表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/26

紛い物─Fake─



  「マジなのか……?気休めに言ってるんだったら

   ショックで死ねるぞ俺は」

  「いやいや、本当の話じゃよ。

   ワシも知らなんだったが織田信長という

   武将が戦国時代におっての、

   その武将の配下に黒人の侍がおったらしいのじゃ」

  


 Gがいつの間にか手に持っていた本を開くと、

 そこには古びてはいるが華麗に描かれた絵が載っている。

 その一部分を指し示しながらGは笑った。


 

  「ここに描かれているのは戦国時代、

   織田信長に謁見したキリスト教の宣教師、

   〝ばりにゃーの〟なる人物の絵じゃ。

   そしてここには黒人が描かれておるじゃろう?」

  「ああ……それはわかる。

   それに名前くらいは知ってるぜ、ノブナガ・オダ……

   ジャパンの将軍(ジェネラル)で変わった奴だが有名人だって話だ」

  「そうじゃ。勉強熱心じゃのぅ、感心じゃ。

   その織田信長の配下に黒人の侍がいたことが

   最近になって注目されてきておる。

   ワシの記憶が古かったんじゃのぅ、

   このあたりのことは全く知らんかった」

  「その話……僕、聞いたことがあるよ。

   ノブナガ・オダに気に入られてサムライになったっていう

   黒人の話、ポリコレの人がでっち上げた与太話だと思ってた……」



 ギークの言葉に少しばかり怒りがこみ上げたサムだったが、

 今はそれよりもGの言葉に釘付けだった。



  「ほっほっほ、

   ワシもそんな人物がいたのかと疑ったが、おったんじゃなぁ。

   面白いものじゃ、この年になってもなお発見がある」

  「そ、それでよ!その先はどうなったんだよ!?」

  「おお、そうじゃった。

   では続きを話すとするかの」



 Gは黒人の絵を指さしながら話を続ける。

 


  「さて、やって来た〝ばりにゃーの〟殿は信長と謁見をした、

   その際に献上品として連れてきていた黒人の奴隷を

   差し出したらしいのじゃ」

  「……黒人を物扱いかよ、ここに居たらひき肉にしてやったのに」

  「さ、さすがに殺人罪はマズいよ……

   電気椅子送り間違いなしだよ……」

  「もう死んでるやつ相手なら何言ったって大丈夫だろ」

  「場所によっては名誉棄損で訴えられるよ……」

  「めんどくせぇな、まぁいい。

   ミスターG、続きを話してくれ」  



 話が脱線した、サムはギークとの会話を切り上げて

 Gに続きをせがんだ。



  「信長はこの者を見た時に墨で体を塗られていると思い込み、

   擦ったり水で洗ったりしたそうじゃ。

   しかし肌はきれいに黒光りするばかり、

   信長はこの者をいたく気に入ったそうじゃ。

   なんでも名前を〝やすふぇ〟だとか言ったらしいが、

   日本人には聴き取れん発音だったようでな、

   名を〝弥助〟と付けられたそうじゃ」

  「おお……マジだったのか……!!

   黒人のサムライは実在したんだな!!」

  「うむ、こののち正式に家臣として迎えられて

   刀も賜った、これにて正式に黒人の侍が誕生したわけじゃ」



 サムは感激のるつぼに居た。

 今まで信じていたことの一端が他ならぬ日本人によって

 事実だと認められた、それが何よりも嬉しかった。



  「ね、ねぇG……そんなこと言ってよかったの……?

   サムというか、ポリコレの人たちが諸手を上げて騒ぎ始めるよ……?

   ついに日本人が黒人のサムライを認めたって……」

  「ほっほっほ、そうかも知れんのぅ。

   しかし事実を隠し続けることの方が悪いことじゃろうて、

   知りたい人物がいたのなら全てつまびらかにするべきじゃ」



 Gのにこやかな笑顔に、ギークはそれ以上追及は出来なかった。

 確かに知りたい人物がいたらそれは知られるべきことなのかもしれない、

 ……しかし歴史の中で〝知ってはならないことを知ってしまい 

 命の危機にさらされた、もしくは命を落としてしまった〟人物は数知れず

 いるだろうこともわかってはいる。

 

 そしてそれは、知らなければよかった人物が知ってしまった場合もあるのだ。



  「……でも考えてみりゃ、俺たちもう死んでるんだよな。

   クソっ!この情報を生きてる時に知れてたら、

   俺はピューリッツァー賞だって取れてたかもしれねぇのに……!」

  「あ、アハハ……それすっごく笑える」

  


 そうだ、先ほど思い知らされたはずなのにもう忘れていた。

 残念ながら自分たちは既に故人なのだ、

 しかしそれは同時に今知った情報が外に漏れることはないと

 断言できることでもある。


 そう思い至りへにゃりと笑顔になったギークにサムはそうか?と笑い、

 つられたのかGも朗らかに笑った。

 


  「ほっほっほ、知りたいという欲求は誰にでもある。

   その欲求に蓋をするかどうかはその人次第じゃからな。

   さむ君は知っている情報の裏付けができたことの方が

   嬉しかったようじゃが、まあ似たようなものじゃ」



 Gはそう言いながら椅子に座り直すと、

 その顔から笑顔を消した。



  「しかし、じゃからと言って情報を捏造することはいかん、

   先ほどの諺や写真などが悪い例じゃな。

   そんなまがい物を根拠にしようとすると、

   必ず大恥をかくからの」



 サムは指摘されたことに若干ムッとしながらも、

 事実であることに違いはないので頭を掻きながら素直に頷いた。



  「ぅ、ん……まぁ確かにあの諺も写真もネットで

   手に入れたものだし、信ぴょう性は薄かったかもしれねぇな……」

  「うむうむ、わかってくれただけで十分じゃ。

   ……この諺や写真を作った人物は、修羅界に

   堕ちてしまったんじゃろうなぁ」

 


 聞きなれない言葉にギークとサムは顔を見合わせた。

 シュラカイ?いったい何のことだろうか?



  「ねぇG……もし良ければそのシュラカイっていうもの、

   なんなのか教えてくれない?なんだか気になるよ」

  「俺も気になる」



 サムたちから詰め寄られたGは、初めからそのつもりだったとばかりに

 笑顔になって話し始めた。



  「うむうむ、では話して進ぜよう。

   修羅というのは元は阿修羅と呼ばれる

   争いを好むインドの神様の名前でのぅ、そこからとって自分と他人を比較し

   優劣をつけ、常に他人に勝っていたいと思う心になってしまう境地のことじゃ。

   侍のようになりたいという思いがいつしか自分たちは侍の基礎と

   なったはずなのじゃから、ほかの者らとは格が違うと

   考えてしまったのかもしれん。

   侍も主に仕えた者の職業名、海外の騎士らと何も

   変わらぬはずなのじゃがなぁ」

  「うーん……わかるような、わからないような……?」



 サムもギークと同感でありどうにも話の意味が理解しきれない。

 すると「そうじゃなぁ」とGは考え込んだ。



  「おぬしらの言葉で近いものとすると、

   おそらくじゃが〝傲慢の罪〟が近いものになるかもしれんのぅ。

   自分は他人よりも優れていると考え、謙虚さを欠いてしまうのじゃ」

  『なるほど、分かりやすい』

  


 そう考えれば納得がいく、わざわざ黒人が不利になるような

 情報を捏造するわけがない。

 この情報をばらまいた人間は悪魔に心を支配されてしまったのだろう。


 サムは写真を見ながらそうなってしまった人物のことを考えると、

 せめて今はその人物が神の憐れみの元に天国に行けているようにと願い

 写真を畳んだ。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ