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大賢者カズキのなんでも相談室

――大賢者カズキのなんでも相談室 1回1000ギル 初回無料――


古物商で買った手ごろなカーペットを道端に敷いて、立て看板一つで商売を始めた。

相談を受けてアドバイスを行い、対価を受け取る。

いわゆるコンサルタントである。


「ねーねーおかーさん、あれなーに?」

親子連れの一組が寄ってくる。

「こんにちはお嬢さん。なにか困りごとはないかな?この大賢者カズキがなんでも解決してあげよう。」

好奇心を絵に描いたような女児が聞いてくる。

「それじゃーねー、赤ちゃんってどうやったらできるのー?」

「「えっ」」

ニコニコ顔をしていた母親とカズキの顔が一瞬ひきつる。

「私ねー、弟が欲しいんだけどねー、おかーさんが無理だって言うのー」

「だから私がつくるのー」

無垢な好奇心ほど恐ろしいものはない。

「まぁなんてこと言うのこの子は。ごめんなさいねさぁ行きましょうー」

母親は苦笑しながら無理やり女児の手を引いていこうとする。

「まぁ待ちなさいお母さん。もし悩みがあるなら―」

「余計なお世話よ!ほら、さっさと行くわよ。」

親子は行ってしまった。

まぁ初めはこんなもんだろう。


次々に物見客はやってくる。

「鍋の焦げ付きが大変で――」

「ふむふむ、天日干ししてからこすりなさい。」

「お父ちゃんの足が臭くて――」

「ふむふむ、靴に銅貨を入れなさい。」

「嫁の料理がマズくって――」

「ふむふむ、料理本を買ってあげなさい。」

「「「おぉ、確かに効果あったよ!」」」

――なんか違うんだよなぁ。


しばらく生活の知恵のような相談が続いた後だった。

「はっ、お前が本当に大賢者様なら、この貧しさをどうにかしてくれよ。」

眼光鋭い筋肉質な男が投げ捨てるように言ってきた。

「そうだそうだ!」

卑屈な目つきの小柄な男が言う。

「この村はみんな食うものも金もなくて困ってるんだ。守銭奴のバリヤットは違うがなぁ!」

小柄な男の目線の先には恰幅のいい身なりの整った男がいた。

「うるさいですねぇ。」

バリヤットと呼ばれた恰幅のいい男はやれやれという感じで頭を振った。

「ふむ、そうか。話を聞いてみよう。君たちの名前を教えてくれるかな。」

――そうそう、こういう真剣な依頼を待っていたんだ。


筋肉質の男の名はブルノ―。独身。この村で大工を生業としている。

「最近じゃ家を建てる野郎なんてめっきり減っちまってよ。商売あがったりってもんだ。」

ブルノ―が言う。

「そりゃあったりめーよ。この村のどこにそんな余裕がある奴がいるってぇんだい。おーバリヤットは違うがなぁ!」

バリヤットに憎まれ口を叩いたこの小柄な男はルアキン。妻1人子ども4人。農家だ。

「うるさいですねぇ。あなたたちがしっかりしないから金が逃げていくんですよ。」

バリヤットは金貸しだ。妻と二人、村一番の邸宅に住んでいる。

「昔馴染みって言うのにちーっとも金を貸しやがらねぇ。ちょっとくらい助けろや。」

ルアキンが文句を垂れる。

「返す当てがないんでしょう?だったら貸せるわけないですよ。慈善事業じゃあるまいし。」

バリヤットがまたやれやれと首を振った。


「それで、3人はどうしてこの村が貧しいと思う?」

脱線しそうなので話を戻す。

「みなさんが怠惰だからですよ。」

バリヤットが当たり前と言わんばかりの顔で答える。

「わからねぇ。みんな金がねぇんだ。金がねぇから俺みたいな大工は一番に割り食っちまう。」

ブルノ―が頭を振る。

ルアキンが言う。

「そりゃ税金が重いからなぁ!農家はみんな種もみに手を出しちまう。収穫は減るのに税は重めぇ。」

「そんなに重いですか?」

バリヤットの発言にルアキンが憎しみを込めて返す。

「バリヤットのところは違うみてぇだがなぁ!」

「税金は頭数(あたまかず)で決まります。お宅が身の程もわきまえずポンポン生むからでは?」

バリヤットも火に油を注ぐ。

「うるせぇなぁ!」

この2人はなんだかんだ仲がいいのだろうか?


話を整理する。

税金が重い。税金が重いから農家は苦しい。農家に金がないから大工のような職人も困る。

金が回らなくなれば今余裕そうな顔をしているバリヤットのような金貸しもいずれ困窮するだろう。

問題の核心は税金だ。税金が重すぎて経済を不当に圧迫している。

「税金を減らすように領主に掛け合えないのか?」

3人の顔がさっと曇る。

「そんなこと軽々しくいうんじゃねぇ。殺されちまうぞ。」

「去年は嘆願に行ったゾックとチャドが見せしめに処刑されっちまった。」

ルアキンとブルノ―が顔を見合わせながら言う。

「もう何人も殺されていますよ。止めても聞かなくて...。毎年のことでみんな慣れちゃいましたけどね。」

バリヤットが下を向いて言う。

事態は深刻なようだ。


「そうか...。少し考えたいから時間をくれないか?」


翌日ルアキンの畑に集合する約束をして、その日は切り上げたのだった。

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