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写真─Picture─



  イオリまで戻ってきたサムとギークは

 再びスリッパを用意してもらい部屋に上がり、

 編み上げられた椅子に腰かけて一息ついた。


 ほんの一時間もたっているかどうかという間に

 様々な出来事が起きた、

 ジャパンの庭園に近い場所で目覚めた後

 Gと名乗る老人に出会い、

 小屋のような建物にやってきたかと思えば

 こちらの地雷を平気で踏み抜くような発言をされ、

 出ていこうとすれば不気味な体験をすることになった。



  「ハァ……全く、どっと疲れちまったよ。

   おまけに腹の減り具合が限界だ……」

  「ま、まぁご飯は用意してもらってたみたいだし

   丁度よかったんじゃないかな……?」

  「丁度よく、ねぇ……

   俺たちが腹減って戻ってくることまで

   織り込み済みだったりしてな」

  「そ、そんなことできるわけ……

   いや、Gならできちゃうかも……?」



 駄弁りながら待っていると、

 Gがトレイを持って部屋に戻ってきた。

 いったい何を食わされるのだろうかと

 少し身構えていると、

 部屋の中央に置かれた机にトレイが置かれ

 乗っているものが見えた──



  「外国人さんのお口に合うといいんじゃがの。

   又聞きで作ったものじゃから合っているのかどうか」

  『これは……っ!?』


 

 2人は息を飲んだ、

 そこに乗っていたものは生の魚ではなく

 ジャパンの訳の分からない食べ物でもなく──



  「これは……ツナロールじゃないか?」

  「海苔で巻いてあるけどライスは入ってない……

   確かにこれはツナロール、しかも赤い所を見るに

   これはスパイシーツナロールじゃないかな……?」

  「絶対美味い奴じゃねぇか!!」



 サムは感動に打ち震えながら

 ツナロールに手を伸ばす。

 まさかこんなところに来て

 自分の食べたかったものにありつけるとは……

 

 そっとツナロールに触れるとパリッとした

 海苔の感触が手に伝わってくる、

 この時点ですでに感触が美味い。


 手に持ってツナロールを口に運び、

 ゆっくりと咀嚼する。


 ──旨味が口の中に爆発的に広がる。

   ツナの旨味とチリソースの辛み、

   マヨネーズの酸味とゴマ油の香ばしい香りが鼻に抜けていき、

   海苔の磯の香りがアクセントとして

   それら全てを引き立てている……

   

 ふと、サムは噛んだツナの感触が

 いつもとは違うことに気が付いた。

 いつもなら油は効いているがどこかパサついたツナなのに、

 このツナはとても瑞々(みずみず)しいというかジューシーだ。



  「……このツナ、もしかして生のツナか!?

   そういうもんがあるとは聞いていたが、

   生のツナなんて食えたもんじゃないと思っていた……」

  「ほっほっほ、食わず嫌いというやつじゃな。

   実際に食べてみなければ良さはわからんものじゃよ」

  「うんうん……生のツナロール嫌いな人は

   本当に魚駄目な人ぐらいだし、美味しいから大丈夫だよ」



 ギークがもごもご言わせながら何度も頷いている、

 というかいつの間にこいつもツナロールを頬張っていたのか。



  「お前らナードってさ、大抵健康食品とかそういうもんしか

   口にしないんじゃねぇのか?」

  「ンむ……それこそ偏見だよ、

   僕たちだって美味しいものは食べるよ……

   特に魚は頭が良くなるDHAってやつが沢山だっていうし、

   よく食べるよ……!」



 幸せそうな顔をしながら口を動かすギークの様子を

 ハムスターか何かみたいだなと思いながらも

 サムはツナロールに舌鼓を打った。



  



  「はぁー、美味かったぜ。

   まさかもう一本出てくるなんて思わなかったけどな」

  「たくさん食べろって言われたけど、

   そもそもツナロールが大きいからそんなに

   沢山はいらないんだけどね……」

  「おお、そうじゃったか。

   しかし若いモンはたくさん食べた方がいいじゃろう」



 食事を終えて3人で談笑しながらも、

 サムは先程激昂した自分のことをGはどう思っているのか

 気になっていた。

 

 ──いや、違う。〝黒人サムライの存在を否定するような

   発言をしたGを自分は許せるのか〟と考えているのだ。


 確かにネットでしか見たことのない情報だ、

 だがそこにあったのはサムの心を大きく揺さぶる情報だった。

 世界でも憧れられているサムライの血に、

 自分たち黒人の血が流れている。


 それはとても誇らしい気分だった、

 なぜかは、言うまでもない。

 ……何度も思い出したいことではない。

 だからこそ、それを否定されたのは

 自分を否定されたような気分になったのだ。



  「どうしたのじゃさむ君、

   どこか気分でも優れないのかの?」

  「えっ……風邪か何か?

   でもさっきはぴんぴんしてたし、そんな風には

   見えなかったけど……?」



 心配そうにこちらを覗き込んでくるGとギークに、

 サムは目を伏せた後目を見開いて懐に手を差し込んだ。



  「……なぁ、ミスターG。

   食事に誘ってくれたこと、美味いツナロールを

   ご馳走してくれたこと、本当に感謝してる」



 懐のポケットの中にあったもの、

 それをそっと取り出す。



  「……だが黒人サムライを否定したことだけは認められねぇ。

   訂正してもらうぜ」

  「な、何を取り出してんのさサム……!?」



 びくびくするギークを手で制しながら懐から出した物、

 それは四つ折りになった一枚の紙だった。

 紙をGに差し出すと、Gはそれを受け取り広げて

 眉をしかめた。



  「これは……」

  「それは黒人のサムライがいたっていう証拠だ。

   俺はその写真を見た時に飛び上がって喜んだ、

   これこそ時代が隠していた真実だってな」



 そこに印刷されていたのは写真だった。

 3人の人物が写っている、そしてそこに写っているのは

 間違いなく黒人のサムライの家族だったのだ。



  「映画で見たサムライの鎧だ、駄目押しに腰に刀も差してる。

   これを見てもなお黒人のサムライはいなかったと断言するのか?」



 Gはしばらく黙り込んでいた。

 これで納得してもらえただろうとサムは

 内心鼻息を荒くしていたが、

 返ってきた答えは想像だにしないものだった。



  「……残念じゃがこの写真も真っ赤な偽物じゃろう。

   この写真には3つも矛盾点があるからのぅ」

  「まだ言うのかこの──」

  「ま、ま、待ってよサム!!

   は、話を聞いてからでも遅くはないだろう!?」



 サムを押しとどめるように飛びついてきたギークに

 寸での所で怒りを爆発させるのを我慢したサムは、

 ゆっくりと椅子に腰を落ち着けた。



  「すまんのぅ、怒らせるつもりで言ったわけではないのじゃ。

   今から言うことを心して聞いてほしいのじゃが……」

  「フゥ……フゥ……

   ……わかった、続けてくれ」



 深呼吸をして何とか気を落ち着けると、

 Gは「ありがとう、ぎいく君もすまんのぅ」と言うと

 さて、と椅子に座り直した。



  「さて、この写真の矛盾点についてじゃが……

   まずこの侍は刀を右腰に差している。

   これがまずありえないんじゃ、

   侍は皆右利きに直されるんじゃ。

   左利きの侍は1人としておらん」

  「なんでだ」

  「刀は侍の魂であり誇りじゃ。

   その刀の鞘でもぶつけあったりでもすれば

   その瞬間殺し合いになる。

   そうならないために皆一様に刀は左に差したんじゃ」



 サムはサムライについては正直良くは知らない。

 だからその情報が合っているのかどうかはわからない、

 しかしGの目からは嘘は感じ取れなかった。



  「次にこの写真に写っておるご婦人、

   この者の着物の着方は死に装束と呼ばれる

   左合わせの着方じゃ。

   生きているものはこの着方はせんでのぅ、

   もしもおったら着物の着方を全く知らんとしか言えん」

  「ジャパンに来たばかりなのかもしれない」

  「じゃとしたら写真を撮ったものが指摘するじゃろう、

   その着方はおかしいとな」

  「撮ったやつも黒人だったかもしれねぇだろ」

  「ふむ、その可能性は捨てきれんのぅ。

   しかし最後の矛盾が全て否定してしまっておるのじゃ」



 Gは一度目を瞑ると、こちらを見た。



  「……写真を撮るためにはカメラが必須じゃ。

   その点は間違いないのぅ?」

  「……何が言いてぇんだ」

  「ここに写っておる侍が着ておる甲冑は戦国時代の物じゃろう、

   その時代はおよそ1568年、しかしカメラが発明されたのは1839年なんじゃ。

   カメラで戦国時代の写真は撮れんのじゃよ」



 サムの心の中で築かれていた黒人サムライの像が、

 ガラガラと音を立てて崩れていく。

 

 全部、偽物だった。

 そんな人物は存在しなかった──



  「しかし、黒人の侍は1人もいなかった、

   というわけではないんじゃよ」

  「……何?」



 崩れが、止まった。






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