休肝日
エピソード15
私はまた、夢を見ていた。
目が覚めた時には、忘れてしまっているけれど、こうして夢を見る度に、前に見た夢の内容を思い出す。
今日は、あんまり痒くない……。
以前と違い、そこから感覚が広がることも無いようだった。
それにしても、真っ暗だな。
体に変化がないことで、心に余裕ができたのか、これまで気にしていなかった辺りの様子が目に入った。
夢に何にも出てこないなんて、私は空虚な人間なんだろうか?
などと自虐めいた気分になっていても仕方がない、と思い直して、私は夢の中を歩いてみることにした。
明かりの一つもない、ただただ黒一色の空間が広がっているように見えたが、私は、そこに地面が続いているという確信をもって、進むことができていた。
こうして暗闇を歩くと、地下空間みたいだな。
そう思った時、暗闇の先に何かが見えた。
近づくとそれは、一本の木のようだった。
わっ、ホントに地下みたいだ。
などと、我ながら笑ってしまったが。
こちらの木はサクラと比べるとずいぶん小さく、私の背丈よりほんの少し上に伸びた程度の、緑もまばらで貧相な姿をしていた。
何気なく、木に触れる。
そういえば、彼にもこうしたんだっけ。
まるで遠い思い出にでも浸るようだったが、そこには、あの時とは違う感触があると気付いた。
あったかい……?
地下にいた彼と違い、その木からは人肌のようなぬくもりを感じたのだ。
ふいに、そのことを不気味に思って、私は慌てて手を離した。
そして、私の目は、その触れていた場所に釘付けとなってしまった。
そこには、目を閉じた、私の顔が浮き上がっていた。
祝賀会の翌日、対話で得た情報整理の時間確保と、私の体調を考慮して、この日は「休肝日」ということになった。
「ついでスから、トレーニングも無しにしちゃいましょう。」
ということで、突然、丸一日の暇を与えられたのだった。
しかし、機密保持の観点から、外に出ることもできず、私は時間を持て余していた。
とはいえ、みんなは仕事してるわけだし、何もすることが無いなぁ……。
と、只々フラフラしていると。
「あぁ、居た居た。暇してるなら、ちょっとボクとお話でもしません?」
と言って、コック長が誘ってくれた。
「せっかくだから、ボクの秘密の菜園をご紹介しますよ。」
そうして、上層階に位置する「環境室」という部屋に案内された。
「どうです?見事なもんでしょう!」
環境室では、いくつかの野菜たちがそれぞれ一列に並んで、人工栽培されていた。
「もっとも、ほとんどの食材は、外で育てられたものを取り寄せてるんですけどね。」
「これ、全部コック長さんが育てたんですか?」
「はい!最初は研究目的だったんですけど、やり始めたら奥が深くて。」
外の第三地区で栽培されたものと違って、大きさも揃って、見た目にも綺麗だった。
「凄いですよ!なんか、圧巻って感じです!」
「ふふふ、そうでしょう!実は、この土は地下のものを運んできたんです。そうすると、不思議なもんで、地上で育てられたものより、大きく味もよくなるんですよ。」
「だからコック長の料理は美味しいんだ!」
「いやいや、そこはほら、ボクの腕がいいからって言ってくださいよー。」
などと、談笑に花を咲かせていた。
そうするうちに、コック長の料理の話となり、私はお腹が空いてきてしまった。
「思い出したら食べたくなってきました……。あ、でも今日は『アレ』は無いんでしたっけ?」
「『花のおひたし』ですか?」
「そうです。私あれが大好きになっちゃって。」
「いや~。気に入ってもらえて嬉しいです!」
「あれって地下に咲いてる、あのサクラの花なんですよね?」
「そうですよ。今日も午後から採りに行って、明日からの分を仕込むつもりです。」
それなら、と、私もそのサクラ採りをお手伝いしたいと申し出た。
「良いんですか?助かりますよ!」
「どうせ暇ですから。」
それはそれとして、お腹が空いた……。
すると、いつものようにコック長の持つ端末が反応して。
「急いでお昼ごはんを作りますね!」
と、笑われた。
昨日とまったく同じ展開に……。
私は、思考のコントロールを早急に習得しようと心に決めた。
続きも投稿いたしました。
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