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ルアキン畑の真ん中で

翌朝、あぜ道の柵越しに、萎れる寸前のような弱弱しい麦がまばらに生えるルアキンの畑を一人で眺めていると、ぽつぽつと3人が集まってきた。

なんとなく挨拶を交わした後、前夜のうちに考えた計画を話し始める。


「いいか、昨日の話を踏まえて村全体の問題を解決する方法を考えたんだ。まず税金が重すぎるという点が一番の問題だな?」


「ああ、だが領主に掛け合うのは危険だと言ったよな?てめぇが命がけで行ってくれるとでも?」ブルノーが不安そうに言う。


「いや、そんな危険を冒す必要はない。直接領主に掛け合うのではなく、村全体で協力して状況を改善するんだ。」


「へぇ、それで、具体的にはどうする?」ルアキンが興味津々に尋ねる。


「まず、村全体で協力して生産性を向上させることが重要だ。ここで大事なのは、無理に働くのではなく、効率を上げることだ。」

少し考えながら、アイデアを説明する。

「例えば、ルアキンの畑ではどうやって麦を育てている?」


「どうってそりゃ、秋に畑をよく耕し種を蒔いて、たまに雑草を抜いて収穫の時期を迎える。単純だがきつい仕事だ。」ルアキンが答える。


「そうか、土に水はやらないのか?」

畑に入り少し土を掴み、手の中で握りつぶして3人に見せる。乾燥した土が砂になって手のひらからこぼれ落ちていく。

「土がこんなに乾燥していては実るものも実らないだろう?」


「そりゃ...そうしたいのは山々だが、ここは丘になっていて水源が無ぇ。もともとそういう土地なんだよ。仕方ねぇ。」ルアキンが首を振って答える。


「そうだぞカズキ。この辺りは川も流れてないからな。実りが悪いのは昔からだ。」ブルノ―が相槌を打つ。


「なるほどね。だったらそれを解決しよう。実は昨日この辺りを見て回って、おおよその目途はつけていたのさ。」

丘の頂上を指さす。

「あのてっぺんから水を流して、この辺り一帯を潤す。」


「は!そんなこと魔法でもできっこねぇ!」ルアキンがあざけるように即答する。


「できるさ。そのための方法を考えてきた。」


「本当か?」ブルノ―が訝しがる。


「無理でしょう。」腕を組んで会話を聞いていたバリヤットが吐き捨てるように言う。

「そもそも水はどこからやってくるんです?まさか井戸を掘って汲み上げろと?」


「ああ、そのまさかだ。」即答する。


「クフフフフフ、カズキさんは夢想家ですねぇ!」バリヤットが馬鹿にしたように笑う。

「それを誰がやるんです?この土地を潤せるほどの水を汲み上げられるわけないでしょう?」


「風車を使う。」人差し指を立ててウインクして見せる。


「風車?なんだそれは?」ルアキンがバリヤットを見やる。


「ルアキンさんはご存じないんですねぇ。西方の地域でたまに見かけますよ。風の力で大きな羽を回して石臼を動かすんです。」バリヤットが説明する。

「でもそれって麦の製粉機ですよ?水の汲み上げとは関係ない...」


「いや、できる。風車を使って水を汲み上げるんだ。」

「丘の上に深い井戸を掘り、風車を作って水を汲み上げる。丘から水路を引いてこの土地中に張り巡らせる。」

「それでこの土地は一気に豊かになる。」


「できるのか...?」ルアキンは目を輝かせる。


「いや...いやいや仮にですよ!仮に風車で水を汲み上げられるとして、誰がそれを作るんです!?」

「風車なんて家建てるのと同じくらいお金がかかりますし、そもそも設計できる人間もいない!」

「不可能ですよ!!」バリヤットが慌てる。


「設計は俺がやる。ブルノ―、図面があれば建ててくれるな?」


「えぇ...。あんた図面描けるのかい?素人が描いた図面なんてご免だぞ。」ブルノ―は疑っているようだ。


「それは心配しなくていい。これでもエンジニアだ。図面は昔から何百枚と描いてきた。」


「エンジニア...?聞いたことねぇが、とにかくそれなら一見の価値はありそうだな。」ブルノ―が肩をすくめる。


しまった。この世界にエンジニアなんて職業は当然に存在しないだろう。以後気をつけねば。


「いやいや...だからお金はどうするんです?ルアキンにそんなお金はありませんよ。」バリヤットが困ったように言う。


「なんだとこのっ...、」ルアキンがバリヤットを睨みつける。

「クソ!だがバリヤットの言うとおりだ。バリヤットならまだしも、俺に家建てるような金はねぇ。」ルアキンは俯いて肩を落とす。


「だからバリヤットがルアキンに金を貸すんだよ。ルアキンは借りた金の1.5倍を20年かけて返す。」

「ルアキン、お前とその息子たちは命に代えてもバリヤットに金を返す責任を負う。その代わり土地は大いに豊かになり、下流の土地に水を売ることもできる。」

「俺の計算では毎年十分に儲けがでるはずだ。どうだ、この話に賭けてみる気はないか?」


「ぐっ...。それは...いい話なのかもしれねぇな。どうせこのままだといずれ税金に殺される...。」ルアキンが額に皺を寄せて悩む。


しばらく3人を無言が包む。それぞれが事を真剣に考え始めているようだ。


「とにかく...だ。この計画がうまくいけばルアキンは実り豊かな土地と水源を手に入れ、ブルノ―には大きな大工仕事が待っている。バリヤットは安定して多額の利子を得るだろう。君たち3人を含め村中が豊かになるには、これが一番だと思うんだ。」

「大きな話だ。すぐに決心はできないだろう。だから1週間後にここでまた集まろう。その時には俺も図面を用意しておく。」


――いつの間にか日は高く上っており、遠くでルアキンの妻がルアキンを呼ぶ声がする。


「もう飯の時間か。潮時ってこったな。」ルアキンが声のする方に手を振りながら言う。


「よし、詳しい話は次回だ。俺も頭が回っちゃいねぇ。少し頭冷やしながら考えてみっか。」ブルノ―が腰かけていた柵から立ち上がる。


「そうですね。まぁ利益になるのだったらなんでもいいですよ。でも案外にあなたのことは信じてもいいのかもしれません。」バリヤットが大げさに肩をすくめ、笑って見せた。


少しは信頼を勝ち得ることができたのだろう。悪くない気分だ。

「ああ、それじゃ、また。」


そうやってその日は解散したのだった。

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