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四十一、王都の人々

 王が戴冠した翌日。

 瓦礫と化していた王都ルフランは、人々の手によって再建が始まっていた。


「新しい王様が生まれたんだ。魔物に襲われたぐらいで、へこんでられねえ!」

「そうとも、街を前よりもっと立派にして王様にパレードをして貰うんだ!」

「そうだ! そうだ!」


 新王の誕生が人々の心を明るくしているみたい。

 皆、笑顔で瓦礫をかたづけている。


「これこそ世界最強の生物よね、希望を心に宿した人々こそ世界最強なのよ。そう、思わない?」

「さあな、最強の定義によるんじゃないか」

「人々の力強さは感じますが、最強と言われると」

「……、あたしの国は災害が多い国だったの。でも、街が壊れても壊れても、みんなもう一度立ち上がって街を再建したわ。親の代がだめだったら、子の代で。子の代がだめだったら、孫の代で。あたしは、そんな人達こそ最強だと思うわ」


 スタッドさんとサンドラさんが、顔を見合わせて肩をすくめた。

 わかって貰えないみたい……。


「おい、水運ギルドに急ぐぞ」


 スタッドさんに促され、港へ向かう。

 感傷に浸っている暇はないようだ。


(アズサ様、先程のお話ですが、私も人間こそ、世界最強と存じます)

(バトラーもそう思う?)

(はい、魔物に襲われて全滅した村が、数年経つと、いつのまにか、再建され、以前よりも大きくなっている、そんな有様を度々見て参りました。人というのは、なんと強いのだろうと。そんな最強の人間がいるからこそ、魔物がいるのでございましょう、人々が増えすぎないように)

(ふーん、そういう考え方もあるのね……。スタッドさんも魔素が減って頭痛がするって言ってたけど、もし、この世から魔素がなくなったら、スタッドさんや魔物達はどうなるのかしらね?)

(……、さあ、どうなるのでございましょう。魔素が無くなったら、いわゆる魔法生物と言われる生き物、魔物やエルフ、ドワーフなどは生きて行けなくなるのではないかと思います。ですが、魔素がこの世からなくなる事はありますまい)

(でも、女神様の話によると、魔素が減ってるんでしょ。もし、まったく生産されなくなったらどうなるの?)

(……、魔素が生産されなくなっても、当分の間は、魔石は魔法生物の体内に魔素は残っているでしょう。それらが総て消費され、魔素が新しく生産されなければ、魔法生物は総て雲散霧消するでしょう。そうなったら、人間の天下ですね)

(テトやメリーもいなくなるの?)

(はい、テト様もメリー様も魔法生物ですので)


 そんなの嫌!

 テトとメリーがいなくなるなんて!

 この世から消えてしまうなんて!

 魔素が無くなるって、大変な事なんだわ!


「おい、着いたぞ。何をぼーっとしている」

「あ、ごめん。ちょっと考え事してて」


 気持ちを切り替えなきゃ。

 自分の力でどうにもならない事を悩んだって仕方がない。

 時間の無駄!

 港にあった水運ギルドは屋根が落ちていた。サイコキネシスを使って屋根の部材を運び上げる。皆で屋根を作り、帆に使う布をかけた。応急処置だけど、当分はこれで凌げるだろう。

 バトラーに食料を出して貰って皆に配る。

 パンとスープ、ハム(何の肉かわからないけど)、果物だ。


「これはありがたい! 皆、アズサさんから差し入れだぞ!」


 水運ギルドのギルドマスター、ネルケルさんが水運ギルドの職員の人達に声をかける。

 みんな喜んでる。良かった。


「これ、少しわけてもらっていいかな? かあちゃんに食べさせたい」

「もちろん、いいわよ! 持ってって」


 早速、数人がパンをポケットにつめようとする。


「こらこら、お前達、ナプキンに包みなさい。それじゃあ、家族が食べる前に泥だらけになるじゃないか」


 ネルケルさんがキッチンの倉庫から汚れていないナプキンを探させて配る。

 みんな家族を大切にしてるのね。


 魔物の群れは、冒険者ギルドの報告によると散開したらしい。キングワイバーンが魔導砲で分解された時、あたかも正気に戻ったかのように動きがばらばらになったという。それまでは整然と行進していた魔物達が、ばらばらになり、突然魔物同士の争いが始まったという。

 魔物領は、今やS級の魔物同士の争いで非常に危険な場所になっていた。

 これでは王都を再建しても、いつとばっちりが王都に及ぶとも限らない。

 何より、港を安全に使えない。それでは、物流が滞ってしまう。


「そこで、あなたに協力してほしい仕事があります」


 と、王宮の魔法使いの長オルグさんが、あたしに向かって言った。

 ここは王宮の会議室。王都の復興について会議が行われている。


「魔物達に向かってテレパシーで、帰るように言って頂けませんかな?」

「……、帰るというのは、えーっとどこに?」

「自分達の巣にですよ。非常に強力な能力を持つテイマーが複数の魔物達を操って、今回の騒動を引き起こした事まではわかっているのです。しかし、テイマー達にきいてみても、複数の、しかも、あのような強い魔物達を操る方法などないというのです。今回の騒動を起こした犯人を捕まえて、魔物達を元の場所に戻すよう命じればいいのでしょうが、それでは時間がかかる。とりあえず、最強クラスの魔物達だけでも、元いた場所に戻す事が出来れば、あとは、冒険者達が掃討するでしょう」

「わかりました。出来るかどうかわかりませんが、やってみます」


 早速、冒険者ギルドに出向く。

 冒険者ギルドの建物は、冒険者達が必死に守ったので、無傷で残っていた。運も良かったのだと思う。

 ギルドマスターは既にどの魔物から追い払うかリストを作っていた。


「一番追い払って欲しいのは、ミノタウルスです」

「あの牛頭の?」

「ご存知でしたか。そうです。牛頭の巨人です。鋭い角をもち、怪力です。しかも知恵が働く。あれを倒すのは、相当困難でしょう。しかし、知恵が働く分、説得に応じるかもしれない」

「そうですね。意思疎通がとれないと説得出来ませんものね」


 というわけで、港から対岸の魔物領に向かってテレパシーを薄く伸ばしてみた。

 多くの魔物達がいる。一体、この中からどうやってミノタウロスを探せと!


「ねえ、ミノタウロスに名前はないの?」

「あるわけないだろ。あったとしてもだ、どうやって知る事が出来る?」

「そりゃあ、そうなんだけどさ。テレパシーを広げてみたけど、魔物の気配が多すぎて特定出来ないのよね」

「だったら、現地に行って探すしかあるまい」

「そんな危険な事、出来るわけないでしょ」

「でしたら、水運ギルドの塔の上から遠眼鏡を使ってはいかがでしょう? 見えるかもしれません」と、サンドラさん。

「そうね、やってみましょう」


 港には、船の航行を見守る物見の塔が幾つか立っている。キングワイバーンによって、一番高い塔は破壊されていたが、港の端、大河ラングの上流側にある東の塔は破壊を免れていた。

 東の塔の管理人は快く登らせてくれた。塔の屋上から対岸を見渡す。テレパシーで特に強い魔力を感じる方向へ、遠眼鏡を向けた。

 森の木々の向こうに、角のような物が見えた。が、すぐに見えなくなった。


「ミノタウロスの特徴を書いた書物とかないの?」

「というか、あんたの方が物持ちだろう」

「あ、そうか。ちょっと待って」


(バトラー、魔物辞典とかない? 特にミノタウロスについて書いた本がほしいんだけど)

(少々、お待ち下さい)


 と、手の中に一冊の本が落ちて来た。

 冒険者ギルド監修「世界の魔物」という本だった。

 ミノタウロスの項目を読んでみると、興味深い事が書いてあった。

 ミノタウロスは相撲が好きだというのだ。


「ミノタウロスって、相撲好きなんですって」

「ふーん、だとしたら、あの森の中で相撲をとっているのかもしれんな」


 あたし達はもう一度、遠眼鏡を使って対岸を観察したが、見えない。


「あのさ、あんた、あたしの事信じてくれる?」


 あたしは唐突にスタッドさんにきいた。


「は? 何の話だ?」

「つまりね、あんたをサイコキネシスで持ち上げたら、もっと上の方から見る事が出来ると思うの」

「いや、しかし、それは、おい、ちょっと、待て!」


 あたしは、文句を言いそうなスタッドさんを持ち上げてみた。

 上がるわ!

 サイコキネシスって、凄い。

 考えたら、ワイバーンの餌用のゴールドホーンブルの死骸を持ち上げたんだものね。エルフ一人ぐらいなんてことないよね。


「おい、待て! やめろ!」

「いいからいいから。あっと、危ないからじっとしててね」


 スタッドさんが大声でわめいているけど、緊急事態なのよ。

 あたしは、スタッドさんを塔の真上にゆっくりと移動させた。


「どう? そこからなら、見える?」

「もう少し、上げてくれ」


 開き直ったスタッドさんが、あぐらをかいて遠眼鏡で森の様子を見ている。


「見えた。見えたぞ! 確かに相撲を取っているな。相手はベヒモスだ」

「場所は?」

「近くに沼地がある。ってことはだな。よし、場所もわかったぞ、降ろしてくれ」


 というわけで、あたしは、スタッドさんを塔の最上階に戻した。

 ポーションをだして、HPを回復させる。

 サイコキネシスってHPを使うのよね。


「あの」


 船の航行や大河ラングを見張っているギルド職員が話しかけて来た。


「はい?」

「あの、自分も上に上げて貰えないでしょうか?」

「え?」

「あの、もっと遠くまで見えるなら、塔を高くして貰えるよう上に頼めるかもしれないんです。今の高さだと大河ラングが左に曲がっている先が見えないんです。それで、どこまで高くしたら見えるか、その持ち上げて頂いたらいいかなと思って」

「おい、おまえ、それは言い訳だろ。さっき見てたけど、気持ち良さそうだったもんな」ともう一人の見張りが言う。

「へへ、実はそう!」

「あのさ、あんたの娯楽の為にやってるんじゃないっていうの!」

「私も。私も持ち上げられてみたいです」と控えめに言うサンドラさん。

「ええ! あなたも!」


 うーん、みんなの期待に満ちた目が熱い!

 仕方ない、ここは頑張ってみますか!

 えーっと、HPは満タン!


「いいわ、みんなまとめて上げるわよ。用意はいい。けっして暴れないでよ」


 あたしは、三人まとめて持ち上げてみた。

 出来るかなと思ったけど、出来た。

 そりゃあそうよね、ゴールドホーンブルの死骸を持ち上げたんだものね。

 考えたらゴールドホーンブルの死骸って何キロぐらいあったんだろう?

 あの時は夢中だったから気がつかなかったけど、相当重いよね。


「降ろして下さーい。高すぎまーす!」


 サンドラさんの声が遥か上空から聞こえてきた。

 見上げたらスタッドさんを持ち上げた時より、ずっと高く上げていた。


「あ、ごめんごめん、ちょっと考え事してて」


 あたしは急いで、彼らを降ろしたけど、今度は早く降ろしすぎてしまった。

 三人の悲鳴があがる。

 しかし、戻って来た三人はジェットコースターに乗った後の人みたいな顔をしていた。


「面白かったです。こんな経験初めてです!」


 サンドラさんが頬を紅潮させ勢いこんで言う。


「そ、それは、良かったです!」


 些か、釈然としないけど、まあ、いいか。


「場所がわかったんだ。テレパシーでコンタクトしてみてくれ」


 スタッドさんが地図を広げてミノタウロスのいる場所を示しながら催促する。

 仕方ない、お仕事しましょうかね。

 早速テレパシーを広げてみた。

 相撲をしているというのが手掛かりよね。

 近くに沼地があるっていうし。

 それらしい思いを見つけた。

 話しかけてみる。


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