、私の意識もまた帰ってきた。
「カルラ達は、ずっと私達のそばにいてくれてたんだ……。」
私はこの壮大な物語を、自分の体験として得られたことに感動していた。
「これって凄いよ!スゴく凄い!!」
「まぁ、これは『僕』ではなく、『我ら』の記憶って言ったほうが正しいかもしれないが。」
私の想いが溢れて、カルラも照れくさそうに喜んでいた。
「それじゃ、次はカルラの話をしてよ!」
「僕……。」
「そう。あなた達じゃなくて『カルラ』が見たもの。」
カルラの顔は暗くなった。
私は、覚悟のうえでカルラに迫っていた。
これまでの経緯から、カルラ自身の経験は、壮絶なものであったに違いないということは想像がついていた。
しかし、それでも――。
私は立ち上がり、カルラの目を見て言った。
「私もね、……あなたの気持ちを受け止めたいの。」
「……あまり、楽しいものとは思えないが。」
言いながら、カルラは胸に手を当て跪き、ゆっくりと目を閉じた。
「大丈夫だよ。私は楽観主義者なのです。」
今度は、私がカルラへ向かって、額を合わせた。
カルラが最初に持っていたもの。
それは、「罪」という概念だけだった。
やがてそれは自責へと変わり、カルラの体を縛り付ける「呪い」となった。
カルラの周りではコロニーの建設が進み、その体そのものも闇の中に飲まれていった。
闇の中、それでもカルラはじっと耐えていた。
仲間の想いを繋ぐため、贖罪を果たす為。
ただ一つ、残された希望、人類が、彼らの言葉を解するその時だけを信じて。
そしてついに、暗闇を切り裂いて、扉が開くように光が差し込む。
光は広がり、世界そのものを輝きに変える。
その光の扉から、近づいて来る人影。
それは、目を見開いて、馬鹿みたいに口の周りを果汁で汚した私だった。
「ちょっと!私こんな顔してたの?」
「実を食べた後の顔なんてこんなものだろう?」
「言ってよ!!」
「いやまぁ、ヒトというのはこういうものかと思っていたから。」
「違うから!いい?こういうのはすぐにハッキリ言ってもらった方がダメージが少ないの、今後こういうことがあったらすぐ教えるように。」
はぁ、私はこんな時でも締まらないのか。
それでも、私は、カルラの想いを受け止めて。
「あのね、カルラ――。」
私は、カルラも救えることが嬉しかった。
「――私は、あなたと一緒に世界を救ってみせるよ。」
対話の終わりがやってくる。
その最後まで、カルラが笑顔でいてくれたことを、私は誇りに感じていた。
次のエピソーも投稿済です。
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