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アンユの日記~Pollen・Allergy・Lover~  作者: 昼場まなと
第三話「初めての対話」
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エピソード14

「私はね、巴野アンユ。あなたの友達になりに来たの。」


 辺りには、光が満ちている。

しかし、その中にあっても、彼の瞳は暗く、まるでその先に、別の空間が広がっているかのようだった。


「と、も……。」


 その、彼の目が、はっきりと私を捕らえた感覚がした。

私は、その目に吸い込まれるような気がして、恐怖に似た感情が芽生えたが、その気持ちを抑え込むようにして言葉を振り絞った。


「たくさんの存在と繋がっているあなたにとっては、珍しいことなのかな?私たち、一人一人が孤立している存在にとっては、よくあることなんだよ?」

「我らは……、汝ら、とも。共に在ろうと欲した。」


 彼の言葉が再び、彼の内面に向かってしまったように感じた。


今の私じゃ、まだ彼との会話は進められないのかな……。


 そう思った時、私の「意識」が、覚醒しようとしている気がした。


もう終わり?……まずい、せめてもう一つ、何か話さなきゃ。


「ねぇ!」


 とっさに、漠然と浮かぶ言葉を投げた。


「君の名前を教えて!」


 私の乱暴な呼びかけに、彼がまた私を認識した、と、そう感じることができた。


良かった。彼も私の言葉を聞こうとしてくれてる。


「『桜』と。……汝らは呼ぶ。」

「あなた達じゃなく、『あなた』の名前が知りたいの!」


私が目覚めてしまう……。彼のことを教えて!


「あらず。」


 私は、目を覚ます直前に叫ぶ。


「それじゃあ!もう一度『あなた』と会うまでに、私が考えておくね!!――。」


 彼は……私を見てくれていたように思う。




「――約束する!!」


 私は「サクラ」の前で横たわっていた。

周りは暗く、その中にサクラの木だけが変わらずに立っていた。


今のが……彼との対話?


 起き上がろうとして、ふいに気が付いたことがあった。

私の周りだけ、サクラの花が、まるで絨毯のように広がっていたのだ。

心当たりを元に、サクラの足元を見ると、そこには、記憶通りに梯子が掛けられていた。


もしかして……彼が守ってくれたのかな?


 そんなことを思いながら、私は地上へと引き返した。




「アンユッチ、おつかれス。」


 観測室に戻ると、ウサギとマスターが出迎えてくれた。


「対話の様子は、問題なく表示されていました。」

「すみません……、あんまり意味のある会話ができなかったです。」

「そんなことはありません!」


 マスターは珍しく、興奮しているようだった。


「人類はついに、彼の言語を認識できたんです!しかも、アンユさんの言葉に、彼も反応していることが解ったんです!これは人類の歴史に、アンユさんが刻んだ、偉大な一歩ですよ!」


 マスターは目を輝かせ、矢継早に、私への賛辞を述べてきた。

その様子に、私は嬉しいやら、恥ずかしいやら、複雑な気持ちになって。


「それは、……よかったです。」


 などと、他人事のような答えしか出てこなかった。


「にしても、いかにもアンユッチらしいアプローチだったスね。」


 ウサギも、らしくもなく嬉しそうにしていた。


「相手は人を植物に変えるような奴スよ?なんで『友達に――。』だったんスか?」


あの時は自分でも、良く分かっていなかったけれど。


「ん~と。なんとなく、……寂しそうにしてたから、かな。」


 そう答えると、ウサギはなぜか、小さく何度もうなずいて。


「そスか。アンユッチには、そう見えてたんスね。」


 と笑っていた。




 その日の夜、初めての対話の成功にと、塔を挙げての祝賀会が開かれた。


「なんか、ここのとこ、ずっとお酒飲んでばっかりな気がするんですけど……。」

「良いんですよ。それほどアンユさんの功績は大きいことなんですから。」


私はただ、言われるがままにしてるだけなんだけどなぁ。


「それに、アルコールは免疫力を鈍らせますから。本来ならば、体外に排出しようとする力を弱めるので、今のアンユさんにはこれも必要なことだと思ってください。」

「ま、最終的にはこれに頼らなくても吸収できるようになってもらわないと、困るスけどね。」


 と、相変わらずコイツは私の隣に座った。


「あの!アンユさん!この度は対話の成功おめでとうございます!あたしも様子をモニタしていたんだけど、まさかこちらからの呼びかけに彼が答えるなんて――。」


 突然、私と同世代くらいの女性に声をかけられた。

なにやら、対話の様子について感想を言っているようだが、専門的な内容が含まれていて、私はいまいち理解しきれずに聞いていた。


「こらこら、気持ちはわかるが、落ち着きなさい。」


 と、マスターが止めに入る。


「すみません、アンユさん。これは私の娘でして。観測係として、対話の記録をつけていたんですよ。」

「えっ!?む、娘!?」


たしかマスターって38歳って。……でもこの子、二十歳くらいってことは?


「ははっ、地上で暮らしていたアンユさんは驚かれるかもしれませんね。」

「あたしは、父が所長になるより前に生まれたんです。本来なら私も所長の仕事を引き継ぐ目的で育てられたんだけど、アンユさんのP・Aが確認されたので、観測係に配置されることになったんです。それからは――。」


なんかこの、矢継早に話す感じ、さっきの興奮したマスターとそっくりだな。


 と、端末にも表示がされたようで、マスターは頭を掻いて恥ずかしそうにしていた。




「さぁさ!今日は祝賀会ですよ!難しい話は後にして、ひたすら食事を楽しんでください!」


 言いながら、コック長が大量の料理を運んできた。

この日はたくさんの人たちが、入れかわり立ち代わり、私の元にやってきては祝いの言葉をかけてくれた。

正直、私がそんな凄いことをした、だなんて実感はなかったけれど。

それでも、みんなが喜んでくれているということが嬉しかった。


 そうして、夜が更けていく中、私は「彼」のことを考えていた。


「もう何度目か分かんないスけど!アンユッチの成功を祝って――。」

「かんぱ~~い!!」


あの子も、私との対話を喜んでくれてたらいいな……。

 続くエピソード15「休肝日」から第四話が始まります。

そちらもどうか、お楽しみいただけると幸いです。

よろしくお願いいたします。

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