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四十八、王宮の広間にて

 大広間では貴族達が集まっていた。

 その中に、初めて見る顔があった。

 サンドラさんから王の兄、ディートハルト様だと教えてもらった。

 短めに刈り込まれた金色の髪、ブルーグリーンの瞳。

 頭部は小さく、スラリとした長身、手足は長く、まるで、冬季オリンピックを二連覇した氷の国の王子のように美しい。

 なんという美形のメガネ男子だろう!

 スタッドさんで美形のエルフは見慣れていたけど、人族でこの美しさは何?

 彼が立っているだけで空気が違う。

 あの美貌で王様より年上なのか!

 眼鏡を取ったらもっと凄いんだろうなあ。

 あ、でも、笑うといい感じ!

 親しみやすい感じになる。


「アズサ様、あまり見つめるのは、失礼かと」

「え? あたし、そんなに見つめてた?」

「はい、あの、魅了防止のネックレスをもう一つされた方が宜しいかと」

「え! あれ、魅了なの」

「はい、ご本人も自覚されてまして、魅了遮断の眼鏡をかけておられるのですが、どうしても漏れてしまいますので」

「ありがとう、手持ちのネックレスを探してみるわ」


 バトラーに魅了遮断のネックレスを出して貰って身につけた。

 強烈なオーラは感じなくなったが、凄い美男子には変わりがない。


「ディートハルト様のお母上はエルフの血を引く絶世の美女なのです。先代の国王が、とても愛された方で、エルフの血が入っていなければ、お妃様にしたいと思っていた方でした」

「へえ、そんなに美しい方なら一度お会いしてみたいわね」

「先代の陛下が亡くなられて、今は領地で喪に服しておいでです。お会いになるのは難しいでしょう」

「先代の国王陛下はどんな方だったの?」

「そうですね。美しい物や美味しい物がとてもお好きな方でした。なんといっても、美味しいお肉が食べたいという理由で、小型船用の運河を作られた方でしたから」

「え、あのリニア運河、じゃない、えーっと、マトル運河だっけ、マトルの街の近くに出口のあるあの運河?」

「そうです。レッドボアの美味しい肉が食べたいという理由だけで運河を建設されたのです」


 些か、呆れた口調でサンドラさんが言った。

 そんな話をしていたら、国王陛下が奥の扉から姿を現した。

 貴族達が一斉に頭を下げる中、王が玉座につく。

 宰相が王に一礼して手に持っていた巻物を広げ読み上げた。


「此度のハーピーによる一連の事件は、雑貨商ドルクがハーピーを使って起こした事件で背後関係は一切なかった事を報告する。尚、雑貨商ドルクは既に処刑されている」


 会場の貴族達から、ほーっとため息が漏れた。

 もし、ドルクが誰かと組んで事件を起こしていたら、貴族の中にも罰を与えられる者が出ただろう。ドルクの単独犯とわかって、皆、安心したようだ。


「理由は? 理由は何だったのですか?」


 貴族の一人が叫んだ。


「ドルクは元奴隷だったのだ。生まれた時から石切り場で働いていた。しかし、皆も覚えていよう、十年前石切り場の過酷な労働を改善してくれと直訴した者がいた。先代の国王陛下がディートハルト様にこの問題を解決するように命じられたのだ。ディートハルト様は奴隷達を解放し鉱山労働者として扱うよう改革された。奴隷から解放されたドルクは、ディートハルト殿下に強く恩義を感じ、ディートハルト様を王位につけるべく今回の騒動を起こした。しかし、ディートハルト様は全く預かり知らぬ所。むしろ、勝手に名前を使われた被害者と言えるでしょう」


 ディートハルト殿下が発言を求めた。


「どうぞ、殿下」

「私への恩義とはいえ、間違った忠誠を示され、困惑しております。そこで、このような事が二度と起きないよう、改めて陛下に忠誠を誓いたいと思います」


 ディートハルト殿下がヴォルフガング陛下の前に跪く。


「我が剣を陛下に捧げます。我が忠誠は永遠に陛下の物でございます」

「兄上、いや、ザンク候ディートハルト、そちの忠誠確かに受け取った」


 ディートハルト様が立ち上がり、一礼して下がった。


「皆の者、ザンク候の忠誠を見たか! 今後、兄上への誹謗中傷を言う者がいたら、厳重に処罰する。皆、肝に命じよ!」


 陛下の一声に貴族達が皆、頭を下げた。

 陛下は兄上を大切に思っておられるんだ。

 本当は、兄上に王位を譲りたかったんじゃないだろうか?

 優しい人なんだな。

 宰相閣下が次の議題を読み上げた。


「さて、此度、ハーピーという非常に危険な魔物を倒すに当たって、多くの者が力を尽くした。よって、それぞれに褒美を与える」


 警ら隊、王宮の魔法使い、冒険者ギルドへそれぞれ褒美が渡された。


「先々代の陛下、アレクシス様の遠縁、アズサ様。ここに褒美を与えるものである」


 名前を呼ばれて、陛下の前に進み出た。

 あたしの前におかれたのは、小振りな宝石箱だった。

 開けてみると、見事なダイヤモンドをあしらったネックレスだった。

 3カラットを超えるラウンドブリリアントにカットされたダイヤモンド。

 わずかな光にもファイヤーを放ち、虹色にきらめく。

 異世界では決して作る事が出来ないラウンドブリリアントカットのダイヤモンド。

 このダイヤ、まさか、まさか!

 あたしは、陛下を見上げた!


「気に入ったか?」

「これは、先輩、じゃない、アレクシス様のダイヤモンドでは」

「ほほう、やはり、わかったか。お爺さまの秘蔵のダイヤだ。そなたが持つに相応しいであろう」

「ありがとうございます」


 涙が溢れる。

 ターソンでこちらに飛ばされる直前、買ったダイヤモンドだ。

(これを使えば、店頭に飾るに相応しいジュエリーが出来るぞ)って、先輩が嬉しそうに言ってったっけ。

 陛下が立ち上がって玉座から降りて来た。

 えっ!?と思う間もなく、小箱からネックレスを取り上げ、あたしの首にかけて下さる!

 陛下の顔が近い、近い! 近い!

 か、顔が火照る!

 周りから、おお!という声が聞こえた!


「これを選んで正解であったな。よく似合う」

「あ、あ、ありがたき、幸せ」


 ぎゃあ、こんな事されたら、どないしたらええねん!

 とりあえず、一礼して、元の場所に下がった。


「以上である。陛下の恩寵に感謝申し上げる」


 宰相閣下の声にもう一度、貴族達が深々と礼をする。陛下が退出されて、散会となった。

 あたしの周りに貴族達が集まって来たけど、面倒なので大急ぎで部屋に戻った。

 部屋に戻るや、サンドラさんが嬉しそうに言った。


「陛下自らアズサ様にネックレスをかけられるなんて、なんという誉れでしょう」


 サンドラさんが興奮している。


「何を言っている。あれは陛下のパフォーマンスだろう」

「え? どういう意味?」

「いいか、あのパフォーマンスで、ディートハルト殿下への疑惑が一瞬で消し飛んだだろうが。陛下は思ったよりずっと策士だぜ。王妃選びが巷で話題になっていると知っていて、あんたの首にネックレスをかけたんだ。貴族達の兄君への疑惑を吹き飛ばす為にな。あんたは体良く利用されたのさ」

「なるほど、さすが陛下ね」


 スタッドさんの解釈をきいて、あたしは納得した。


「ですが、陛下がアズサ様に自らネックレスをかけた事実は残ります。たとえ、兄君への悪い噂を吹き飛ばす為であってもです」

「確かにな。事実は残る」

「花嫁選びにアズサ様が加わったと貴族の大半が思ったでしょう」

「ええ! そうなの? そんなの困るんですが!」

「あんたを養女に迎えたい大貴族が面会を求めてくるぞ。忙しくなるな」


 スタッドさんの言った通りだった。

 大貴族から様々な招待状がわんさか届いた。

 ローリンゲン公爵夫人に相談したら、付き合った方がいい貴族とそうでない貴族を選別してくれた。

 それでも、日に一度はどこかの貴族に会わないといけないので、凄く面倒だった。

 そんな中、ラーケン船長がやってきた。ハーピー達の一件が収まったので、ラーケン船長はドルフィン亭に戻っていた。定期報告の後、アンジェラの話になった。


「……何故、アンジェラは我々に賠償金を払ってくれたのでしょう? 払わずに逃げても良かったでしょうに」

「恐らく、自分の事を早く忘れさせる為じゃないか?」

「と言いますと?」

「金を払わなかったら、あんた達はいつまでも、アンジェラを覚えていて恨んだだろう。あの時、アンジェラが失敗しなかったらって」

「確かに、あれで船を失いましたからね。賠償金がなかったら悲惨な生活が待っていたでしょうし、アンジェラを雇った事を後悔して恨んだでしょうね」

「人は感謝より恨みを忘れないからな。だから、奴隷になってでも賠償金を払ったのさ」

「言われてみれば、金を貰った後、王都でアンジェラに会うまで、彼女の事は思い出しませんでしたからね」

「賠償金は奴隷商が払ったんだし、奴隷商が王都に帰る途中、ドルクが奴隷商を殺して契約書を焼いてしまえば、ハーピーは自由になるし金も奪える。最初からそういう計画だったんじゃないか?」

「なるほど、奴隷商は既になくなっているのですか?」

「ああ、死んでる。崖から落ちて死んだらしい。おそらく、ドルク達が殺したんだろうよ」

「なんとも悲惨な事件でしたね」

「本当に悲惨な事件だったわ。もし、大貴族の誰かが絡んでいたら、ヴォルフガング陛下は殺されていたかもしれないと思うとドルクとハーピーの単独犯というか、一人と一匹の犯行で良かったと思うわ」

「これからも、誰かが陰謀を企てるかもしれません。気をつけて下さいね。では、私はこれで」


 ラーケン船長は帰って行った。



 翌朝、剣の練習をしていると、陛下が来られて練習に加わった。

 軽く打ち合っている最中、陛下が耳元で囁いた。


「そなたと念話で話したい」


 何事かと思ったけど、とりあえず、陛下にテレパシーを送った。


(陛下、お話とは?)

(お爺さまの事でそなたに話がある。誰にも分からぬよう会いたい故、今宵、皆が寝静まった後、部屋に迎えに行く。支度して待っておれ)

(承知しました)


 さっと練習用の剣を引いた陛下が言った。


「ふむ、なかなか良い剣筋をしている。これからも励め」

「は、ありがとうございます」


 陛下はお付きの人と一緒に練習場を退出された。

 先輩の件ってなんだろう。

 気になるけど、誰かに相談する訳にもいかないし。

 支度をして待っていたら、夜半過ぎ陛下が寝室に現れた。


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