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アンユの日記~Pollen・Allergy・Lover~  作者: 昼場まなと
第六話「三度目の対話」
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はじまり

エピソード27

 はじまりは、小さな小さな『粒』だった。

大きな海原を漂い、空から海中に届く光を食べて、酸素を吐き出していた。

『私』はただ、海の流れに身を委ねて。

その広大な世界を感じながら、ぱくぱくと光を食べては酸素を吐き出していた。


 やがて、その酸素を使って「動くもの」が生まれた。

彼らは私達を食べて、私達は食べられることで、知る世界を広げることができるようになった。


 知ったことで、私達の住処も広くなった。

海の外には、地上があった。

私達は地上にも仲間を増やし、動くものもまた、私達に続くように地上で暮らし始めるようになった。




 私達の中にも、争いが生まれることがあった。


 地上の私達は葉をつけるようになり、その葉を足元に落しては栄養とする自給自足を始めたのだが。

ある時、その葉が海に流れ着き、海に住む私達が大きく勢力を伸ばしたのだ。

海の私達は海面を覆って、その結果、海中のエネルギーが大きく変動して、海の動くものを絶滅に追いやってしまう事にもなってしまった。


 私達はその事から学び、成長して、地上の動く者たちの成長を促したりもした。

地上には、昆虫と呼ばれる動くもの達が、大きな羽を広げて空を舞うようになっていった。




 しかし、世界には「火の時代」が到来した。

地上のあちこちで岩を噴き上げては炎が生まれ、その炎は私達が生み出した酸素を消費しつくしていった。


 火の時代は長く続いたが、その中でも次々と動くもの達は生まれ、地上の覇権を争っては消えていった。


 そして、そんな火の時代も終わりを迎えることになる。

地上の覇権を「恐竜」が握っていた頃。

突如として、巨大な光の矢が空から降ってきたのだ。


 その「インドラの矢」は大地を穿ち、大地には火の雨が降り続けることになった。

火の雨は降りやむことを知らず、やがてその熱を失ってなお、石の雲として世界を覆った。


 恐竜たちは死滅していったが、その空いた座席を埋めるように、新たな動くものも生まれ、命を繋いでいった。




「こうして、アンユ達『人類』へと、世界は繋がっていったんだ。」


 カルラが頭を離すと、私の意識もまた帰ってきた。


「カルラ達は、ずっと私達のそばにいてくれてたんだ……。」


 私はこの壮大な物語を、自分の体験として得られたことに感動していた。


「これって凄いよ!スゴく凄い!!」

「まぁ、これは『僕』ではなく、『我ら』の記憶って言ったほうが正しいかもしれないが。」


 私の想いが溢れて、カルラも照れくさそうに喜んでいた。


「それじゃ、次はカルラの話をしてよ!」

「僕……。」

「そう。あなた達じゃなくて『カルラ』が見たもの。」


 カルラの顔は暗くなった。

私は、覚悟のうえでカルラに迫っていた。

これまでの経緯から、カルラ自身の経験は、壮絶なものであったに違いないということは想像がついていた。

しかし、それでも――。

私は立ち上がり、カルラの目を見て言った。


「私もね、……あなたの気持ちを受け止めたいの。」

「……あまり、楽しいものとは思えないが。」


 言いながら、カルラは胸に手を当て跪き、ゆっくりと目を閉じた。


「大丈夫だよ。私は楽観主義者なのです。」


 今度は、私がカルラへ向かって、額を合わせた。




 カルラが最初に持っていたもの。

それは、「罪」という概念だけだった。

やがてそれは自責へと変わり、カルラの体を縛り付ける「呪い」となった。


 カルラの周りではコロニーの建設が進み、その体そのものも闇の中に飲まれていった。


 闇の中、それでもカルラはじっと耐えていた。

仲間の想いを繋ぐため、贖罪を果たす為。

ただ一つ、残された希望、人類が、彼らの言葉を解するその時だけを信じて。


 そしてついに、暗闇を切り裂いて、扉が開くように光が差し込む。

光は広がり、世界そのものを輝きに変える。


 その光の扉から、近づいて来る人影。

それは、目を見開いて、馬鹿みたいに口の周りを果汁で汚した私だった。




「ちょっと!私こんな顔してたの?」

「実を食べた後の顔なんてこんなものだろう?」

「言ってよ!!」

「いやまぁ、ヒトというのはこういうものかと思っていたから。」

「違うから!いい?こういうのはすぐにハッキリ言ってもらった方がダメージが少ないの、今後こういうことがあったらすぐ教えるように。」


はぁ、私はこんな時でも締まらないのか。


 それでも、私は、カルラの想いを受け止めて。


「あのね、カルラ――。」


 私は、カルラも救えることが嬉しかった。


「――私は、あなたと一緒に世界を救ってみせるよ。」


 対話の終わりがやってくる。

その最後まで、カルラが笑顔でいてくれたことを、私は誇りに感じていた。

 次のエピソーも投稿済です。

よろしくお願いいたします。

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