甘露飴─Candy─
『タイシャクテン?』
サムとギークは同時に怪訝な顔になった。
聞いたこともない名前だが、
いったいなんだというのか。
いや、そもそもの話である──
「ミスターGはイエス様の遣わされた
天使じゃないのか……!?
俺は一体どこに居るんだ!!」
「さ、サムライの天使なんて聞いたことが無いよ……!
も、もしかしてここは|地獄(Hell)なんじゃ……!」
死んだということには納得がいく、
だがその結果としている場所が問題だ。
キリスト教の天国でないとするならば
いったいここはなんだ。
「まぁそう慌てるでない、
いきなりの話で驚いてしまったかの。
なんにせよおぬしらは命を落とした。
その結果ここにいることだけは事実じゃ」
「だから、それがおかしいんだろうがっ!!
死んだら天国に行って魂はイエス様の元へ
向かうもんだ!!
なんで知りもしない奴の世界なんぞに
来なきゃならねぇ!!」
「そうだよ……!
神様の教えに背いてることなんて──
あー、もしかしたらしたかもしれないけど……
それでもイエス様の元へ向かえないなんて程の
悪行なんてしてないよ……!!」
サムたちが騒ぎ立てると、
Gは手を広げて宥める様な体制を取った。
「まぁまぁ待ちなさい。
ワシもなぜおぬしらが帝釈天様の
領域にやってきたのかは知らん。
かといって帝釈天様のご意向を
無下にするわけにはいかん、
まずは落ち着きなされ」
「落ち着けるわけがねぇだろ!!
どうやって落ち着けっていうんだよっ!!」
激昂するサムに、
Gは入れ物に入った菓子のような何かを指し示す。
「甘いものでも食べてはみんかね?
糖分は気分が落ち着くという、
甘露飴というのじゃがどうかね1つ」
「こんな状況でキャンディ食ってろってか!?
頭イカれてんのかよおめぇ!!」
今にも取っ組み合いになりそうなほどに
ヒートアップしていると、
横から暢気な声が聞こえてきた。
「あっ……これ甘ぁい……
美味しいよこれ……!」
何かと見てみれば
ギークが菓子のひとつに手を伸ばしたらしく、
口をもごもごさせながら幸せそうな顔をしている。
「ふ、不安に圧し潰されそうだったけど、
甘いの食べると少し元気になるね……
サムも一個食べて見なよ」
「何を馬鹿見てェなこと言って──」
ギークの胸ぐらを掴もうとした瞬間
ギークが口の中に何かを放り込んできた。
──ほのかな香ばしさと贅沢な甘みが
口の中に広がる。
母国でも甘いものは色々食べてきたが、
そのどれとも違う味だ。
頬が落ちるとまではいかないものの、
確かにそれは〝美味い物〟だった。
「っ……!
確かに、美味いな……」
「だ、だよね……!
ここまで落ちつけると何か危ないものでも
入ってるんじゃないかって疑うけど……
そういうドラッグの類が甘いなんて話
聞いたことないからね……」
「飴に混ぜたヤクの話とか聞いたことあるけどな……
ん……でもお前の反応見るに
その類じゃねぇのは間違いないらしい。
ラリってるやつの反応は明らかに違うからな」
以前見てしまった〝そういう中毒者〟の顔を思い出し
とりあえずは大丈夫かとキャンディを口の中で転がす。
「ほっほっほ、
落ち着いたようで何よりじゃ。
ぎいく君もさむ君を落ち着かせるのに
一役買ってくれて感謝するぞ」
「んー……
僕は甘くて美味しいものは人に勧めたくなる
性格みたいなんだよね。
同類からも言われたことがあったの思い出したよ。
それにしてもこれ美味しい……」
キャンディを舐めながら茶をすすっていると
気分が落ち着いてくる。
甘いものがリラックスに効果があると
ネットで見たことがあったが半信半疑だった、
それをまさか死んだ後で体験することになるとは
思ってもいなかったが。
「2人とも落ち着いてくれたようじゃし、
話を戻そうかの。
先ほども言ったがここは帝釈天様の空間、
そしてワシは侍をしておる。
侍とは主に仕える剣士の総称じゃ。
最近は外国でも人気と聞いたから
そこは知っておるかものぅ」
「サムライ!
そりゃあ人気だぜ、
最近はネット放送で侍のドラマなんかも
放送してたからな!」
「い、今まで考えていたサムライとは
結構違ったよね。
ぼ、僕はサムライってMMOでしか知らなかったから
面白かったよ」
確かにな、とサムはギークの感想に頷いた。
サムライと言えばサムライソードで
車だろうが鉄だろうが斬り裂き、
腰に構えれば光の速さで
サムライソードを抜くことができると思っていた。
だからこそ、ネットで流れてきた
〝あの情報〟には心が躍った。
「〝サムライが勇敢であるためには
黒人の血が少し必要である〟って諺は
有名なんだよな?
日本のサムライにも黒人の血が流れているって
聞いた時には感動したぜ!
俺たちの歴史は相当偉大だったんだって
わかるからな!!」
「ん?なんじゃそれは。
そんな諺はワシは聞いたことが無いが」
「あっ……」
ギークが顔を青褪めさせる中、
サムはGを不思議そうな顔で見る。
「なんだ、ミスターGはジャパニーズじゃないのか?
まぁ確かにGなんて名前、
なんだかジャパニーズっぽくねぇもんな。
じゃあ教えてやるよ!
昔のジャパンには黒人のサムライがいてな、
その血を分けてもらってたから
サムライは強かったんだ!!
だから鉄を斬り裂いたり──」
「黒人の侍?
ますますわからん……
ワシは確かに日本人じゃが
そんな話は聞いたこともないのぅ」
Gが首をひねっていると、
ギークがサムにバレない様に
顔を寄せるよう小さく手招きした。
「あ、あのさ……
黒人サムライの話は今日本以外でも有名になっててさ……
ポリコレの一派が
黒人の凄さが分かったかって喧伝してるんだよ……
その証拠ってほとんど出てきてないんだけどさ……」
「ぽりこれ……?
うぅむ、よくわからん言葉ばかり出てくるのぅ」
「ポリコレ知らないの……?
え、えっと……簡単に言えば人種の差を無くそうって
言ってる人達だけど──」
ギークが説明すると、
Gはまだよくわからないといった顔をしながらも
頷いて見せた。
「なるほど……
要は〝良いことはしようとしているが、
空回りしてしまっている人物の集まり〟という感じかの?」
「まぁ……間違ってはいないかな……」
素直に頷いていいものか迷いながらも
肯定したギークに、
Gは笑った。
「ほっほっほ。
ならば、やはり帝釈天様のお眼鏡にかなった
者たちの様じゃな、おぬしらは」
「えっ?」
「さむ君、少しいいかの?」
「──だったん、え、なんだ?
どうしたってんだ」
得意げに喋り続けていたサムは
呼ばれたことに気が付き顔をGへと向けた。
「まず、結論から言おうかの。
おぬしの言っている侍に黒人の血うんぬんは
全くのでたらめじゃろうて」
「……は?」




