巻き藁─Curly straw─
「おほーっ!!焼きたてのワッフルは堪んねぇ美味さだな!!
ミスターGってよぉ、料理の腕も一級品で凄ぇよな!!」
「はふっはむっ……!本当に美味しいよねぇ……!
ここに来た時は不安だらけだったけど、
Gのご飯食べてからは不安なんて吹き飛んだもん……!
なんだっけ、諺があったよね──そう……!
〝悲しみはパンがあれば薄らぐ〟、だったはず……!
悲しみではないけど、ニュアンスは似てるよね……」
悲しみとは言い難いが、確かに不安や恐怖は
Gが出してくれた食事を食べると薄らいでいったのは確かだ。
美味いものを食えればそういう悪い感情は薄らぐもの、
その言葉には全く同感だった。
「流石Geek、その名前は伊達じゃねぇな!!」
「えへへへ……ありがとう、サム……!」
「ほっほっほ、まるで長年連れ添った友人のようじゃのぅ。
良いことじゃ良いことじゃ」
自分たちのやり取りを笑顔で見つめるGの様子に
少し気恥しくなったサムは、皿に乗ったワッフルとチョリソーを口に詰め込んだ。
「んぐっ……!美味い!!まだチョリソーあるなら貰っていいか!?」
「おやおや、さむ君。そんなに詰め込んでは咽てしまうぞ?」
「今日からサムライの特訓だぜ?力つけねぇと!!」
Gはサムの言葉に考え込む仕草を見せると、「一理あるのぅ」と頷いた。
「僕もベーコンお替りしておこうかな……
眠気は……なんとかなる、と思う……というかする……!」
「ほっほっほ、無理はせんでいい。時間はあるんじゃからのぅ」
「言えてるっ!!」
サムの力強い一言がツボにはまったのか、Gとギークが腹を抱えて笑う。
サムもウケたらしいと理解しつられて笑った。
朝食を終えて3人で淹れたコーヒーを飲みながら、今日の予定を確認する。
果たしてどんな過酷な訓練が待っているのだろうか──
「今日はいきなりじゃが、真剣を持ってみようかのぅ。
真剣とは切れ味を持つ本物の刀、おぬしらがいう所の
サムライブレードじゃ」
『えっ!?』
2人揃って驚愕した、いきなりサムライブレードを持たせてもらえるものなのか?
最初はおもちゃの剣だとかで訓練してから、とばかり思っていたからだ。
サムライとは最初から命のやり取りをして覚えるのか、そう思うと
サムライの覚悟に戦慄すら覚えた。
「は、初めから実践訓練というやつ……するの……!?」
「流石ジャパンのサムライ、クレイジーにも程があるぜ……!!」
サムたちが慄いていると、Gは不思議そうな顔をして
外に通じる廊下、エンガワへと歩いていく。
「もしや、対人戦を想定しておったのか?
ほっほっほ、真剣での訓練で流石にそんなことは出来ん。
やるのは〝巻き藁斬り〟じゃよ」
『マキワラギリ?』
Gについて縁側から外に出ると、だだっ広い庭園の一角に
棒が突き刺さっており、何か目の粗い布のようなものが紐で巻き付けてある。
その幅はかなり広く、一般男性の胴体ぐらいはあるかもしれない。
「何だあれ……?棒と、出来の悪い布みたいなもんが巻き付いてるな?」
「あんなものを斬るのが訓練なのかな……?あれ、でもちょっと待って……
そう、ネットの動画で見たことあるよ……!
あれを刀で斬ってる動画……!」
「へぇ、子供のお遊びか何かでか?」
想像する限りでは幼稚園児がピニャータをおもちゃの棒で
ポコポコ叩いているような光景しか思い浮かばないが……
「それが……大人がやってるんだけど、全力で振り下ろしてる様に見えるのに
途中で止まっちゃってたりする人もいたんだよね……
そうかと思えば熱したナイフでバターを斬るみたいに
スパスパ斬ってる人も居たりしたよ……!」
「マジかよ……!初めてサムライブレードに触る俺たちなんかがしたら
思いっきり恥かくんじゃねぇか……?」
「あははは、見られても笑われたりしないよ……
サムも、僕が失敗しても笑ったりしないでしょ……?」
「なるほど、それもそうだ」
それにしても近づいて見てみても、いったい何で出来てるのかさっぱりわからない。
まるで濡れているようにも見えるが、何製なのだろうか。
「ほっほっほ、どうやらこれは初めて見るようじゃのぅ。
これが〝巻き藁〟じゃ。中心には竹の棒が、周りには水に浸けた
藁という植物が巻いてあってのぅ。竹の棒が人体の〝骨〟、
藁が〝肉体〟、濡らしてある水が〝血液〟を表しておるんじゃ。
そして水に浸けた藁と、芯にしておる竹の硬さが
それぞれ人間の肉と骨の硬さに似ておる故、稽古や試し斬りに
使われるんじゃよ」
『へぇー!理由が結構物騒だった!!』
植物で人体を再現できることにも驚きだが、
そんな植物がサムライの日常に都合よくあることにも驚いた。
まるで世界がサムライをサムライとするために、必要なものを全て
同じ場所に集めておいたような、神にも似た意思すら感じる。
「凄ぇことだよな……もしかしたら本当にサムライは
イエス様がそうあれかしと定められた存在かもしれねぇな……」
「まるで世界がそうあるべきっていうように、
サムライが欲しいものが周りにあったんだもんね……!」
「ほっほっほ、その考えには及ばんかったわい。
世界から侍が必要とされていた、か……
そう考えると、誇らしい気分になるのぅ」
Gはそう言ってサムたちに向き直ると、
服を正してきりっとした顔つきになった。
「……ワシ1人では気付けなかったことじゃ、ありがとう、2人とも」
Gが自分たちに頭を下げるが、何を感謝されているのか
サムたちはピンと来ず困惑するしかない。
「おいおい、どうしたよミスター……いつもみたいに胸張って
導いてくれよ、ジェダイみたいによ」
「あー、その例えすごくよくわかる……!
Gって何かに似てるって思ってたけど、
ジェダイに似てるんだよ……!」
「おお、あの有名な映画じゃな?
ワシも知っておる、大好きな映画の1つじゃよ。
実は〝じぇだい〟の手本となっておるのは
侍映画じゃというのは知っておるかな?」
「その話、僕知ってるよ……!
ジャパンの有名監督のムービーがモデルになってるって
チャットの映画好きが言ってたよ……!」
「へぇ、俺は初耳だ。しかしそれなら似てるのも納得だな!!
ジェダイも不思議な力を使うわけだし、ミスターGも心を見抜くっていう
似たような力を持ってるからな!!」
サムのジョークに3人で笑いあうと、Gは一息ついて姿勢を正した。
「さて、話が脱線してしまったのぅ。
では早速じゃが、斬ってみたいと名乗り出てくれる者は
おらんかのぅ?」
Gの提案にサムはそわっとしたが、ギークの様子も気に掛ける。
サムライになりたいと初めに言い出したのは自分だが、
ギークもその気になっているように見えた、もしかしたら
先にやりたがるかもしれない──
「ねぇサム、じゃんけんで決めない……?」
「ん?じゃんけんで?」
なぜだ、と聞こうと思ったがギークの目を見て理解した。
その目には好奇心が溢れており、先にやってみたいという感情が
言葉にせずともわかる。だが友人として自分もいる以上、
公平にしようと言っているのだろう。
「よし、わかった!!それじゃあ行くぜっ!!」
「どっちが勝っても恨みっこなしだよ……!」
『Rock、Paper、Scissorsで!ワン、ツー、スリー!!』




