表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/26

洗濯─Cleaning─



  Gに連れられてやって来たのは、包丁やまな板カッティングボードがあるところを見るに

 ジャパン風のキッチンの様だった。

 となると初めに習うのは料理だろうか?

 そんなことを考えていると、Gは近くにあった扉から外に出る。



  「料理は慣れておらんと確かに難しいじゃろう。

   なので、2人にはまず洗濯をしてもらおうかの」

  「洗濯か、洗濯機はねぇのか?」

  「ま、まさか洗濯板で洗えっていうんじゃないよね……?

   僕、やったことないんだけど……」


 

 不安そうに辺りを見回すギークに、

 Gは微笑みながらある場所を指し示した。



  「ほっほっほ、ワシも歳をとってしまってな。

   昔は洗濯板だったんじゃが、最近は帝釈天様のお気遣いかのぅ。

   洗濯桶の中に洗剤を放り込むと勝手に洗ってくれるという

   年寄りには嬉しい構造になっておるんじゃ」

  「へぇ……その〝タイシャクテン〟っていう人は、Gに優しい人なんだね。

   洗濯機を用意してくれるなんて、とってもいい人だ……

   うん、それなら僕も手伝えそう……!」

  「俺も洗濯板で洗うのかって正直震えあがってたとこだが、

   それなら問題なさそうだな。

   こう見えて貧弱なもんでね」

  「そ、その腕の筋肉で?」

  「ああ、見せかけだけのお飾りだからな」



 冗談を言い合いながらサムとギークが笑いあっていると、

 「しかしじゃ」とGが付け加えた。



  「水は勝手に注がれてはくれんから井戸に汲みに行く必要がある、

   案外馬鹿にならん運動になるから覚悟した方がいいのぅ」

  『えっ』



 Gが指示した方向を見ると、ざっと11ヤードほど離れたところに

 相当田舎でしか見ないような井戸がある。

 そこから水を汲んで歩くとなると、確かに重労働になりそうだった。


 

  『おぅ……』

  「ほっほっほ、じゃが運ぶのは桶いっぱいを5回程度じゃ。

   水の節約にもなるし体への負担も少ない、脅かしてすまんかったのぅ」



 Gが井戸に歩み寄りながら説明をして、

 井戸の側に転がっていた桶のうちの1つを手に取った。


 見た限り桶の大きさはバスケットボールがすっぽり入るくらいの大きさで、

 確かにそこまで大きくはない。

 これなら5往復するぐらいなら問題はなさそうだった。



  「……ちょっと持たせてもらってもいいか、ミスターG?」

  「おお、いいとも。何なら早速汲んでみるかね?」



 サムは桶を受け取り、その重さを何と似ているか考えた。

 思い出せる限りだと近所に住んでいた家のダックスフントの子犬ぐらいだろうか?

 それと同じくらいの重さだと思う。



  「なぁギーク、子犬のダックスフント抱っこしたことあるか?」

  「う、うーん……小さいころ抱っこしたことがある、かも……?」

  「桶の重さはそんぐらいだな。大した重さじゃねぇから

   お前でも俺でも楽に使えそうだ」



 サムの説明に首を傾げながらも「それならいけるかも……?」と

 ギークは納得したらしく、笑顔で頷いて見せた。



  「さてと、それじゃ水を汲んだらどれだけ重くなるか

   見てみましょうかね、っと」



 井戸にロープのついた桶を下ろして水を汲んでみると、なるほどかなり重い。

 それでも引き上げるのには苦労はしない程度の重さだ、が。

 


  「おっと……さっきの話の続きだがよギーク……

   子犬のダックスフントがいきなり鉛のインゴットに置き換わったら、

   びっくりせずに抱き続けられるか……!?」

  「えっ……何、何の話──あっ、重さの話か……!

   鉛の重さがどんだけかはわからないけど、

   とりあえず持ち続けることは……ギリギリできるんじゃないかな……?」

  「よしいいぞ……!それなら大丈夫だな」



 サムが水の入った桶を引き上げると、すっかり息が上がっていた。

 だが何か言いようのない充実した気分になり笑顔になると、

 Gはサムの目の前に手を差し出す。



  「よくやってくれた、いい子じゃ。

   ぎいく君もやってみるかね?聞くのとやってみるのでは

   違うかもしれんからな」

  「う、うん……聞いていたけど、確かに出来るかわかんないとこもあるから

   やってみようかな……サムのおかげで気を付ける所はわかったし……」



 サムは水を近くに置いてあった桶に移し替えると、ギークに手渡した。

 


  「うん、確かに子犬くらいの重さだね……よしっ……!」



 ギークが井戸に桶を下ろしていくと、

 桶が無くなったような感覚がした後に少し引き上げると、

 途端にがくりと重さがかかった。

 


  「うわっ……!本当に重いね……っ!」

  「大丈夫そうか?」

  「あはははっ……こう言ったらなんだけど……

   初めにあったサムを説得しろって言われるよりかは、

   ずっと楽だよ……っ!」

  「ははっ!!こいつ!!」



 桶の引き上げで普段使っていなかった腕に負荷がかかる、

 しかし精いっぱいロープを引き上げ続けていると

 桶の取っ手が井戸の淵に見え、ようやく引き上げきることが出来た。



  「はぁ……はぁ……で、出来た……!」

  「よくやったのぅぎいく君、いい子じゃいい子じゃ」

  「やるじゃねぇかギーク!これからはナードなんて呼べねぇな!」



 大汗をかいたギークは息を整えながらも、褒められて嬉しいやら

 気恥ずかしいやらで照れ笑いを浮かべた。



  「あははは……そ、そんな褒めることでも……」

  「何を言っておる、普段しておらんようなことに挑戦して

   きちんとやり遂げたんじゃ。

   褒めることは当然のことじゃよ」

  「そ、そうかな……?」



 いつまでも続きそうなGとギークのやり取りを見て、

 サムは咳ばらいを1つして間に入り込んだ。



  「オホンッ、あー、悪ぃんだけどその辺でいいか?

   いつまでもここで褒め合ってるわけにもいかねぇんだろ?」

  「おお、そうじゃったな。

   では水汲みを済ませて洗濯を始めるとするかの、

   おぬしらもその服、昨日から来たままで汗も掻いておるじゃろう」

  


 そう言われてサムとギークは自分の着ているシャツの匂いを嗅いでみる。

 確かに汗をかいたからか、どことなく臭いを発している気がする……



  「……確かに少し臭うか?気にならなかったけど、

   言われると気になっちまうなぁ……」

  「うん……一度気になるとずっと気になるよね……」

  「おお、すまんかったのぅ。

   ワシは特に悪臭など感じておらんが、もしやと思って

   聞いてみただけだったのじゃが」



 申し訳なさそうに頭を下げるGに、サムとギークは

 気にしなくていいのに、といいながらシャツを脱いだ。



  「いや、俺たち自身が気になっちまってるからな。

   どうせなら下も洗っちまうか?」

  「そ、そうする?どのみちここには僕らしかいないって

   Gも言ってたし……」

  「おお、なんとそこまで洗ってしまうとはのぅ。

   では少し待っておるのじゃ、着替えを持ってくるからのぅ」



 そう言ってGはそそくさとイオリの中に戻っていき、

 しばらくすると何かの服を手に戻ってきた。



  「どうやらこれがおぬしらの着替えの様じゃな。

   おぬしらに当てがわれた部屋に置かれておったよ」

  「えっ、マジか?気付かなかったぜ……そのままにして

   出てきちまったのか」

  「今度からは部屋の中をくまなく探してから出てきた方が

   良いかもしれないね……」



 受け取った服を広げながらどんな服なのかと少しばかり

 不安を抱いていると、それは何の変哲もないシャツとデニムパンツだった。

 


  「おっ、存外普通な服が出てきたな」

  「ジャ、ジャパンの着物とか出てくるかと思って、

   ちょっぴり不安だったけど良かったぁ……」



 いそいそと服を着て水を運び、洗濯桶の中に洗剤諸共すべて放り込むと、

 Gが言っていた通り桶の中で水が渦を巻いて服が洗われている。


 面白い光景だと思いながらも、Gに促されて

 サムとギークは次の場所へと足を向けた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ