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四十五、番外編ドルクとハーピー 1

注意:今回は神視点で書いています。

 男は王都の場末に住んでいた。名は、ドルク。

 奴隷だったドルクはディートハルトによって解放され救われていた。以来、強烈な信奉者になっていた。

 彼は魔物と言葉が通じるスキル「魔物会話」を持っていた。

 一年ほど前、ドルクは瀕死のハーピーを助けた。ハーピーは病いで喉をやられ、得意の暗示をかけられないでいた。暗示をかけられなければ、ただの鳥の魔物である。上半身が女、下半身が鳥という奇怪な形をした魔物に過ぎない。他の魔物にとっては、ハーピーの持つ魔石を奪うチャンスだった。ウォーウルフが彼女を襲った。飛んで逃げようとしたが、病いで高く飛べなかった。近くの樹の上に逃れたつもりだったが、ウォーウルフに引きずりおろされ、かみ殺されそうになった時、ドルクの強弓がウォーウルフを倒した。ハーピーを助けたドルクは死にそうになっていたハーピーにポーションを与え世話をし回復させた。

 以来、ハーピーはドルクと共に生きている。



「ラーケンとかいう船長、助かったみたいだな。今、水運ギルドで確かめてきた」


 ドルクは部屋に帰るなり、女に声をかけた。

 

「大河ラングに落としたのにかい?」

「ああ、溺れさせるっていうのは、発見が早いと助かっちまうな。事故に見せかけるには、いい手なんだがな」


 マントを取り、壁の帽子掛けにつば広の帽子をかけた。


「あたいの術は、術が成功した時点で解けてしまうからね。今度は大河ラングの川底を歩けって命令にするよ。そうすれば、死んでも歩き続けるさ」

「そいつはいい、それなら、確実に殺せるな。それより、飯にしてくれ。腹が減った」


 二人は軽口を言い合い、笑いながらテーブルを囲む。

 一見、仲の良いカップルにしか見えなかったが、話の内容は、およそ平和な日常とはかけ離れた内容だった。


「これから、どうするのさ? 結局、あの生意気なヴォルフガングが王位についちまったし」

「仕方あるまい。まさか、あんな兵器があるとはな」

「あたいも、びっくりしたよ。一発でキングワイバーンを塵にしてしまうなんてさ。恐ろしい魔道具だったね」

「キングワイバーンの術で魔物達を操ってたのに、キングワイバーンがやられたんじゃなあ」

「いい手だったのにね。あたいが、キングワイバーンに術をかけて卵を盗まれたって思わせてさ、キングワイバーンに魔物大暴走スタンビートを起こさせてさ。魔物達が一糸乱れず王都に向かって行進して行く様は壮観だったね」


 アンジェラに化けたハーピーがくすくすと笑う。目がキラキラと輝き、企みが成功した達成感に酔っている。


「いい手だったが、キングワイバーンを倒されるとはな。もう少しで王都をめちゃくちゃに出来たんだがな。ヴォルフガングが暢気に戴冠の儀式をやってられなくなるようにしたかったのにな」

「ああ、ヴォルフガングを退位させるなら別の手を考えなきゃね」

「貴族の中にも、ディートハルト様を王にと思っている連中はいるみたいなんだがな。俺らみたいな庶民は貴族と話しなんて出来ないしな。俺達が話せるのは家令どまりだ」

「やっぱり、あたいがヴォルフガングに術をかけた方が良かったんじゃないかい? 王位を兄君に譲れってさ」

「それは出来ないって説明しただろ。王族にはこの土地の加護があるんだ。いくらハーピーでも無理さ」

「そんなのやってみないとわからないじゃないか」

「いいや、無理だね。おまえ、そんな事したらヴォルフガングに返り討ちにされるぞ。とにかくだ、直接手出しはするな」


 アンジェラは肩をすくめた。


「そういえば、ラーケンが助けられる所を見てた奴が、奇妙な事を言ってたな。ラーケンが浮いてたって」

「魔法を使ったんだろ。珍しい事じゃないよ」

「だが、そいつは杖を使ってなかったんだと」

「へえ、そりゃあ、珍しいね。詠唱だけで浮かせたとすると、かなりの使い手だね」

「俺も最初、そう思ったんだけどな。詠唱も聞こえなかったっていうんだ」

「気のせいさ。詠唱も杖もなくて魔法が使えるわけないじゃないか」

「ああ、そうだな」


 ドルクは気のせいだと思い込もうとしたが、やはり、引っかかる物があったのだろう、夕方、水運ギルド職員がよく使う酒場へ行き聞いて回った。

 ラーケン船長が若い女の船主から船の運用をまかされている事、その若い女が、ラーケン船長を助けたとわかった。


「え? どうやって? どうやって、溺れている男を若い女が助けられたんだ?」

「魔法じゃないですか?」


 救護室に務める職員は、男に奢ってもらったエールを飲みながら言った。


「珍しい事じゃないでしょ。名前はアズサって言ってましたよ。で、ここだけの話なんですがね」


 職員はエールを飲んだおかげで口が軽くなったのだろう、声を低めて言った。


「大金持ちらしいですよ。船を何隻も持っていて、しかも独身!」


 職員はにたーっと笑った。


「へえ、そいつは凄いな。で、どんな魔法が使えるんだ?」

「風魔法が使えるってきいてます。ナシムの街からラーケン船長が小型船で人を運んだ時、風魔法で帆をはらませる特別職員だったってきいてますから」

「風魔法が使えるなら、溺れた男を浮かせて運べるだろうが、水に落ちた男をどうやって引き揚げるんだ?」

「水魔法と組み合わせたんだじゃないですかね?」

「だったら、水魔法も使えるのか?」

「まあ、使えるんじゃないですかね?」

「相当な魔力の持ち主だな」

「ええ、あれ? 火魔法も使えるんじゃなかったかな? なんでも、B級冒険者と一緒にジャイアントサラマンダーサーペントをやっつけたって聞きましたがね」

「ほう、風魔法が使えるってだけでもちょっとした物なのに、複数の魔法が使えるとはな」

「ですが、魔法魔術学校に行ってないみたいですよ。単純な魔法しか使えないみたいでしたからね。今は、王宮に招かれたみたいでしてね。水運ギルドがドルフィン亭に一番いい部屋を用意したんですが、部屋は必要なくなったって連絡が来たみたいで、なんでも、公爵家からの使いだったらしくて、うちのギルドマスターが嘆いてましたから」

「金持ちと言っても庶民だろ。王宮に招かれるとか、もしかして、身分のある女だったのか?」

「さあね、僕ら下っ端には、そこまでわかりませんよ」

「まあ、金持ちなら身分があってもおかしくないな。ラーケン船長なら、詳しく知ってそうだな。どこで会えるか知らないか?」

「確かドルフィン亭に泊まってるって聞きましたけどね」


 ドルクは職員から引き出せる情報を引き出せたと思ったのか、酔いつぶれた職員を残して酒場を出た。ラーケンに会ってアズサの情報を引き出し、それから殺そうと思いながら歩いていたら、声をかけられた。

 振り向くと、ドワーフが立っていた。


「兄さん、面白い情報があるんだけどよ。買ってくれないか?」


 ドルクは、ドワーフを見下ろした。


「どんな情報だ?」

「あんたが嗅ぎ回ってる女に関する情報ですよ」


 帽子の影から細い目が男を見上げる。

 ドルクは逡巡したが、まず値段を聞く事にした。

 値段によっては、きいてもいいだろうと思った。


「幾らだ?」

「銀貨五枚で」

「高い、一枚に負けろ」


 ドワーフは渋ったが、金になるならと銀貨一枚を受取った。


「あの女はでかいアイテムボックスを持ってるぜ。俺の叔父貴が水運ギルドで働いているんだけどよ、ワイバーンが攻めてきた時、大型船を出して、みんなを避難させたんだと」


 ドルクは目を剥いた。


「大型船が入るアイテムボックスだと!」

「ああ、叔父貴が標識を作ったんだから間違いないさ。で、兄さん、もう一枚よこさないか? もっと面白い話をしてやるぜ」


 ドルクは負けさせようと粘ったが、結局、もう一枚銀貨を支払った。

 ドワーフは銀貨を受け取ると話し始めた。


「あの女がルフランに着いた日、水運ギルドのギルドマスターが商業ギルドに小麦を取りに来いと使いを送ってるんでさ。俺は、あの女が小麦を運んだんじゃないかって思うんでさ。だって、そうでしょ。大型船が入るようなアイテムボックスですぜ。倉庫を一杯にするくらいの小麦なんて簡単に入りそうじゃないですか。それに、そうでなきゃ、おかしいんですよ。いきなり、小麦が倉庫いっぱいになるなんて」


 財布の紐を閉めたドワーフがドルクを見上げた。顔に恐怖が浮かぶ。

 ドルクが憤怒の形相で立っていた。

 血管が浮き出た拳、発散する殺気。

 ドワーフが思わず後ずさる。さらに、すり足で下がり続ける。


「に、兄さん、俺の話はここまでだ。じゃあな」


 ドワーフは一目散に逃げ出した。


(小麦を運んだだと! さんざん苦労して、王都から小麦を取り上げてやったのに! くそー! 許せん!)


 ドルクは怒りで体が震えるのがわかった。


(せっかく、ヴォルフガングを王位から引きずり降ろすチャンスだったのに)


 店に帰ったドルクはアンジェラにこの話をした。


「そんな女がいたのかい! 許せないね!」

「ああ、俺達の計画を邪魔するとは!」

「殺そう、殺してしまおう。恨みを晴らしてやる!」


 ドルクはラーケン船長を探してドルフィン亭に行ったが、既に、引き払った後だった。

 アズサの事をどうやって調べようと思っていたら、情報は意外な所からやってきた。

 やはり、水運ギルドの職員が集まる酒場で酒を飲んでいた時だった。

 後ろに座っていたギルド職員二人がアズサの噂話を始めたのだ。


「あれは、面白かったな」

「あんな風に高く持ち上げられるなんて、もう二度とないんだろうな」

「でも、これで、塔を高くして貰えるよう要望書を出せるな」

「そうそう、大河ラングの上流、左に曲がった向こうがばっちり見えたもんな」

「あの辺りが見えたら、もっと早く船が到着するって伝えられるんだよな」

「でも、アズサさんて凄いよな。あれ、サイコキネシスとかいう特殊能力なんだろ」

「しーっ、特殊能力の話はしない方がいいぞ」


 思わず口を押さえた二人は、上司のうわさ話をし始めた。


(サイコキネシスだと! なるほど……。それなら、ラーケンを河から助けられるな。恐らくその能力で王宮に招かれたに違いない。とにかく、あの女を引きずり出さなきゃな)


 サイコキネシスの話を聞いたアンジェラはにーっと笑った。


「サイコキネシス! くっくっく。面白い事を思いついた。アズサに王を殺させよう」

「サイコキネシスを使ってか?」

「そうともさ。王を殺すように暗示をかけるのさ」

「そいつはいい!」


 アズサが王を殺すなら願ってもない事だし、失敗してもアズサが王に殺されるだけだ。


「アズサを王宮から引きずり出せないかい」

「パレードがある。のびのびになっていたパレードが三日後にある。アズサは貴族席に座るだろうからな。王宮の前の広場に陣取るだろう」

「いいね、その時近づいて暗示をかけよう」


 夜は更けて行った。


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