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告解─Confession─



  本降りになってきた雨の中、サムとGは

 庭園を血飛沫で濡らしながらサムライソードを振るっていた。


 周りは人間に酷似した、しかしどう贔屓目に見ても人間とは思えない

 異形の存在に囲まれており、時折何体か襲い掛かってくる相手を

 斬り伏せていた。


 

  「糞がファック!!いったい何なんだこいつら!!

   突然背後から話しかけてきたかと思ったら、

   唐突に首に噛みつこうとしてきやがってっ!!!」

  「さむ君、後ろじゃ!」



 Gの叫び声に振り向くと、背後から異形が跳躍し

 サムライソードを持つ手に噛みつこうとしてくる。


 サムは身体を捻って飛び掛かって来た相手を回避すると、

 サムライソードでその首を斬り落とした。



  「はぁっ……助かったぜミスター……!!

   どうだてめぇらぁっ!!またてめぇらのお仲間が1人死んだぞっ!!

   さっさと諦めて逃げ出したらどうだっ!!?」



 ここに来るまで何体の異形を斬り捨てただろうか、

 もはや両手でも数えきれないほどには殺したはずなのに、

 相手はなおも諦めようとしない。


 ──そもそもこいつらは何なのか。

   キッチンで料理の手伝いをしていた時にGが顔を青褪めさせたかと思ったら、

   突然振り返り、Gなら絶対上げないと思っていた悲鳴を上げた。

   一体何事かと振り返ると、そこに〝こいつ〟がいた。


 思い返している間にも、異形はこちらの命を奪おうと襲い掛かってくる。

 その度にサムライソードで斬り倒しているが、どれほど続くのかわからない

 戦いに疲労が溜まってくる。



  「はぁっ、はぁっ……来いよ!!片っ端からサムライソードの餌食だっ!!」

  「あまり叫ぶのはやめなさい、さむ君!その分余計に体力を消耗してしまうぞ!」

  「はぁっ……そうしたいのは山々なんだけどよ、ミスターG……!

   こいつら黙って相手してたら、気が狂いそうだぜ……!!」



 それは化け物を相手にしているからというだけではなかった。


 ──この化け物ども、言葉を話すのだ。


 当然、言葉がわかるのなら話しかけてくる、しかしそのどれもが

 こちらを誘惑してくるような事ばかりなのだ。



  ──欲しくはないか、欲しくはないか


  「またか、こいつらっ……!!」



 そして一番腹が立つのは、その誘惑が抗いがたい魅力を

 持っているということだった。



  ──お前が一番欲しかったものだ


  ──あらゆる人種の頂点に立てる力だ


  ──お前が一番欲しかったものだ


  ──誰もお前たちを馬鹿に出来なくなるだろう


  ──欲しろ、欲しろ


  「うるっせぇっ!!そのふざけたこと言う頭刎ね飛ばしてやるっ!!」

  「いかんっ、さむ君!挑発に乗ってはならんっ!」



 Gの忠告が聞こえるが、サムは今までの自分を煽ってくるような

 化け物たちが気に入らなくて仕方がなかった。

 

 せめてそんなふざけたことを言ってくる奴だけでも葬ろうと

 サムライソードを振り上げる、

 

 ──その瞬間を狙いすましたかのように、

   いや、まさに誘導されたのだろう。

   化け物がサムライソードを握る手目掛けて飛び掛かって来た。



  「さむ君っ!!」

  「しまっ──」



 もう駄目かも知れない、サムライソードを握れなくなってしまったら、

 他に対抗手段を持たない自分はこのまま化け物たちの餌と化すだろう。

 簡単に挑発に乗った自分を呪いながら死ぬ──死んだ状態で更に死んだら

 一体どうなるのだろう──


 そんな考えが頭をよぎった、その時だった。


 化け物の頭から鋭い輝きが現れたかと思うと、

 横薙ぎに振り回され、そのまま庭園の石に化け物は叩きつけられていた。


 いったい何が起きたのか。

 死ぬ際には幻を見るというが、それを自分は見ているのか?

 

 ──しかし次に聞こえてきた声に、

   今自分は現実を見ているのだと確信した。



  「サムっ……!!大丈夫だった……!?」

  「ギー、ク……?」



 まるで映画のクライマックスシーンで

 ヒロインのピンチに駆けつける英雄ヒーローのようなギークの登場に、

 サムは危機的状況は変わらないというのに笑いが込み上げてきた。



  「ぷっ、ははははは……!!ギーク、お前、マジで最高だぜ!!!」

  「わ、笑ってる場合じゃないでしょ……!?」

  「笑わねぇわけにいかねぇだろうがこんな展開よぉ!!

   はははははっ!!俺が女だったらよぉ!!一発で運命的な恋に落ちること

   間違いなしだぜっ!!はっははははっ!!」



 腹を抱えて笑い続けるサムに、襲い掛かられたらどうしようと

 ギークが辺りを見回すと、異形たちはなぜか2人を

 遠巻きに見つめるだけで襲ってこようとはしない。



  「あ、あれ……襲ってこない……?

   なんでだろう……?」

  「それはおそらく、あの者たちが〝陰〟の感情で

   出来ている存在じゃからじゃろう」



 横から話に割り込んできたGに、ギークは言葉にせず不思議そうな顔で尋ねる。

 Gはその表情で察してくれたらしく、笑顔になって言った。



  「この世には悪感情の元に生きる〝陰〟の者たち、

   そして人間に代表される、希望を持って生きていく者たち。

   〝陽〟の者たちがおるんじゃ。本来は関わることは無いが、

   ここのような現世ならざる場所では時折存在を認識できてしまうのじゃ」



 Gは化け物たちを油断なく睨みつけながら、サムライソードで指し示す。



  「今、さむ君が笑顔になったことで陽の気が高まったことで

   陰の者たちは近づくことすらできない状態なのじゃ。

   近寄れば陽の気に充てられて存在を保てなくなってしまうのじゃろうて。

   あやつらは人の願望を釣り餌にして人を喰らって生きてきた存在じゃ」



 Gのサムライソードが小刻みに震える、まさかGが恐れているわけではないだろうと

 ギークとサムが怪訝に思っていると、Gはサムライソードを下ろして

 罪の告解をするかのように呟いた。



  「──そして、その存在をここに呼び込んでしまったのは、ワシなんじゃ」

  『そんな、まさか!!』



 Gはいつも朗らかに笑っていて、あんな化け物に関わるような感情など

 1つも持ち合わせていないような、そんな明るい人物だった。

 むしろ呼び込んだ原因が自分たちにあったというのならそれこそ納得がいくが……


 3人で背を預け合い死角を無くして、サムがGに尋ねる。



  「よければ話してくれねぇか?いったい何があったのか」

  「……そうじゃのぅ。手短にの」



 大きく息を吸い込んだGは、決心したように話し始めた。



  「ワシはここを帝釈天様に任されておる、そう話したのぅ。

   そうしてワシは何人もの人物がここを訪れて去っていくのを見てきた。

   ……その中には人智を超えた力を持った者もおっての、

   ワシはいつからかそれを羨ましく思うようになった。

   羨ましさはいつしか妬ましさに変わった……

   おぬしらがここに来た時に、またあの気分を味わうのかと思っておった。

   そしておぬしらがごく普通の人物じゃと分かった時、

   心底ほっとしたんじゃ」

  「そんなことがあったのか……」



 化け物たちがGの感情に反応したのか、じりじりと輪を詰めてくる。

 サムとギークはサムライソードを構え直し、いつ襲い掛かられても

 対処できる態勢になる。



  「幻滅したじゃろう、ワシはそんな存在なんじゃ。

   人にものを説けるような人物ではない、ちっぽけな存在じゃ──」

  『何言ってるのさ、馬鹿馬鹿しい!!』



 サムとギークは同時に叫んでいた。

 背中合わせにくっついているため、Gの体が震えるのが伝わってくる。



  「俺はミスターGに出会わなかったら、死んでも治らない

   馬鹿をやらかしてイエス様の元に向かったかも知れねぇんだぜ?

   もしかしなくても地獄に行ってたかもしれねぇ、それを

   ミスターは救ってくれたんだ!!

   ちっぽけな存在だって?そんなこと言ったら俺の方がよっぽど

   小さいやつだったぜ!!」

  「僕もそうだよ……!!僕は何に対しても勇気も何も出なかった……

   だけどサムやGに出会ったことで僕は変われたんだよ……!!

   小さいだなんて言ったら……僕は許さないよ……!! 

   ジェダイみたいに立派な奴なんだって、いつでも胸を張っててよ、G!!」



 Gの背中が小刻みに震えている。

 彼がどんな顔をしているのかは想像に難くないし、

 それを確認するつもりもない。


 この窮地を必ず突破する、今はただそれだけだった。



  「……本当に、良い子らじゃ。おぬしたちは」



 いつの間にか雨は止み、雲の切れ間から光が差し込んでいる。

 化け物たちは3人に恐れおののく様に怯えている。


 

  「ケリつけようぜ、ミスターG!!俺は飯の準備邪魔されて気が立ってんだ!!」

  「そういえばお腹ペコペコだったよ、さっさとやっつけて、ご飯にしよう!!」

  「……ほっほっほ、そうじゃな」



 サムライソードを構えなおす音が聞こえる、

 決着の時は近かった。



  「いくぞ、さむ君!ぎいく君!決着をつけるのじゃ!」

  『応!!』



 最後の抵抗とばかりに飛び掛かって来た化け物たちに、

 3人はそれぞれに斬りかかっていった。






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