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四十三、王宮の魔法使いの部屋で

 リザードマンの目的は一体なんだろうと思いながら、シルバーコングから聞いた話を王宮の魔法使いの長オルグさんに報告に行った。

 彼の執務室は王宮の東側にあった。執務室の壁には魔法書が整然と並んでいた。窓から日差しが入っていてもどことなく暗い感じがするのは、本の背表紙が総て青黒く沈んだ色だからだろう。

 会議用のテーブルに座り、シルバーコングから聞いた話をオルグさんに報告する。


「ふむ、貴重な話ですな。冒険者ギルドに伝えましょう。彼らが斥候をだすでしょう。恐らく、リザードマン達は、沼の北側にダンジョンを作るつもりでしょう」

「え? ダンジョン?」

「魔物の死骸からは瘴気が発生する。その瘴気が凝り固まってダンジョンコアとなり、ダンジョンが生成されるんだ」


 あたしの後ろに立っていたスタッドさんが教えてくれた。


「でも、どうして、リザードマンがダンジョンを作るの?」

「リザードマンは湿気を好む。沼地のほとりに自分達の隠れ家を持ちたいが、あの辺りにはちょうどいい洞窟がない。それでダンジョンを作って、ダンジョンの最上層を自分達の住処にするつもりなんじゃないのか?」

「ダンジョンの最上層の魔物は弱い魔物が多いですからね、簡単に食料が調達出来ますし、下階へ行かなければ安全です」


 スタッドさんとサンドラさんが説明してくれる。


「ダンジョンが出来る事は、脅威ではありません。ダンジョン内の魔物が地上に出て来て人を襲う事はありませんからね。むしろ、ダンジョンを探索しようと各国から冒険者が集まり王都ルフランは栄えるでしょう」


 ああ、なるほど。

 ダンジョンからはいろんな宝物がゲット出来るし、冒険者にとっては稼ぎ所になるのね。


「それより、あなたのおかげで強い魔物がいなくなりました。王に報告しておきましょう。きっと、褒美が出るでしょう」

「ありがとうございます。あ、それと、テイマーについてなんですが、シルバーコングによると、魔物達を誘ったのはハーピーだそうです」

「何! ハーピーだと!」


 スタッドさんが、大声を出した。

 場の雰囲気が一瞬にして変わった。

 まさに凍り付いたのだ。


「これはまた、やっかいな魔物が絡んできましたね。もしかしたら、テイマーはハーピーをテイムしたのかもしれません」


 魔法使いの長オルグさんが青ざめた顔をして言った。


「そんなに、恐ろしい魔物なんですか?」

「ああ、恐ろしい。あいつの声には抗えないんだ。魔物も人間も。ハーピーに唆されて、親が子を殺したりするんだ。それをテイムしたとなると」

「非常に危険ですな。どんな事があっても、探し出さねばなりません」

「でも、そんな強い魔物が、人間ごときにテイムされますかね?」


 あたしは素直に疑問を口にした。


「といいますと」

「たとえば、ハーピーの方で、テイマーを気に入ったとか」


 ぱっと思いついた考えを言っただけなんだけど、みんなが目を剥いた。


「それは考えても見ませんでしたね。何故、そう思ったのですか?」

「魔物だって、いろいろな魔物がいると思うんです。人を襲うのではなく、人を気に入る魔物もいるかなって」


 実際、テトやメリーはあたしを助けてくれた。

 もしかしたら、ハーピーとテイマーの間に何か優しい交流があったのかもしれない。


「つまり、ハーピーがテイマーを気に入って、王都を襲わせたのか?」

「ていうか、テイマーの思いを叶えてやりたいって思ったとか。つまり、うーん、例えばですが、陛下に恨みをもっていて、戴冠を邪魔しようとしたとか」


 あの時、あたしが魔石を割って魔素を回復しなかったら、光の輪は雲散霧消していたのだろうか?


「戴冠出来なかったら、由々しい事態になっていたでしょう。神から王として認められなかったとなり、恐らく、次の食に他の王族、恐らく陛下の兄君ディートハルト様が戴冠の儀式を行う事になったでしょう。そして、戴冠がうまくいけば、ディートハルト様が王になったでしょう」

「え? でも、ディートハルト様には王位継承権がないってきいたんですけど」

「確かに王位継承権はもっていませんが、前王の息子である事には変わりがないのです。貴族達はディートハルト様に戴冠の儀式を受けさせるでしょう」

「なるほど。もう一つ疑問なんですが、何故魔導砲を使ったんですか? 魔素が無くなってしまうのに? 自ら失敗するよう仕向けたようなものじゃないですか」

「魔導砲があのように魔素を吸い上げるとは、誰も思ってもいなかったのですよ。我々も今回初めて知ったのです。もちろん、テイマーも知らなかったでしょう。あれを開発したのは、先々代の陛下、アレクシス様が異世界の知識を使って開発したのですが、いやはや、空恐ろしい知識ですな」


 そう、あたし達の世界の科学技術は、とても恐ろしいのよ。

 使い方を誤ると、世界がふっとぶの。


「テイマーは、キングワイバーンに襲撃させ、戴冠を中断させて王を引っ張りだすのが目的だったんじゃないのか? 王自身に身の危険が迫れば、戴冠の儀式どころではなくなるからな」

「あの、一体誰が、あれを使うように指示したのですか?」

「王都防衛をまかされた宰相閣下です。しかし、先程も言ったように宰相殿も魔素があのように極端に減るとは思ってもいなかった筈です」

「あれは、アレクシス様が開発したとの事ですが、試運転はしなかったのですか?」

「していません。あれは、王都にドラゴンが攻めて来た時に使うよう遺言されて、アレクシス様は亡くなられたのです。あれを使った結果、魔素があのように無くなるとは、アレクシス様もご存知なかったのではないでしょうか」


 そんな、無責任な!

 いや、そんなわけないか。

 先輩は恐らく、戴冠の儀式の最中に魔導砲を使う事態になるなんて、思っていなかったんだわ。

 いうなれば、想定外だったのね。


「あの、魔素が減った後も、魔法使い達は魔法を使ってましたよね。魔素がなくても出来るのですか?」

「魔石で補強すれば、問題ないです。空気中の魔素がなくなっても、体内の魔素や魔石を使って魔法は使えます。そういえば、光の輪が弱々しく消えかかっていたのが、急にはっきりとした輪になったのですが、いきなり魔素が増えたとは考えにくい。非常に大きな魔石を誰かが割って魔素を補ったと考えると辻褄が合うのですがね。戴冠の儀式に出席していた誰かが」


 魔法使いの長オルグさんが、にーっと笑いながらあたしを見下ろす。

 いやでも、しかし、自分から今回の手柄はあたしですとか、言えんのよ。

 そういえば、先輩が言ってったっけ。


(梓、アメリカ人は自己主張が強い。出来ない事も出来るって言って、仕事を取って来る。アメリカじゃあ、謙虚は美徳じゃないんだ。忘れるなよ)


 でもでも、あたしは日本人で、謙虚は美徳の価値観で生きてきたのに!

 ああ、でも、オルグさんの圧が強くて、負けた!


「はい、そうです。あたしが、巨大魔石を割りました。タペストリーの後ろでこっそりと」

「やはり、そうでしたか。じつは、私も手持ちの魔石を割ったのですよ、こっそりと。しかし、魔石が小さくて、どうしようと思っていたのです。この身を屠れば、或いはと思ったのですが、それでは、戴冠の儀式を血で汚してしまいます。あの時は、本当に身の縮む思いでした。陛下をお助け下さり、真にありがとうございました」


 魔法使いの長、オルグさんが深々と頭を垂れた。

 自死してまで、魔素を増やそうとするとか、陛下に対する忠誠心のなんて強い方だろう。

 

「いえ、そんな。頭を上げて下さい。あたしは、アレクシス様のお孫さんが、外国から来た貴族達の笑い者になってるのが許せなくて、つい、でしゃばった真似をしてしまっただけですから。陛下をお助けしようとか、この国に忠誠を誓うとかそんなんじゃないんです」

「いや、あなたは他人の窮地を見過せない義侠心をお持ちだ。貴重な資質です」

「あ、ありがとうございます」


 オルグさんが満足そうに顎を撫でる。

 きっと自分の推測が当たって嬉しいんだろうなあ。


「さて、ハーピーがテイマーを気に入ったとすると、鳥を連れたテイマーを探せばいいかもしれません。テイマーは人間ですから、食べ物を調達したり安全に眠る場所が必要ですからな。必ず、王都に入った筈です。それなら、王都に入る門に設置している魔道具で探してみましょう。手掛かりがあるかもしれません」


 ああ、冒険者ギルドにあった探し人の魔道具だ。

 クラウドさんが検索するんだろうなあ。


「えっと、鳥を連れていると言うのは、もしかして、ハーピーは変身出来るのですか?」

「出来ます」

「うわあ、それって、めっちゃ危険な魔物が王都にいるかもしれないんですか?」

「そうですね、普通は魔物は入って来れません。結界がありますからね。ですが、テイマーがテイムした魔物は、テイムしたとわかる首輪を付ければ、結界内に入れます。ハーピーをテイムしたという話はきいた事がありませんから、恐らく、鳥の魔物、ブルーバードやサンダーバードとして届けているのかもしれません」

「なるほど」

「アズサさん、今回はいろいろとご助力頂きありがとうございました。あとは、我々の仕事です。ゆっくり、お休み下さい」


 というわけで、あたしは久しぶりにお休みを頂いた。

 部屋でゴロゴロしたり、好きな宝石を出して眺めたりしようかと思ってたのに、スタッドさんが、冒険者ギルドに行くという。


「あんたも冒険者ギルドについてきてくれ。そうしないと、護衛出来ないからな」


 一体、どっちが主人なんだと言いたいけど、スタッドさんの用事に興味があったので、サンドラさんと付いて行く事にした。

 冒険者ギルドのギルドマスター、ジラックさんに面会を申し込む。

 ジラックさんは執務机で忙しそうにしていた。書類が山と積まれている。決済書類なんだろう、せっせとサインしていた。


「すまんが、あんた達は部屋の外で待っててくれ」


 と追い出された。

 あたし、あんたのご主人様なんだけど、と思ったけど、スタッドさんはあたしがこの世界に来る前から、ここで仕事をしていたんだもんね。まあ、いろいろあるわよね。

 部屋の外で待ってたら、「入ってくれ」とスタッドさんからお呼びがかかった。


「冒険者ギルドから許可が降りたからな。ここに来た理由を話そう」

「え? そんな許可を貰わないといけない話なの?」

「ああ、テイマーとハーピーに関係した話だ。あんたに話してもいいか、ジラックと相談したんだが、あんたの特殊能力を考えると、話して協力して貰った方がいいだろうという事になった。サンドラ、護衛のあんたも聞いてくれ。ただし、他言無用だ」


 そして、スタッドさんが話し始めた。


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