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アンユの日記~Pollen・Allergy・Lover~  作者: 昼場まなと
第二話「P・A~Pollen・Allergy~」
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Pollen・Allergy

エピソード9

 扉の先には、巨大な空間が広がっていた。

足元には土が広がっていて、私はそれがすぐに、この「地球」が持つ本来の大地であることを直感した。

道を示すようにわずかばかりの照明が植え付けられていたが、上を見てもこの空間の天井は見えず、どこまでも闇が広がっているようだった。


「どうぞ、お足元に気を付けてください。」


 地上の整備された自然とは違う、野生の大地に苦戦しながらも、私は暗闇の中、マスターについていった。




「こちらが『桜』です。」


 私は足元から目を離し、それを見た。

それは、一般的な家屋すら超えるであろう、とても、とても大きな、一本の木だった。

大人が十人、いや、もっとたくさんの人が、両手を広げても抱え込むことができないほど太い幹をして。

一本一本が私の体以上に太くどっしりとした根が伸びていて、それらが幾方に広がり、その巨体を支えていた。


 上を見ると、そこには一面の、サクラの花。

一つ一つが私の手のひらほどの大きさはあるようにも思えるが、あまりに高いところにあるため、正確に目測することができないほどに感じられた。

それらが何重にもなって、威圧感すら感じるほどに咲き誇っていた。




「これが……、人を植物に変える木。」


あれ?それってまずいんじゃ?


「ご安心ください。この木は、生殖能力を失っています。」

「こんなに、花が咲いているのに?」

「はい。この木は、その役目を、生殖から次の段階へと移行していると考えています。」

「次の段階?」

「あちらをご覧ください。」


 マスターの指す方を見ると、そこには、両手ほどもありそうな、大きな木の実がぽつんと生っていた。

林檎とも、桃とも違う。

赤く、丸々とした実は、暗闇の中、まるで自ら発光しているかのように輝いて見えた。




「アンユさん。あなたの当面の目的は、あの『果実』と対話していただくことになります。」

「えっ?」


果実と、対話……?


「そんなこと言われても、どうしたらいいか。」

「大丈夫です、それこそがあなたに目覚めた能力なのですから。」

「私の能力、ですか?」

「えぇ。あなたは、『ポーレン・アレルギー』なんです。」


 Pollen・Allergy。

それは通常、人類が持ち合わせるはずのない「植物に対する免疫作用」のことだという。


「あなたが、昨日、私の店で気を失ったのもそのためです。」


 私は「二度」、サクラの花を口にした。

そのことでショック反応を引き起こし、結果として、潜在的に持っていた能力を顕現させたと。


「『免疫』とは謂わば、体内に取り入れたものを、理解・分析し、その対抗手段を身に着ける方法のこと。」


 本来、そうして原因物質を排出する行動を引き起こすことになるが。


「我々『管理者』は、その免疫機能を進化させ、理解・分析した対象を取り込み、その対象の力を吸収する能力へと偏移させたのです。」




 私は、夕べ見た夢を思い出した。

私の口から広がる、無数のサクラが空を舞う景色。


「今のアンユさんは、まだ、『桜』に関する知識が足りません。しかし、彼らを取り込み、何度も理解を重ねることで、いつかその、他者を変異させる能力を身に着けることができるはずです。」


それが、私とサクラの対話。


「あなたにしかできない、人類の希望の光なのです。」


それが、私の、生まれた意味。

エピソード10も投稿いたしました。

よろしくお願いいたします。

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