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四十六、番外編ドルクとハーピー 2

注意:前回に引き続き神視点で書いています。

 パレード当日。

 王宮前の広場は、貴族席が設けられ興奮に包まれていた。貴族達が席へ着こうとそぞろ歩いて行く。庶民達は港や大通りに集まりパレードが始まるのを今か今かと待ち構えている。

 ドルクとハーピーは、水運ギルドの職員に暗示をかけ、アズサに水運ギルドからと言って花を渡すように仕向けていた。

 広場の一角に立つ建物の陰からドルクとハーピーは職員の動向をこっそり見守った。

 職員は大勢の貴族の中から濃紺のドレスを着た黒髪の女に近寄り赤いバラの花を捧げた。女はにっこりと笑って花を受取った。


「あれがアズサか」

「やっと見つけたね」


 ハーピーがにやりと笑う。メイド服に身を包んだハーピーは雑踏にまぎれてアズサに近づいた。水の入った壷を傾けアズサのドレスを汚す。


「お嬢様、大変失礼致しました」

「いいのよ、これくらい。風魔法で乾かすわ」


 アズサの言葉を無視して、ハーピーはドレスにかかった水を拭くふりをしながら、アズサに暗示をかけた。


「綺麗なドレスを汚してしまい、申し訳ありません。王様に見初められるチャンスですのに」

「いいのよ。気にしないで」

「王様って素敵ですものね」


 ハーピーの暗示が始まっていた。


「ええ、素敵ね」

「王様に見初められてお妃様になったら贅沢三昧ですわ」

「そうね、贅沢三昧ね」

「だけど、王はあんたに見向きもしない。こんなに綺麗なのに」

「仕方がないわ。平民だもの。でも、スカーフを直して差し上げたら振り向いて下さるかもしれない」


 ハーピーはアズサの言葉にはっとした。サイコキネシスで、直接、首をもぐより、あの生意気なヴォルフガングの首がしめられ、顔が真っ赤に膨れ上がったらさぞ面白いだろうと思った。


「そうだよ。スカーフを直して差し上げな。王様の服装はきっと乱れている。スカーフが曲がっている。直してあげなきゃね。サイコキネシスで王のスカーフをきゅっと締めてあげるんだよ。ぎゅうっと締めて王様が動かなくなるまで締めるんだよ」

「ええ、スカーフを締めて差し上げるわ」


 ハーピーはアズサの答えを聞き、うっすらと笑ってその場から離れた。

 建物の陰にたたずむドルクと共に様子を見守る。




 パレードが始まった。

 王宮の城門から楽士達が出て来た。左右に並ぶ。パレードの長、宮殿の執事長が先頭に立つ。執事長が広場を見渡した。ぴしりと姿勢を正し、大音声を上げた。


「これより新国王お披露目のパレードを開催致します」


 ファンファーレが響き渡る。

 パレードが始まった。左右の楽士達が腰のドラムを叩きながら行進を始めた。ドラムがリズムを刻む。次に金管楽器を鳴らしながら、楽士達が出て来た。楽士達が音楽で盛り上げた後、大きな旗を捧げた旗手達が出て来た。旗はパルテス王国を構成する領邦や騎士団の旗だ。音楽に合わせて色鮮やかな大きな旗が一糸乱れず振られている。一斉に投げられ受け止められる。見事だ。旗手達の服装は青と白の縦縞、バチカンを守るスイス傭兵団の服装に似ている。旗手達に続き、騎士団がそれぞれの制服に身を包んで行進して行く。最後に近衛兵に守られ白い馬に乗ったヴォルフガング国王が現れた。

 一際大きくファンファーレが響き渡る。

 天から授けられた金の冠を頂き、白地に金糸の刺繍が施れた豪奢な衣装をまとっている。黄金に輝くマント、いくつもの宝石で飾られた馬具、神々しい限りである。

 音楽が止んだ。

 国王はゆっくりと広場の真ん中に馬を進める。

 馬上から大音声を発した。


「我は創造神に祈りを捧げ、この地の統治を神よりまかされた。これがその証である」


 国王が王者の剣を掲げた。

 とその時、王の首に巻かれたスカーフがほどけてふわりと揺れた。王の首にきつく巻き付く。

 一瞬、苦しげに眉を寄せる王。首筋に血管が浮かぶ。

 しかし、王は大音声を発した。


「我が民よ。余は王国を繁栄に導くと約束しよう。我が民に祝福を与えん」


 王者の剣を鞘から抜き放った。

 光り輝く王者の剣。

 虹の光彩が広場を包む。

 温かな光が人々を満たした。

 怪我をした人々の傷が癒える。

 人々が歓声を上げた。


「ヴォルフガング新王、万歳! 万歳! 万歳!」


 音楽が再び始まった。パレードが大通りへと向かって行く。

 国王は王者の剣を掲げたまま、行進して行く。

 やがて、パレードの先頭は港へ。大河ラングに浮かんだ船が一斉に船縁を叩く。王は港を一周して、大通りを広場へと戻って来る。

 戻って来たパレードを貴族達が拍手で迎える。

 鼓笛隊と旗手達、騎士団達が広場の周りに控える中、新王ヴォルフガンフは王者の剣を掲げたまま、広場を一周して城門の中へ。

 騎士団、旗手、鼓笛隊が城門に入ってパレードは終了した。


 王者の剣が抜かれ人々に祝福が送られた時、一声(いっせい)を上げる間もなく一匹のハーピーが絶命した。

 同時に警ら隊がドルクを昏倒して捕えていた。



 アズサは高周波音カット機能のついたイヤホンを耳からはずした。


(バトラー、これ、収納しておいて)

(承知しました)


 手のひらにあったイヤホンがぱっと消える。

 テレパシーを使って二人の護衛に話しかけた。


(うまく行ったわね)

(ああ、しかし、王の祝福が魔物を打ち倒す力を備えていたとはな)

(新王が最初に行う王者の剣による祝福は魔を払う力があると聞いた事がありましたが、まさか、本当だったとは)



「素晴らしいパレードでしたね。陛下の凛々しいこと!」


 ロイエンタール公爵夫人が興奮した声でアズサに話しかけた。


「ええ、本当に素晴らしかったです」


 アズサはロイエンタール公爵夫人と話しながら、貴族席を抜け王宮へと向かった。

 これから、王宮の中庭で宴席が始まる。庶民達には王宮前の広場でエールやご馳走が配られる。

 国を上げての祝賀の宴が続くのだ。

 パレード観覧用のドレスから、宴席用のドレスに着替える為、部屋に戻ったアズサはこの数日起きた出来事を振り返った。



 ラーケン船長と共に絵師の元へ行き、アンジェラの似顔絵を描いて貰い冒険者ギルドで検索をかけたのだけれど、アンジェラは見つからなかった。顔を隠しているか、三ヶ月以前に王都に入ったかもしれないと担当者のクラウドさんが言っていた。

 そこで、アンジェラではなく、一緒にいた男の方の似顔絵で検索をかけたらヒットした。

 男は雑貨を売る行商人ドルクだった。

 王都の治安を守る警ら隊がドルクを探した所、場末の空き家で見つかった。

 キングワイバーンが攻めて来た時、家主が逃げ出した家だった。

 警ら隊には、ハーピーがいるので絶対手を出すなと伝えていた。

 ハーピーに暗示をかけられ、意に添わぬ暴力を起こされたら大変だからだ。

 警ら隊の一人が、隣の家からドルク達の様子を伺った。

 そこで、アズサのサイコキネシスを使ってパレードの最中、王を殺害しようとしている事を知った。

 この計画を聞いたアズサは王に相談した。


「サイコキネシスで直接首を締めるのではなく、何か他の物で締めるようにならぬか。サイコキネシスで締められたら、そなたを倒さねばならない。しかし他の物、そうだな、例えばスカーフなら首の周りに物理結界を張ればさほど苦しくないだろう。王者の剣による祝福の直前、首を締めるようにしてほしい」

「祝福の直前ですか?」


 怪訝な顔をしたアズサに王が耳打ちをした。


「王者の剣による最初の祝福は魔を払うと言われている。王者の剣の祝福を受けたハーピーは、恐らく、絶命するだろう。この話は他言無用に頼む」

「なるほど。わかりました。祝福の直前に締めるように致します」


 王の提案を受け、アズサ達は工夫を凝らした。

 アズサはハーピーの声が甲高いときいて、高周波音カット機能付きの耳栓を出した。

 アメリカの空港で英語を読み間違え、普通の耳栓のつもりが高周波音カット機能付き耳栓を買っていた。


(まさか、こんな所で役に立つとはね)


 ラーケン船長にスマホのアプリで高い音を聞いてもらい、ハーピーの声の周波数を確認、もしかしたら、ハーピーの声を軽減出来るのではと思い、この耳栓をしていたのだ。

 城門を出て貴族席に向かって歩いている時、メイド服を着た女が話しかけて来た。

 アズサは耳栓のおかげで、ハーピーの甲高い声は聞こえなかったが、テレパシーでハーピーの意図を知った。

 アズサは暗示にかかったふりをして、スカーフを直すと言い、ハーピーにスカーフを使わせるよう仕向けた。案の定、ハーピーはスカーフを使った暗示をかけて来た。

 アズサは王が剣を抜く直前、ハーピーの暗示通りスカーフで王の首を締めた。

 王の剣が抜かれ祝福が放たれると同時にハーピーは絶命。

 同時に警ら隊の兵士達がドルクを殴って気絶させた。

 気絶したドルクとハーピーの死骸は速やかに運び出され、パレードは何事もなく終了した。



 アズサは宴会の行われる中庭に向かいながら、サイコキネシスでスカーフを使い王の首を締めた感覚を思い出し、眉をしかめた。ハーピーの暗示にかかった振りをする為とはいえ、とても、嫌な感覚だった。


(陛下を殺さずに済んで本当に良かった)


 アズサはほーっとため息をもらした。



次回はアズサ視点に戻ります。

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