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五十一、闇の神の獄にて

 ひゅーっと落ちて行った先は、薄闇の大きな空間だった。

 床は固く冷たい。

 闇の神の寝姿だという大きな黒い山を見上げた。

 うーん、これは一度上空から見下ろした方がいいかも。

 バトラーにカゴを出して貰って乗り込む。そのカゴをサイコキネシスで持ち上げた。

 闇の神の上に浮かぶ。

 ステータスを出して、HPの減り具合を見ながら、闇の神の体全体を見渡した。

 向こうで何かが吹き出しているのか、埃が規則的に吹き上がるのが見える。


「バトラー、あれが、闇の神の口かしら?」

「そのように見受けられますな」

「とりあえず、見に行ってみましょう」


 埃が吹き上がっている場所を見下ろす。わずかに開いた口と鼻梁、閉じられた目が確認出来た。

 この辺が顔なのだろう。髪の毛がうねりながら広がっている。

 顔のあたりは比較的埃が少ないようだ。

 よし、首から下の埃を風魔法で吹き飛ばしましょうかね。

 こんなに埃が積もっていたら、お気の毒ですものね。


「クタル!」


 杖が現われる。クタルを使って方向を定めて詠唱する。


「風の精霊よ、我が想いのままに風を吹かせよ」


 ヒューッと風が吹いて埃が舞い上がり、闇の神の体の両脇に落ちた。


「よーし、この調子で埃を払って行くぞ」


と意気込んだ、その時。


「おい、おまえ! 何をしておる!」

「わが神に何をする!」

「そこから降りぬか!」


 突然、三人の女の顔が闇の中に浮かんだ。

 中央に浮かんだ顔が叫んだ。


「こら! 闇の神ディアフ・ルウレ様の御神体に何をしておる?!」


 三人の顔は真っ赤に染まり怒りを露にしている。

 なんか、やばい!


「あの、埃まみれのお体ではお気の毒と思い、埃を払っております」

「何、御神体を浄めておると申すか?」

「はい、さようでございます」

「嘘を申すな! どうせ何か悪さをしようとしておったに違いない! 人間は嘘つきじゃからの!」

「そうじゃ、そうじゃ」と後の二人が唱和する。

「ち、違います。本当に御神体を綺麗にしようとしていたのでございます! 第一、ここは獄の中、いたづらなど出来よう筈がありません」


 三人が顔を見合わせた。誤解していたと気付いたようだ。


「確かに、ここは獄の中じゃ、いたづらが出来よう筈はないの」

「あ、あの、あなた様は?」

「我らは、闇の神に仕える三人の魔女、人間共は我らを『黒の三姉妹』と呼んでおる。我が名はテトラ、こちらがセトラ、あちらがマトラだ」

「あの、ここは闇の神の獄ときいています。皆様は入れるのですか?」

「むろん、入れぬわ。しかし、影を写す事は出来る」とセトラが言った。

「今、そなたが話しておるのは、我らの影じゃ」とマトラが言う。

「そもそも、何故人間が獄にいるのじゃ?」とテトラが言った。

「実は、世界から魔素が減っていて、その原因を突き止めたいと女神様に願ったら、女神様が聞き届けて下さいまして、それで、獄に入れました。ですが、闇の神様が埃にまみれているのが、あまりにお気の毒で。それで、まず、御神体を浄めてからと思い、埃を払っておりました」

「なんと、魔素の減っておる理由を見つける為にここまでやって来たというのか、なんとあっぱれな」

「うむ、あっぱれである」

「あっぱれ、あっぱれ」

「我らも手伝いたいが、獄の中には入れぬゆえ、何も出来ぬ。そなたにまかせる故、綺麗にして差し上げておくれ」

「承知致しました」

「我らは御神体に供物を捧げるばかりで、お浄めするなど思いもよらなかったわ」

「供物? というのは?」

「むろん、心の闇よ。うらみつらみ、妬み、そねみ、あらゆる負の感情を捕まえて我らが神に捧げるのよ」


 三人がクククと嫌な笑い声を上げる。

 これ以上話したくないな。

 いやーな気分になりそう。


「あの、では、作業に戻っていいでしょうか?」

「うむ、よいぞ」


 三人の女の顔が消えた。

 いなくなったみたい。

 良かった。

 それにしても、薄暗いなあ。

 ここって、日が差し込まないから、時間がわからないのよね

 そうだ、時計を出して、作業をしよう。

 そしたら、休憩時間や寝る時間がわかるもんね。

 バトラーに預けているあたしの荷物から腕時計を出した。

 が、まともに動かなかった。

 ここは時空間が歪んでいるのだろう。

 バトラーに相談したら、砂時計を出してくれた。

 これで、大体の作業時間がわかるかな。

 働き過ぎて、体を壊さないようにしなくちゃね。

 さてと、作業を続けましょうかね。

 埃を払い、泥を洗い流す。

 顔は特に念入りに埃を払った。

 それから、床に溜まっていた泥を洗い流して、あたしの休む場所を確保する。

 夕方になったので、作業を中断して休んだ。

 翌日も掃除だ。今日は髪を洗いたい。

 サイコキネシスと水魔法を使って、頭のまわりに水の固まりを作って、そのなかで髪を揺さぶった。

 サイコキネシスを開放して汚れた水を流す。

 途中、休憩をはさみながら、三回繰り返した。

 それから、風魔法で髪を乾かす。

 はあ、重労働だわ。

 埃や汚れた水はバトラーが回収した。

 闇の神にふれていた埃ならば、何かに使えるかもしれないとバトラーが言うのだ。

 何に使うかわからないけど、使えそうな物はなんだって使わないとね。

 疲れたので、夕飯を食べて休んだ。


 こんな作業を続ける日が数日続いた。


「あー、やっと終った。っていうか、魔素の調査に来たのに、あたし、何やってるんだろう」

「埃を取り除いて、闇の神の体を浄めれば、見えてくる物もあるのではありませんか?」

「それはそうなんだけどさ」


 魔素は闇の神の呼気から出来るっていうけど、やっぱ、呼吸器官を調べてみようかな。

 埃を払った体はギリシャ諷の衣装の下に筋肉が隆々と浮き上がっていた。

 しかし、どうやって呼吸器官を調べよう。

 口から入るのは気が引ける。

 ちらっと見たけど、鋭い歯が並んでいた。

 万一、噛まれたらあの世行きだ。

 そうだ、医療ドラマで気管支挿管の話をしてたっけ。

 咽に穴を開けて、管を通すっていう話。

 闇の神の咽に穴をあけて、中に入ってみよう。


「バトラー、闇の神の咽に穴を開けたいんだけど、何か良い方法はない?」

「咽に穴を開けるのでございますか? 何の為にでございましょう?」

「魔素って闇の神の呼気からできているんでしょ。だったら、呼吸器官を調べたらいいかなって?」

「ということは、アズサ様は闇の神の体内にお入りになるのでしょうか?」

「ええ、そのつもり」

「でしたら、大きな剣が必要でございますね。しばらくお待ち下さい」


 バトラーが出してくれたのは、長さ5メートル、巾1メートルもあろうかという大剣だった。

 刀身が白く輝いている。


「こちらは、巨人族が使っていた剣でございます。切れ味も抜群かと」

「そうなのね、とりあえず、サイコキネシスで持ち上げられるかやってみましょう」


 サイコキネシスを使い、剣を持ち上げてみる。

 いけたわ!

 そのかわり、HPの減りが早い。

 ポーションを飲みながら作業した方がいいみたい。


「あたしの力で突き立てられるのかな?」


 大剣を咽にあてて、サイコキネシスを使って思いっきり刺した。

 が、はじかれた!


「何をしておる!」


 黒の三姉妹の顔が闇に浮かんだ。物凄い形相で喚いている。


「御神体に何をする!」


 三人が異口同音に叫んだ。


「えーっと、呼吸器官を調べたいんですが」

「ならぬ、ならぬ」

「御神体をなんとこころえる」

「御神体を傷つけるなどもっての他」

「で、でも」


 その時、上から強い光が差し込んだ。


「そこの者、アズサの邪魔をするでない。居ね!」


 ぎゃっという声と共に黒の三姉妹の影がなくなった。


「アズサ、そのような剣では我らに傷をつけられぬ。これを使うと良い」


 手の中にひと振りの短剣が落ちて来た。


「これは?」

「神々の剣じゃ。オリハルコンで出来ておる。名はビルネアン。大きさを自由に変えられる。大きくなれと命じれば大きくなる。元に戻れといえば、短剣に戻る」

「はい、ありがとうございます」


 女神から貰った短剣を抜いてみた。

 刀身が青く光っている。


「えっと、ビルネアン、大きくなれ!」


 あれ、大きくならない。

 なんで?


「おい、人間」

「え? 誰?」

「今、女神様から紹介された剣だ。ビルネアンだ」

「ええええ、剣がしゃべった!」

「しゃべるわけなかろう。お前の心に話しかけておるんだ。しっかりしろ」

「は? ああ、左様で」

「さて、大きくなれと命じるのはいいが、どれくらい大きくなればいいかわからねば、大きくなれんぞ」

「えーっと。どうしたらいいのかな? そうだ、バトラー、さっきの剣だして」


 あたしは、ビルネアンにバトラーが出した剣を見せた。


「このくらいの大きさになって欲しいんですが」

「よし、あいわかった」


 ビルネアンが長さ5メートル、巾1メートル程の大きさになった。

 それを闇の神の喉元にあて、サイコキネシスを使って思いきり刺した。


「ぎゃああああああ!」


 何かが飛び出してきた。

 跳ね飛ばされて、床に転げ落ちる。


「いてて、何、何が起きたの?」


 怪獣が空中に浮いていた。

 大剣が突き刺さっている。


「き、きさま、なんてことしやが…る……」


 怪獣の体が爆発した。

 飛び散る怪獣。

 落下する大剣。


「ビルネアン、元に戻れ!」


 避けながら叫ぶ。

 大剣の下敷きになると思った瞬間、剣は短剣に戻っていた。


「ふー、一体、何があったの?」


 あれは何?

 なんか、百足っぽいのが絶命して弾けたけど。


「よくやったの。見ていたぞ」


 女神の声が聞こえた。


「え? 何がですか?」

「我らも知らなんだが、闇の神の魔素を作る器官に怪獣が住み着いていたようじゃ。そもそもは小さな虫であったのだろう。闇の神も知らぬ事であったのだろうよ。それが、魔素を食らって大きくなり、怪獣となって欲しいままに魔素を食らっておったのであろう、魔素の生産が落ちて当たり前であった。そなたが、咽を切り裂こうと大剣をふるったら、たまたま、怪獣をさし貫いたのであろう。原因を探す為の行為が原因を取り除く行為になってしまったのだ。そなた、なかなかに運がいいの」

「はあ、ありがとうございます。ということは、問題は解決したと思っていいのでしょうか?」

「ふむ、たしかに解決したが……、怪獣のかけらが世界に飛び散った。かけらには魔素が大量にふくまれておる。あれを回収した方が良かろうな。かけらを食らうと怪物になろうからの」

「えー! そうなんですか! めっちゃ、やばいじゃないですか!」

「仕方があるまい。しかし、そうだの。大きなかけらは、我が使途達に回収させよう。残りはそなたらでなんとか出来るであろう」


 というわけで、分裂した怪獣の大きなかけらは女神様が回収して下さった。

 残りの小さな破片は、世界中に散らばってしまった。

 もしかして、これを回収するのって、あたしの仕事?

 問題が解決したと思ったら、次の問題が!

 あー、どうしたらいいんだろう

 とりあえず、王宮に帰って先輩や陛下に報告しなきゃ。

 先輩、魔素が減ってる問題は、あたしの運だけで、解決しました!

 科学は全く使いませんでした!

 って、先輩に報告したら呆れるだろうな!

 女神様に頼んで、王宮に戻して貰わないとって思ってたら、女神様に引っ張られて天界に戻っていた。



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