メッセージ
エピソード12
「なんで?なんで?なんでぇ!?」
私の考えが端末に?言語化!?
お、本当に文字になってる。ちょっとオモシロ。いや、楽しんでる場合じゃなくて!!
「アンユッチ落ち着くスよ。」
「落ち着いてられるかっ!」
「と、言う割に、心の中では楽しんでるみたいで良かったス。」
「アンタは覗くな!!」
言うなりマスターの周りをぴょんぴょんと逃げ回るウサギを捕まえようとするが――。
こういう時に、生き生きとした顔してんのがいっちばんムカつく!!
「いやぁ、褒めてもなんも出ないスよ~。」
イっっっラぁあああああああ!!その耳もぎ取ったるわ!!
「ほいっと!今度はこっちスか?ははっ!なんかこれ新しいトレーニングに使えそうスね。」
――その度、マスターの端末に私の考えが投影され、それを読むウサギに避けられてしまった。
「さ、こんな所じゃおちおち食事もできないスから、オイラは別室でゆっくり食べるスよ。」
そういうと、ウサギはマスターの運んだお弁当をひったくる様にして、部屋を出ていった。
私としては、もうしばらく悪あがきを続けたいところだったが、トレーニングの疲れもあり、悔しくも諦めることにした。
「お伝えするのが遅れて、申し訳ございません。」
息を切らす私に、マスターが冷たいお茶を入れてくれた。
「あ、どうも。……えっと、どうしてこんなことに?」
「はい。先ほどウサギとお話しされていた、『彼との対話』に必要な処置だったんです。」
あ、また「彼」って言ってる。
「そのことについてもお話ししますね。」
あぁ、気になるけどお腹もすいた……。
と「思った」ことに気づいた瞬間、私は顔が熱くなる。
そして案の定、マスターは端末を見た後。
「それでは、食事をしながらにしましょうか。」
と笑った。
コロニー建設前、予定地の中心で「彼」は発見された。
調査の結果、生殖能力を持たず、代わりに一つの実をつけた彼は――。
「――あの木には、我々で言う脳波のような、『意識』が存在することが解ったのです。」
そして、彼は明確な「意図」をもって果実をその身に宿していることが判明したそうだ。
彼は必ず一つだけ実をつける。そしてそれが採取されると、新しい実を、やはり一つだけ身に宿す。
「それ以来、我々は彼の意志を認識する方法を模索しました。」
安全が確認され、彼がつけた実を食べることにした。結果、食べた者は「何か」を語り掛けられた感覚がしたという。
しかし、それがなんであるかは理解ができなかった。
彼の持つ「言語」を理解、吸収する術を人類は持ち合わせていなかったのだ。
そうして、ポーレンアレルギーが誕生することになった。
「今のアンユさんが実を食べると、何か、メッセージを受け取り、理解することができるはずです。」
しかしそれは、我々の持つ言語とは別の、体験的なものになることが予想されたため。
「なので、アンユさんの思考を言語化することで、我々人類に理解できる形に翻訳することが必要だったんです。」
なるほど……。
「彼のメッセージを一つ一つ翻訳していくから『対話』、なんですね。」
「はい。これまで彼は単一的なものしか語り掛けてきませんでした。しかし、我々が彼の言葉を理解できると知れば、新しい情報を提供してくれるかもしれません。」
そうやって、彼のことを少しづつ知っていく……。
「ご理解、いただけたでしょうか?」
「はい。『これ』が必要だっていうのは分かったんですけど。」
心を覗かれて、良い気はしない……。
「申し訳ございません。ですが慣れてくることで、何を言語化して何をアンユさんの内に留めておくか、分けられるようになりますよ。」
そういうもんなのかな……。
と、この時は不安だった。
「今日は、この後、彼との最初の対話を予定しています。」
お弁当を食べ終え、容器を片付けながらマスターが言った。
「記録によると、あの実はけっこう美味しいみたいですよ。」
デザートにピッタリじゃん!
単純な私は、すぐに不安が吹き飛んだ。
続くエピソード13も投稿いたしました。
よろしくお願いいたします。