五十二、褒美
天界に戻ると同時に女神様が授けて下さったティアラが消えた。
役目を終えたからだろう。
神殿の前の広場に降り立つ。
女神様と白いヒゲのある優しい顔をした男神様が待っていた。
女神様が男神様の一歩後ろに下がっている。
男神様は偉い神様みたいだ。
あたしは、跪いた。
男神様の声が浪々と響いた。
「わしゃ、この世界の創造神じゃ。そなた、よくぞ、魔素減少の問題を解決したな。運が良かったとはいえ、そなたが解決しようとせなんだら、魔素はどんどん減っていたじゃろう。そこでじゃ、何か褒美を遣わそうと思う。希望を申してみよ」
いきなり褒美とか言われても、、、。
どうしよう。
あ、そうだ!
「陛下を、ヴォルフガング陛下をエンペラースライムの体から人の体にしてさし上げて下さい。そして、先輩を安らかに眠らせて上げて下さい」
「なんと、自分の望みではなく、他人の望みを叶えてくれと申すか?」
「はい、、、。あたし、陛下のお気持ちがよくわかるんです。陛下は最愛の婚約者を突然亡くされてて、あたしも憧れの先輩を亡くしてて、、、」
「そなたの憧れの先輩は形は違うが、まだ、生きていように死んだと申すか?」
「あの方は、あたしが憧れた先輩ではありません。先輩は変ってしまいました。年を取ったせいなのか、権力を握ったからなのか、わかりませんが、とにかく違う人になってしまいました。それに、エンペラースライムを使って生き長らえようなんて、そんな事許される筈がありません。その上、先輩はわたし達の世界の科学技術をこの世界に持ち込んでいます。それは決していい事ではないと思います」
「ふむ、希望はわかった。しかし、それは出来ぬな」
「え? 何故でございます?」
「本人が望むかどうか、わからぬからじゃ。だが、そうじゃの。もし、彼らが望んだら一人は人の体に、一人は永遠の眠りにつける薬を授けよう」
空中にクリスタルのビンが浮かんだ。中に青い液体が入っている。
「あくまで、本人が望んだらじゃ。彼等が自分達の意志で飲むに任せるのじゃぞ。その液体は彼等以外が飲んでも無害じゃ。ただの青い水じゃ。わかりやすいように色はつけたが味も匂いもない」
あたしは薬のビンを両手で受け止めた。
クリスタルが手の中でキラキラと輝いている。
「そなた、元の世界に戻りたいのであろう?」
「はい、戻りたいです。ですが、あたしはこちらの世界に怪獣の破片をばらまいてしまいました。あれを回収するべきではないかと思うのです。あたしが、、、その、、、責任を持って」
「フォッフォッフォッ、責任感の強いことじゃのう。よかろう。じゃが、そなたが総て回収するのは、無理であろう。しかし、そなたが、十分責任を果たしたと思ったら、いつでも、天界に来ればよい。こちらに来た時に使ったオパールに触れるのじゃ。いつでも、元の世界に戻そうぞ」
「あの、記憶はそのままで帰れますか?」
「ふむ、御主が望むならな」
「ありがとうございます。では、怪獣の破片を集めに王宮へ戻りたいと思います。戻して下さいますか?」
「わかった。では、女神よ、あとを頼む。さらばじゃ、娘よ、元気でな。フォッフォッフォッ」
豊かな笑い声と共に神様は消えた。
女神ククチュウレがあたしにネックレスを差し出した。
「これを、そなたに授けよう。怪獣の破片にちかづくと、中央の宝石が赤く光って教えてくれる」
「ありがとうございます」
これって、何の石だろう?
「水晶じゃ」
女神がまるで、あたしの心を読んだように言う。
「水晶に細工を施してある。使途達によると、取りきれなかった小さな破片は全部で九つ。世界各地に落ちたようじゃの。破片は魔物が喰らうと怪獣になるが、良い者が使えば助けになる。膨大な魔力を得られるので、人々の争いの種にもなるであろう。そなたの道は厳しい物になろうぞ。無理はするなよ」
「はい、女神様、九つの怪獣のかけら。精一杯がんばって集めます」
「うむ、では、そなたを王宮に戻そう。目を閉じよ。目を開けたらそなたの部屋じゃ」
言われた通り、目を閉じて開いたら王宮のあたしの部屋だった。
「アズサ様!」
サンドラさんが飛んで来た。
あたしを抱き締める。
「よくぞお戻りになられました! 一週間経っても二週間経っても連絡がなく、このまま天界に行ってしまわれたのかと心配しておりました」
瞳をうるうるさせて、サブリナさんが言う。
泣く程喜んでもらえるとは。
こっちまで、ぐっと来ちゃうじゃない!
「えーっと、あたしが天界に行ってからどれくらい経ったの?」
「一月です。貴族達が怪しみだしていて、誤魔化すのに大変でした」
「そうなのね。苦労をかけたわね」
あたし的には、十日間くらいの感じだったのに。
こっちでは、もっと時間が経ってたのね。
「で、どうだった? 魔素が減っている原因はわかったのか?」とスタッドさん。
こっちははドライだ。
「なんとかなったわ。ラーケン船長は?」
「今、航行中だ。王都とナシムの間を行ったり来たりしている。荷運びの仕事でてんてこまいしてるぜ。とにかくだ、あんたが戻ったって事は、魔素が減少している原因はわかったんだな」
「うん、それがね、わかっただけじゃなくてね。減っている原因を解決しちゃったの」
「はあ、そんなに簡単な事だったのか?」
「うーん、なんというか、運が良かったの。それより、陛下に帰った事を報告しなきゃ」
「いや、待て。何があったか話せ。あんたが、何の考えもなしに話したら、碌な事にならんからな」
あー、ぜんぜん信用してないんだ。
まあ、こっちの世界の事って、ほとんど知らないものね。
仕方ないか。
あたしは、何が起きていたか、事情をかいつまんで話した。
「つまり何か、闇の神の体内に入って原因を突き止めようとしたら、魔素減少の原因になっていた怪獣をやっつけたって事か」
「うん、そうなの」
「なんという幸運でしょう。アズサ様は強運の持ち主なのですね!」
サンドラさんが嬉しそうに言ってくれた。
「えーっと いやその、たまたまだから」
なんか照れる。
「しかし、怪獣のかけらっていう災厄の種は世界中にばらまかれたんだぞ」
「それはそれ、これはこれでいいのではないでしょうか? 非常に濃い魔素の固まりなのでしょう? ぜひ、手に入れたいですね」
「確かにな。……まず、陛下にのみ実情を話してだな、判断を仰いだ方がいいだろう。恐らくその固まりは人の手に余る力を持っているだろうからな」
ふと、恐ろしい事を考え付いた。
「破片を一つ、魔導砲にセットして使えるようにしたら、対岸の魔物領を焼け野原に出来るんじゃないかな?」
「ああ、そうだな。そして、世界を手に入れられるだろうよ。あんた、世界が欲しいのか?」
「いらないわよ。あ! でも、世界中の宝石は欲しいかも」
「今でも、たくさん持ってるんだろ? これ以上持ってどうするんだ?」
「いや、好きな物はあればあるほどいいかなって」
その時、ドアをノックする音が聞こえた。
陛下の侍従だった。
「陛下がお呼びでございます。至急、服装を改めて魔法使いの長の部屋までお出まし下さい」
「え? どうして、あたしが戻ったってわかったの?」
「貴女様がお戻りになったら、陛下に合図が行くよう部屋に仕掛けをしましてございます」
さすが、陛下!
すぐに伺いますと、侍従に言って急いで身支度を整えた。
魔法使いの長の部屋で陛下がオルグさんと共に待っていた。




