誕生─Birth─
「それでは最初はさむ君からじゃな、
ではこちらに来てもらおうかのぅ」
「お、お、おうっ……!!」
先行を勝ち取ったサムが一歩、前へと進み出る。
言い出した手前もうやめることは出来ないが、
実際にやるとなるとやはり緊張する……
ましてや実際に人を斬ることもできる本物のサムライソード、
憧れていたものに触れられることに興奮も隠し切れない。
「用意したのは無銘の刀じゃから、そこまで固くならんでも大丈夫じゃ。
練習用に多く用意されたものじゃから、折っても問題ないしのぅ」
「そ、そういうもんなのか……!?なら少しは安心できそうだな……」
Gが手にしていた刀を震える手で受け取る、
──その瞬間、サムは不思議な感覚に包まれた。
自分はこのサムライソードをどう扱えばいいのかわかる気がする。
どう持つのが正しいのか、どう振るうのが正確な切れ味を出すのか、
まるで自分の手足のようにわかるのだ。
分かたれていた半身が手元に戻ってきたような
そんな懐かしさすら感じる……
「なんだろうな、この感覚……」
サムは左腰にサムライソードの鞘を結び付けると、
そのまま直立の体勢になる。
──左足を踏み出しながらサムライソードに手をかけ、
右足を踏み出しつつ抜刀し、そのまま右斜め上へと振り上げる。
「っ……!!」
サムライソードが通り過ぎた巻き藁が、中央の竹諸共刎ね飛ばされる。
サムは振り上げたサムライソードを手首で返すと、両手で握り直し
左下目掛けて斜めに振り下ろす。
ギークから聞いていたような抵抗感はまるで感じることなく、
巻き藁は熱したナイフで切られたバターの如く、するりと斬られていた。
サムライソードを目の前に持ってくると構えを解き
付いた水を払うようにサムライソードを振るったサムは、
そのまま鞘にサムライソードの切っ先をあてがうと流れるような仕草で仕舞い、
深く息を吐いた。
「ふぅー……っ」
「えっ……えっ……?」
「ほっほっほ、素晴らしい型じゃさむ君。
ワシが口を出すところは何もないのぅ」
驚きを隠せないギークと笑いながら拍手をするGに、
サムは今自分が何をしたのかを改めて実感した。
「俺……なぜかどうすればいいのか、分かったんだ……
どうやって振るえば斬ることが出来るか、どんな足運びをしたら
一番確実な太刀筋になるかっていうのが……」
「タ、タチスジ……?どういう意味か分からないけど……
今までサムライソードに触ったこと、あったの?サム……」
「いや、完全に初めて触った。見るのすら初めてだったんだ……
なんだか少し怖くなってきたな……なんで俺あんなに理解できたんだ!?」
今更になって膝が震えてきたサムに、Gは手を差し出しながら笑った。
「ほっほっほ、心に迷いがなかったが故に斬れたのじゃよ。
刀は心の写し鏡、迷いがあればそのまま切れ味に反映されてしまい、
斬れないどころか折れる可能性すらあるのじゃ」
心底嬉しそうな声で話すGに、そんなに凄いことを本当に自分がしたのか。
いまだに信じられないが、目の前に転がっている巻き藁の残骸が
確かにお前はやり遂げたのだ、と物語っている。
「心の迷い……確かに俺はサムライになりてぇって、
真っすぐ思ってた。それがそのままサムライソードの
切れ味になったってことか?」
「そうじゃな、しかし一番良かったのは疑う心が無かったことじゃ。
自分に自信を持ち、かつ心を惑わすものが無かったことが理由じゃろう」
自分に自信を持つ。正直ここに来て自信は揺らいでいた方だったが、
どうやらサムライソードに認められる程度には回復していたらしい。
「なるほど、〝自信〟か……それなら確かに自信があるぜ。
俺は俺の考えを、信念ってやつを誰よりも信じてるからな!!」
「そうじゃ、信念じゃ。間違った信念ではなく、
正しい信念の下に剣の道を進んでいくこと、それが剣を鈍らせない
一番の成長方法じゃよ」
「間違った信念、か……ここに来たばかりの俺だったら、
間違いなくサムライソードに拒否されてたんだろうな」
そう考えるとGがサムライソードの訓練の前に言っていた、
〝人としての稽古〟の意味にも気が付くことが出来た。
「あれもこれも、全部この時の為だったのか……
流石だぜミスターG、まさにジェダイだ!!」
「ほっほっほ、ワシはどちらかと言うとカンフー映画の
あちらを思い浮かべたがの」
「あ、あの映画……?あれもチャット仲間がお勧めしてたよ……!
普段していた行動が、全て修行に繋がっていたっていう所が
伏線回収として凄いって……!」
「ギークの仲間はいろいろ知ってんなぁ。
ははっ、もちろんそれだけの人脈を築いたお前もすごいけどな!!」
いつの間にか側へとやってきていたギークを
ジョークで小突きながら、サムはサムライソードをギークへ差し出した。
「俺みたいなやつが出来たんだ、お前だって必ずできる!!
俺にその勇姿を見せてくれよ!!」
「……うん!」
サムライソードを受け取りながら、
ギークはサムもやっていたように左腰に結び付ける。
──その瞬間、サムはギークの纏う雰囲気が変わったように感じた。
どこかふわふわした空気を漂わせていたギークが、
突然歴戦の戦士のような気配を纏ったように思える。
ギークも、間違いなくやれる。
サムは結果を見ずとも確信していた。
「さて、危険じゃからワシらは下がっておこうかの」
「ああ、そうだな」
ある程度距離を取ってから、そういえば斬るための巻き藁はどうするんだ、と
サムは気になったが、目を向けると初めに見た時と全く同じ巻き藁が
そこに存在していた、つくづく便利な空間である。
「ではぎいく君、自分の一番いい時機で斬ってみなさい」
「うん……!」
ギークが腰のサムライソードに手を掛ける、サムと同じように一歩、
左足を踏み出し、その手がサムライソードを掴んで引き抜く。
──一閃。
閃くような輝きが走り、巻き藁はきれいに斬り裂かれていた。
「あのように左下から右上にかけて切り上げる動作を、
逆袈裟斬りというんじゃ。刀を鞘に納めた状態から放つのは
居合斬りとも呼ばれるのぅ」
そしてギークは更に一歩踏み込み、右斜め上から斬撃を放つ。
巻き藁はその一撃を喰らい、斜めに真っ二つになった。
「そしてあれが基本の動作の1つ、左袈裟斬りじゃ。
上手いものじゃ、さむ君とも遜色ない切れ味を持っておる」
「俺は、ギークが最初からできるってことはわかってたさ。
俺より純真で曇りのない心を持ってるあいつだ、
出来なかったらそれこそおかしいぜ!!」
巻き藁を斬り払ったサムライソードを振るうと、
ギークは滑らかな動作で鞘へと納め、こちらに笑いかけた。
「で……出来たよ、僕にもっ……!」
「ははっ、当然だぜ!!俺より上手かったんじゃねぇか?」
サムは歩み寄るとギークの頭に手を置いてワシワシと撫で回す。
ここに、新たなる2人のサムライ見習いが誕生した瞬間だった。




