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湯上り─After a bath─



  「シャワーの順番で悩むだなんてなんでだと思ったら、

   なるほどそういうわけだったのか」



 サムが頷いているのはイオリに設置されているシャワー室の前。

 Gがわざわざシャワーの順番で揉めるのではと言っていたのは、

 ここにはシャワー室が1つしかないからなのだろう。


 

  「ギークは『バスタブに入るっていうものを体験してみたい』って

   風呂に向かったけど、どんなものなのか後で感想聞くか」



 服を乱雑に脱ぎ捨ててシャワー室に入ると、

 コックを捻って湯を浴びる。

 昨日はシャワーに入っていなかったことも相まってか

 いつもよりさらに気持ちよく感じ、ため息が漏れる。

 

 湯を止めて体を隅々まで洗うと、ここのボディソープは

 古風な固形のバー・石鹸ソープを使ってるんだな、とサムは驚いた。


 今までこのイオリで出てきたものは、

 デニムパンツにシャツ、食べ物はスパイシーツナロールと

 全て自分たちにも馴染みのある物ばかりだった。


 だからこそシャワー室にある物は液体シャワー石鹸ジェルだと思っていたのだが、

 しかし実際に使ってみると泡立ちも悪くなく

 使った後は滑らかな肌になった気もする。



  「何事も経験、か。昨日の生ツナしかり、

   気付かされることが多いなここは」



 ここに来てから退屈しないことだらけだとサムは微笑みを浮かべながら

 体の汚れを落としてシャワーで暖まった。


 すっきりさっぱりしてシャワーから出てくると、

 丁度ギークも風呂から上がったらしく、湯上がりの肌を風で冷ましていた。



  「あっ、サム……!お風呂っていうの凄かったよ……!

   木で組まれたバスタブにいっぱいの湯が張ってあるんだけど、

   体を洗ってそこに入ったら、体中が温かさに包まれて……

   疲れが全部吹き飛んだ感じだよ……!」

  「ははっ、感想はどのみち聞くつもりだったがもう聞けちまうとはな。

   それにしても、そんな気持ちいいのか……気になってきたな」

  「今度はサムも入ってみなよ……きっと気に入るよ……!」

  「そんなにか、じゃあ今度はそっちに入ってみるかなぁ」



 シャワー室の側に作りつけになっている棚からバスタオルを取って体を拭くと、

 なんだか自分の体の艶が増したような気がしてくる──さすがに気のせいだろう。



  「あっ、そういえばGが風呂上りに合う飲み物用意してるから、

   部屋においでって言ってたよ……行ってみない?」

  「風呂上りに合う飲み物?普通だったら水だよな……?」



 とにかく行ってみようと食事をする部屋に向かうと、

 そこにはGがトレイに薄茶色パールブラウンの飲み物らしきものをテーブルに乗せている。



  「おお、戻ってきたようじゃのぅ。

   湯加減はどうじゃったかな?」

  「僕の方は最高だったよG……!サムはどうだった……?」

  「何も問題なかったぜ、熱すぎず冷たすぎずいい感じだった」

  「ほっほっほ、それは何よりじゃ。

   日本では湯上りによく冷えた牛乳やコーヒー牛乳を飲んだりするんじゃ。

   おぬしらもよければどうかと思ってのぅ」



 コーヒーぎゅうにゅう?初めて聞く単語だと思いながら

 Gから差し出されたカップを受け取り一口飲んでみる──


 砂糖の甘さと濃厚なミルクの美味さが口の中に広がり、

 コーヒーの香ばしさが鼻に抜けていく。

 なにより良く冷えたミルクが火照った体に染み渡っていくようだ。


 今までシャワー上がりには冷たい水が最高だと思っていたが、

 なるほど甘いコーヒー牛乳とやらも悪くない。



  「へぇ、シャワー上がりに冷たいミルクってのは、

   悪くねぇもんだな!!少しばかり子供っぽいけどよ」

  「甘ーいのが体に染み込んでいくみたいだよぉ……

   これいいねぇ、僕好きだよ……!」

  「気に入ってもらえたかの、ならば用意した甲斐もあったというものじゃ」



 Gの柔和な笑みに、ギークも頷き返して笑顔を返す。

 サムもそれに倣ってGに笑顔を向ける、

 確かに美味いドリンクを用意してくれた事に礼をしなければ。



  「ありがとうなミスター、美味いコーヒーご馳走さん」

  「ほっほっほ、さむ君も喜んでくれたようで何よりじゃよ」



 さて、と言ってGはトレイに空になったカップを乗せると、

 キッチンへと持っていき洗い始める音が聞こえた。



  「あっ、僕洗い物手伝ってくるよ……

   いつも用意してもらってばかりだし、

   さっき怠惰を自覚したばかりだからね……!」

  「ははっ、それを言われちまうと俺も

   何もしないってわけにはいかねぇな。

   よしっ、俺も手伝いに行くか!!」



 2人で連れ立ってキッチンへと向かいGの洗い物に参加し、

 3人で談笑しながら進めると、あっという間に洗い物は終わった、


 しかし今までこれだけの仕事をGひとりにさせていたと思うと申し訳なく思う、

 サムとギークがそう思っていると、それを見透かしたかのようにGが笑った。

 

 

  「ほっほっほ、2人ともありがとう。

   しかし不安じゃろう2人に仕事を押し付けてはと思ってのぅ。

   確かに仕事をしている間は不安を忘れることもできるじゃろう、

   しかし疲れは時に不安を加速させてしまうものじゃからのぅ。

   不安が払拭されるまではワシに出来ることをしようと

   思っておっただけのことじゃ」

  「ミスター……」

  「そんなこと思ってくれてたんだ……ありがとうG……」



 そうなると朝から仕事を割り振られたということは、

 自分たちの不安はある程度払拭されたとGは思ったのだろう。

 

 実際サムは昨日のやり取りで不安はかなり軽減され、

 そしてギークは相当の勇気を振り絞り今朝の話をしたことで

 不安を払ったと思われる。

 さすがはGである、すべて見透かされていたのだろう。



  「ははっ、ミスターGはやっぱりサイキックなんじゃねぇか?

   見事に俺たちのことを見抜いてやがる」

  「まぁGだからね……今更不思議にも思わないよ……!」

  「ほっほっほ、そんなにワシは不思議な力を持っているように

   見えるのかのぅ?」



 不思議そうに首を傾げるGに『気付いてないのかよ!!』と

 2人でツッコミを入れると、Gは心底愉快そうに笑った。


 寝室に戻ってくるとサムはベッドに身を投げ出す。

 先ほどそれぞれの寝室に戻る前に、Gから

 


  「さて、明日からは本格的にさぶらいになるための

   稽古を始めるからの、覚悟しておきなさい」



 と告げられた。

 

 正直言ってすでに胸の高鳴りが抑えられない、

 眠気が来るかどうかもわからないほど興奮が止まらない。

 

 何より、Gの言った事が忘れられない。



  「歴史を改ざんなどせずとも、おぬしらは死してなお成長を続けておる。

   ならばいつかおぬしらが生まれ変わりを遂げた時、

   現在の、この経験は決して無駄にはならんじゃろう。

   その時、新たなる侍が誕生するはずじゃ。

   それこそ黒人が本物の侍として生きる時も来るじゃろうて」



 手を伸ばして虚空を、いや、〝夢〟を掴む。

 今まで想像でしかなることを許されなかったサムライに、自分がなる。

 

 そして、その経験は魂に受け継がれていく、

 そのことが嬉しくてならなかった。



  「明日が来るのがこんなに楽しみなのは、

   ガブリエルに会った時以来だな……!」



 自分の言葉をかみしめながら目を閉じる、

 釣りをしただけだが意外と疲れが溜まっていたのか

 サムはそのまま眠りに就いたのだった。






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