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庵─Hermitage─



  それは過去の出来事だったか、

 未来の出来事であるのか。


 明日が来ることを望んでいた2人の若者が

 

 ──死んだ。


 



 それは避けられない死であった、

 しかし他の誰かに状況を話したとしても

 信じてもらえるかは怪しいものである。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 暖かな光が瞼越しにでもわかる。

 人工の光か、はたまた自然光だろうか。

 

 どちらなのだろうとぼんやり考えていると、

 腰のあたりに痛みが走った。

 


  「痛て……」



 目を開いて始めに出た言葉がそれだった。


 周りを見回すと、

 そこは見たこともない場所だった。

 

 地面は白い小さな砂利がぎっしりと

 敷き詰められており、

 そうかと思えば苔に覆われかけている

 岩が突き出していたりする。



  「一体何なんだここ──」



 そう口に出た瞬間、

 自分のすぐ隣から呻き声が聞こえて

 跳ね上がるように飛び退いた。



  「うぅ~ん……

   こ、ここは……?」



 頭をもたげたのはなよなよした金髪の青年、

 そして──



  「……白人かよ」

  「へ?……うォっ!?

   何誰アンタ!?

   こ、こ、黒人……!?」



 目の前にへたり込んだ若者は、

 正直気に食わない白人だった。

 それも自分が黒人であることをわざわざ指摘してくるような

 一番嫌いなタイプである。

 


  「なんだ、黒人が息をしてたら犯罪だってのか?

   地面にでも同化してろっていうのか?」

  「い、いやいやいや!

   ぼ、ぼ、僕はそんなこと一言も言ってませんけど……!?」



 睨みつけると貧弱な男はぶるぶる震えて

 Tシャツを引き伸ばして顔を隠した。

 そんなふうに怯える様子が、

 さらにはらわたを煮えくり返らせた。



  「さっきからムカつく態度だぜ……!

   いちいち黒人だって指摘してきたりよぉ、

   人の顔見てビビりやがって……!!!」

  「だ、だってェ……

   そんな態度取られたら誰だって

   怯えると思うんだけど……!

   だ、大体みんなそうだ……!

   あんたら威圧感先に出してきて

   こっちにまともに話をさせてくれないんだ……!」



 喧嘩を吹っ掛けられている気分だった、

 いや、実際買い言葉に売り言葉という文句を

 聞いたことがある。

 

 要はこいつはこちらに対して敵対的な態度を

 崩すつもりはないということだろう。



  「OK、まともに話をするつもりはないんだな?

   じゃあこっちも口で語る必要はねぇわけだ」

  「ぼ、暴力反対……!」



 頭を守るように両手を頭にかざした男に、

 「そうか」と告げて攻撃ではなく

 〝口撃〟をしてやることにした。



  「力で組み伏せるだけが俺たちの特徴だと思ってんのか?

   随分と年代物の頭してるみたいじゃねぇか!

   年の割には脳みそ錆まみれなんじゃないかナード君よぉ?

   オーバーホールでもして貰えよ!!」

  「そ、そんなこと昔っから

   周りに言われ慣れてて痛くも痒くもないねっ。

   あ、あんたこそ色白だったら全員PCオタクナードとか

   随分な偏見じゃないか……!

   黒人にだって僕たちみたいな人は

   いるに決まってるだろ……!

   ば、ば、ばぁか!」



 |小学5年生(fifth grade)レベルの言葉で馬鹿にされたことに

 思わずカッとなり、

 思考よりも先に腕が動いていた。



  「ヒっ……!」



 怯えた顔を見て一瞬「まずった」とも思うが、

 それでも感情が制御できないまま握りこぶしが

 天高く振り上げられる──



  「そこまでぃ!!!」



 横合いから飛んできた鋭い声に驚き

 思わずそちらへ目を向ける。


 そこに居たのは小柄な老人で

 映画やコミック誌で見たような

 サムライめいた服装をしている。

 ほかに人の姿はなく今の気圧されるような

 制止の声はその老人が発したとしか思えない、

 しかしどう見ても60歳は越えていそうな老人に

 あんなに鋭い声は出せそうに思えないが……? 



  「い、今の声あのおじいさんが……?」

  「なんだアンタ……いったい何の用だ!

   俺たちは今取り込み中なんだよ、

   邪魔するんじゃねぇよ!」



 威嚇する目的で強い語気で返事をするも、

 老人は全くうろたえた様子を見せず

 むしろこちらに向かって近寄ってきた。



  「ほっほっほ……

   青年が暴力を振るわれそうになっておるのを

   黙って見過ごせるほど、

   ワシは無関心ではおられんでな。

   気が立ってるときは大抵腹が減っているからじゃ、

   こちらに来なさい。

   菓子のひとつでもご馳走しよう」



 そう言ってついてくるよう目でこちらに促すと、

 老人は踵を返して歩いていく。

 文字通り振り上げた拳の下ろし所を失って

 どうしたものかと男とアイコンタクトを交わす。

 

 初めて会った者同士だがどうやら相手も

 同じ気持ちらしく、

 仕方なく連れ立って老人の後についていくことになった。

 

 ほんの少しばかり移動したところで、

 老人が歩きながらこちらを振り返る。



  「おお、そうじゃった。

   名前も聞かずに話は出来んからのう、

   よければおぬしらの名前を教えてはくれんか?

   ワシの名は、そうじゃな……

   じいとでも呼んでもらえればいいぞ」

  『G?』


 

 男と一緒にきょとんとした顔になり聞き返すと、

 老人は笑顔のままうむうむと頷いて

 こちらの名前を催促した。



  「おぉほれ、

   何と呼べばいいんじゃ?」



 明らかに本名フルネームではない言い回しに

 眉をひそめながら、

 男が先に切り出す。



  「ぼ、僕は──

   僕のことはギークって呼んでほしいかな……

   そ、そういえばあんたのことは

   な、なんて呼べばいいんだろう……?」



 そう言いながらこちらを2人分の

 視線が見つめる。

 どうしても言わなきゃならないらしいと観念し、

 〝俺〟は思いついた名前を口に出した。



  「俺は……サム、

   サムって呼んでくれりゃあ良い」

  「うむうむ、

   ぎいく君にさむ君だな。

   まぁゆっくりしていきなさい、

   ここがどこなのかもお茶請けにでも

   話そうかの」



 それを聞いた俺たちの目線の先に、

 小さな建物らしきものが見えてくる。

 小屋と表現した方がいいのだろうか、

 しかし造りはしっかりしているようだった。



  「ワシのいおりへようこそ」






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