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侍─Sav Lie─



  飛び掛かって来た化け物に袈裟斬りを浴びせながら、

 ギークは咄嗟に後ろに飛び退いて化け物の噛みつきを回避する。



  「サム!後ろに2体居るけど、僕が引き受けるよ……!

   代わりに僕の後ろ護ってくれる!?」

  「任せな!!ミスターG、こいつを片付けたらギークの援護に行く!!

   大丈夫か!?」

  「ほっほっほ、ワシは大丈夫じゃよ。

   ここは任せて行きなさい!」



 3人の連携によって化け物たちは数を減らしていく、

 いくら斬っても終わりが見えないと思えるほど湧いていた化け物たちは

 Gの心が変わったことで入り込むことが出来なくなったのだろうか。


 なんにしても好機には違いなかった。

 斬り斃した化け物たちの亡骸が庭園を埋め尽くしていき、

 やがて最後の一匹が斬り伏せられて──静寂がその場を支配した。



  「ハァ……ハァ……!!

   今のが最後か……?」

  「ふぅ……ふぅ……えっと──」



 ギークは辺りを見回し、残っているのは一匹もいないことを確認した。



  「──うん、今のが最後!!」

  「っ……おっしゃあ!!生き残ってやったぜこの野郎ぉー!!」



 サムはガッツポーズを掲げると、

 雄叫びを上げながら地面に仰向けに倒れ込んだ。

 


  「生き残るっていうのかな……あはは、今はそれでいいかも……!」

  「ああ、生き残ったでいいんだ、この場合はよ……!!

   ミスター、ミスターG!!そっちは無事だよな!?」



 サムが問いかけると、Gは腰をさすりつつ

 顔をしかめながらも笑顔で答える。



  「おお、腰が痛い……老体にはきつかったわい。

   ワシも大丈夫じゃよ、若者たちは元気じゃのぅ」



 おどけた表情で笑っていたGは改まった態度になり、

 その場に両膝をつくと地面に頭をこすり付けんばかりに深く頭を下げた。



  「2人に、心の底より感謝申し上げる。

   おぬしらが居なければワシは今ここにおらんかったじゃろう」

  「おお……凄いよサム、Gがジャパニーズドゲザしてくれてる……!」

  「マジかっ!?ちょっと待て、すぐ起きる……!!」



 跳ねるように身を起こしたサムは、Gのドゲザを目にして

 目を輝かせる。ジャパニーズは謝罪と深い感謝の時に

 ドゲザをすると聞いたが、実際に見るのは初めてだった。


 何よりそれを自分たちに、あのGが、

 感謝を伝えるためにしてくれているというのが

 一番感慨深かった。


 そしてサムは、見様見真似ながらもその場に両膝をついて座り直し、

 深く頭を下げる。

 ギークもそれに倣ってドゲザの姿勢になった。



  『こっちこそありがとう、G!!』



 3人が顔を上げると、互いにドゲザをしている姿が目に入り思わず笑いあった。

 そして同時に気が付いたが、あれほど転がっていた化け物の亡骸は

 塵一つ残さず無くなっており、平穏な庭園が戻ってきていた。



  



 イオリまで帰ってきた3人は部屋の中も綺麗になっているのを見て、

 あの化け物が本当にいなくなったのを確信した。

 

 

  「よかったぜ……ぬか喜びでまた戦う羽目になるんじゃねぇかと思った……」

  「そうなったら、僕は真っ先に斃れる気がするよ……もう体力が、ね……」

  「ほっほっほ、ではねぎらいも込めてワシが準備しようかのぅ。

   2人はそこでゆっくりしていなさい」

  「いや、俺には手伝わせてくれよ。途中で投げ出すのは、な」



 キッチンに歩いていく2人を見ながら、ギークは鶏肉を

 取りに行く途中だったことを思い出して椅子を立った。


 

  「おや、ぎいく君?どこに行くのかね?」

  「うん、サムも言っていたけど……途中で投げ出すのは駄目かなって思って……

   鶏肉が食べたいなって思ってたから取ってくるよ……!」

  「大丈夫か?無理しなくていいぞ、俺が行ってくるか?」



 サムの申し出にギークは一瞬悩んだが、それでも行くべきは

 自分だと思い首を横に振った。



  「ううん、やっぱり僕に行かせて……サムは美味しい料理作るのに

   専念してくれたらいいよ……!」

  「そうか、なんか理由があるみてぇだな。なら邪魔はしねぇ!頼んだぜ!!」

  「うん……!!」



 ギークが飼育場に向かうと、そこには破れたままの金網と

 未だに残っている家畜たちの血飛沫が、あれが現実だったと告げている。


 ギークは鳥獣檻ケージの前にしゃがみ込むと、胸の前で十字を切り

 犠牲となった家畜たちの鎮魂を祈った。



  「ごめんなさい、間に合わなくて……僕には祈ることしかできないけど、

   せめてその魂が安らかに眠れますように……」  



 ──それはそれとして鶏肉が欲しい、と心の中で願ってみると、

   鶏の元気そうな鳴き声が聞こえたかと思った瞬間

   目の前に皿に乗せられた鶏のもも肉が3人分現れた。


 キッチンに鶏肉を持って戻ってくると、ガーリックの良い香りが

 辺りに漂っている。


 

  「おお、戻ってきたようじゃな。

   今日は何にしようかと思っていたが、鶏肉にニンニクがあるなら

   トマト煮がいいかもしれんのぅ」

  「おっ、良いじゃねぇか。鶏もも肉トマトブレイズのトマト煮ドチキンは良く食ってたぜ。

   安くて美味い、思い出の飯だ」

  「うん、あれは美味しいよね……!ジューシーな鶏肉が

   たまらなく美味しいんだ……!」



 サムとギークがうっとりしながら料理を思い浮かべていると、

 Gは顔をほころばせて鍋を用意した。



  「ほっほっほ、では食事はそれにしようかの。

   さむ君、手伝ってくれるかね?」

  「任せな!!とびっきり美味いのをレクチャーするぜ!!」



 サムとGが料理を始めると、流石に手持ち無沙汰になったギークは

 部屋に戻ると、エンガワから外に出てサムライソードの素振りをして過ごす。


 自分たちの命を守ってくれたサムライソードを見ていると、

 気持ちが落ち着いてくる、

 頼もしい相棒となってくれたサムライソードにギークは

 心の中で感謝を述べた。



 


 しばらくするとトマトとガーリックの良い香りが強くなり、

 もうすぐ料理が出来ることを教えてくれた。


 エンガワから部屋に戻ってみると、ちょうどサムとGが

 料理を乗せたトレイを手にしてやってきたところだった。



  「待たせちまったな、会心の出来だぜ!!」

  「うむ、さむ君が味付けをほとんどやってくれてのぅ、

   その美味しさは格別じゃったよ」

  「うん、香りだけでも美味しいのが伝わってくるよ……

   はぁ、もうお腹ペコペコだよ……!早速食べよう……!」



 3人で椅子に座って食事を始める、

 化け物たちの襲撃から逃れ切ったことを3人で話し合い、英雄譚として語り合う。

 その食事は素朴で親しみのある味だったが、

 今までのどんな贅沢な食事よりも、格別の美味しさだった。









  「なぁミスターG、どこに行くんだ?」

  「うん……こっちにあるのは開かない門だけだったよね……?」

  「うむ、少しばかり気になることがあってのぅ」



 Gに連れられて向かっているのは、ここに来た初日に開けられなかった大きな門。

 あそこに今どんな用があるというのだろうか?


 2人が不思議がりながらついていくと、大きな門が見えてくる。

 しかし、そこには初日とは明確に違う点が1つあった。


 ──門が、大きく開かれているのである。



  「門が、開いてやがる……!!」

  「えっ……それってつまり……!」



 サムたちがあんぐりと口を開けていると、

 Gが朗らかに笑って門を指さした。



  「ほっほっほ、帝釈天様がおぬしらにここを出てもいいと

   言って下さっておるんじゃ。

   ワシの命を助けてくれたことを考えて、もしやと思ったんじゃが

   当たりだったようじゃのう」



 門の近くまで歩いてくると、大きく開け放たれた門の向こうは

 白い霧のようなもので満たされて全く見通せない、

 しかし、危険な雰囲気は全く感じなかった。



  「さて、ここまでやって来たわけじゃが……

   おぬしらの判断に任せるとするかのぅ。

   この先に進むかね、それともここに留まるかね」



 今までの自分たちならば、狂喜しながらすぐさま飛び込んだかもしれない。

 だがここで過ごした濃密な3日間は、そんな味気ない別れは寂しすぎると言っていた。



  「……その聞き方からしたら、俺たちは進むべきなんだろうな。俺は進むぜ」

  「うん……僕も進むことにするよ……!」

  「ほっほっほ、勇気ある決断をワシは嬉しく思うよ」

  「でもその前によ、やりたいことがあるんだ」

  「右に同じく……」

  


 最初の一歩を踏み出すと思っていただろうGに、サムとギークはハグを交わす。

 それは最期の別れを告げる優しいハグだった。



  「ありがとうな、ミスターG。この3日間は本当に楽しかった」

  「怖いこともあったけど、Gがいてくれたから乗り越えられたよ……」

  「……ほっほっほ、礼を言うのはこちらの方じゃよ。

   おぬしらがいてくれたからこそ、ワシはここに今もいる。

   でなければあの異形たちの誘惑にいつか屈していたことじゃろう、

   ……本当にありがとう」



 2人が離れると、Gは優し気な笑顔で手を振る。

 サムとギークも手を振り返すと、門の向こうへと向かって歩いていく。



  「おお、そうじゃった。

   2人には話しておかんといかんのぅ」

  『えっ?』



 Gの言葉に振り返ると、そこに立っていたのは年老いた老人の姿ではなく

 精悍な顔つきをした1人の男性が立っていた。



  ──ワシの本当の名は毘沙門天。

    帝釈天様の配下の1人じゃ、黙っていて悪かったの。

    2人には真の姿を見て貰いたかったんじゃ。

  「ははっ、なんだよそれ!!Gもsav lieかくしごとしてたのかよ!!

   まんまと騙されちまったぜ!!」

  「本当、上手い嘘だったわけだね……!

   でも、本当の姿を見せてくれてありがとう、G……!」

  ──騙していたようなものなのに、

    笑ってくれるとはのぅ、本当にいい子らじゃ。

  「もしかしてさ、G……僕らがイエス様を

   信じてるから、言い出せなかったの……?」

  「なんだそりゃ!ミスターG、そんなこと気にしてたのか!!

   いいじゃねぇか、ブッダとイエス様を信じてる者同士が

   親友になったってよぉ!!」

  「そうだよG……!だって──」



 サムとギークが顔を見合わせると、Gに向かって

 満面の笑みを見せた。



  『それが、正しい侍のポリティカル・心得コレクトネスってやつじゃん!』



 笑いながら門の向こうへと歩いていった2人の姿が、

 光となって天へと昇っていく。

 

 その光景を見つめながら、知らず笑顔が溢れていた毘沙門天は

 心底愉快そうに笑った。



  ──新たなる〝さぶらい〟の誕生を、ここに盛大に祝うとしよう!






                                  ~Fin~

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