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優しい嘘

エピソード20

 二度目の対話は、その翌朝に執り行われるとのことだった。


 夜、私はなかなか寝付くことができずにいた。

期待と不安が入り混じった感情を抱えて。


あぁ~。だめだー、ぜんっぜん寝れない。


 そうして、ベッドの上で何度も寝返りを繰り返していると、コンコンっと、部屋のドアがノックされた。


「あの~。あたしですぅ。よかったら、少しお話ししませんか?」


 と、観測係さんの声がした。




「本当は、立ち入り禁止なんだけど。」


 と言って、彼女はお気に入りの場所を案内してくれた。


「元・所長候補の特権なんです。」


 と、笑いながら連れてきてくれたのは、塔の屋上だった。

そこからは、コロニー内を見渡すことができるようになっていた。


「わぁ~!きれー!!屋上ってこんな風になってたんですね!」

「あたしも詳しいことは知らされてないけど、計画の最終段階で使う場所なんだって。」


 上を見ると、ドームの上空ではシミ一つない真ん丸の月が輝いていた。


「あの月って、ドームの映像じゃないんですよね?」


 地上の人々から外海の桜を隠すために、ドームの水平線上は映像で上書きされている。


「そうですよ。あの月や昼の太陽だけは本物です。まぁ、コロニーには機密事項がたくさんだから。ここに来たことだって、バレたら大変です。」


 と、彼女は笑っていたが。

 私も、これは秘密にしなければ、と心の蓋を固くした。


「突然、お尋ねしちゃってすみません。」

「いえいえ、私もなんだか寝付けなかったんで、ちょうどよかったです。」

「あはは、実は、明日の調整で残ってたらコレに通知が来て。」


 と言って、彼女は端末を見せてくれた。


「あぁ、ごめんなさい。まだ気を抜くと考え事しちゃって。」

「良いの良いの。というか、このシステム、実は未完成のまま実装されちゃってるんですよね。」


 彼女は苦笑した。


「本来なら、対話の最中だけアンユさんの意志を反映させる仕様なのに。開発が間に合わなくて。」

「そうだったんですね。まぁ、私はこういうのも楽しめるようになってきましたけど。」


 強がりもあったけど、それでも本当に、ここでの生活は楽しいと感じていた。




 夜の風は、冷たかった、でもそれがかえって心地よかった。

コロニー内は、少しづつ明かりが消えていく頃のようだった。


「あたしたちの、母の話、父から聞きましたよね?」


 普段、快活なはずの彼女の声には、少しだけ暗さが混じっていた。


「……はい。小さなころに、亡くされたって。」


 彼女の方を見ると、いつもと同じ明るい笑顔だった。


「あたし、本当はアンユさんのこと、恨んでたんです!」


 その表情と言葉の違いに、私は戸惑った。


「母は、この思考システム実装の為、犠牲になったんです。」




「あたし達『塔の人間』と、アンユさん達『地上の人』って寿命が違うんですよ。」


 私たちは、そういう風にデザインされたから。

遺伝子の書き換えにより、生物のサイズに対してかなりの長寿になっているそうだ。


「でも、だからこそ、塔の人達は、機械の歯車として生きているんです。」


 私と、彼の対話を成すための。

役目の為に生まれ育ち、そして次の役目を持ったものを生み育てる。


「そうする他、人類が生き延びる道はなかったって言うのも分かりますよ?でもそれだけで感情を抑えられるはずないじゃないですか。あたしもそういう一人として育てられて、何でこんな事しなくちゃいけないんだろうなんて思ったりもしたんです。」


 彼女は変わらず、和やかな顔だった。


「そんな中、ママが、死んだんです。」


 この時から、22年前の出来事。

私という、病に対抗する手段「免疫システム」を持った人類が誕生した。


「もちろんみんな喜んだみたいですよ?ついに救世主が誕生したんだって。」


 だが、問題も又、発生していた。


「じゃあ計画に必要な思考システムは、どうやって作ればいいでしょう?」


 新たなシステムを追加するにも、「免疫」そのものが排除してしまう可能性があった。


「そんな中、ママが立候補しちゃったんですよ。」


 自身の持つ、脳を用いるという提案だった。

当時、司書として働く「ママ」の脳は、情報処理に最適なものだったらしい。

その細胞を用いた、生体ナノマシンを用いれば、私の体内で「吸収」され、そのシステムを稼働することができると、彼女の母自らが発案してしまったという。


「おかしいと思いません?どうしてそんな風に割り切れるのか、それは今の私にも分んないんですよ。」


 その後の度重なる実験の末、彼女の母は、本来、彼女が持つであろう命よりも早く亡くなってしまった。

この時から17年前。

当時、彼女は3歳だったという。


 そうして、思考システムは、未完成ながらも運用に問題ないレベルでの実装が決定された。


「でも、きっとそれも全部、決められてたことなんでしょうね。」


 彼女は、所長としての教育を受けていた。


「それからいっぱい勉強しましたから、それこそが最適解だって、頭では理解できましたよ。だけどね?」


 それでも、彼女は、私に微笑みかけてくれていた。




 辺りはすっかり暗くなっていた。

コロニーを覆うドームには、いつものオーロラと星が映し出されている。

外の光景を隠すため、嘘をつくため。

みんなが不安にならないよう願いを込めた、優しい嘘の景色。


「なのに、アンユさんは『友達になりに来た』なんて言うじゃないですか。」


 この時、私は、ずっと彼女から感じていた違和感の正体に気づいた。


「笑っちゃいましたよ。なにを言い出すんだって。」


 こんな境遇にあっても、この子は、私のこともまた、愛してくれているんだ。と。


「でも、そういう人じゃなきゃこの役目は出来ないんだろうな、って思いました。」


 これが、彼女の強さだった。


「だからね――。」


 一度だけ、ゆっくりと深呼吸をして、彼女は最後に付け加えた。


「――あたし、素直に感動しちゃったんですよね。『あぁ、これで本当に人類は救われるんだ』って。」




「ごめんなさい。こんな話、しちゃって。あたしもホントは分かってます。アンユさんは何にも悪くないんですよ。」


 部屋に戻るエレベーターの中でも、私は何も言えずにいた。


「でも、アンユさんには知っておいて欲しかったんです。対話には、いろんな人の思いが込められているんだって。」


 その言葉を聞いて、私はようやく、言葉を紡ぐことができた。


「私、世界を救います。」


 寝室階の扉が開いた。


「頼みましたよ。それじゃあ、おやすみなさい。」


 こうして、私は対話への思いを胸に、眠りについた。

 続きとなるエピソード21も投稿いたしました。

そのエピソードより第5話が始まりますので、そちらもよろしくお願いいたします。

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