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四十、戴冠の儀式

 聖教会に入ろうとして、衛兵に止められた。

 あたしは、名前を名乗って宰相から儀式に出席するよう要請されたと話した。


「事情はわかりますが、その服装ではお入れ出来ません。申し訳ありませんが、身なりを整えてお越し下さい。それと、護衛の方は入場出来ません」


 衛兵が固い声で告げる。

 体中煤で真っ黒だし、ワイバーンの返り血で汚れまくってるし。

 そりゃあ、神聖な儀式の場に入れて貰えなくて当たり前よね。

 が、衛兵がサンドラさんを見るなり態度が和らいだ。


「失礼ですが、そちらはダウエル男爵令嬢ではございませんか?」

「ええ、そうです」

「やはり、そうでしたか。あなたのように美しい方は二人とおられませんので、もしやと思ってお尋ねしました。あなたなら、服装が整っていれば入場出来ますよ」

「サンドラ、あんたが一緒なら安心出来る」とスタッドさん。

「わかりました。着替えてきましょう」

「お急ぎ下さい。既に戴冠の儀式は始まっています」


 急いで王宮内のあたしの部屋へ向かった。


(アズサ様、ドレスならご用意出来ます。サンドラ様の分も)


 とバトラーが話しかけてきた。


(でも、着替える場所がないわ)

(どこか、人目につかない場所があれば、移動用のテントを出す事が出来ます)

(わかったわ)


「サンドラさん、どこか人目につかない場所はない? ドレスならあなたの分も用意出来るわ」


 ちょっと考えたサンドラさんが、連れて行ってくれたのは一番近くにあった王宮の一室だった。


「こちらの部屋を使わせてもらいましょう。普段使っていない部屋です」


 バトラーにお風呂セットを出して貰って顔と手足を洗う。さらに、ドレスを出して貰って着替えた。

 バトラーが出して来たドレスは、最新流行のドレスだった。


(バトラー、このドレスどうしたの?)

(先日、最新のドレスを拝見致しましたので、手持ちのドレスを最新の物に仕立て直しました)

(ええええ! バトラーって凄いのね。そんな事が出来るなんて知らなかったわ)

(ですが、サンドラ様のドレスは最新流行というわけにいきませんでした)

(いいのよ。だって、サンドラさんがドレスを着る事になるなんて、わからなかったんですもの)


 バトラーがサンドラさんの為に出したドレス、確かに最新流行の型ではない。

 だけど、サンドラさんにサイズがピッタリだし、なにより、サンドラさんの美しさを引き立てるシンプルなドレスだった。

 バトラーって、センスいい!

 サンドラさんと二人で互いのドレスの着付けを手伝う。

 さらにアクセサリーをつけようとして、サンドラさんが感嘆の声を上げた。


「素晴らしい宝石ですね。こんな素晴らしいルビーを身につけさせて貰って良いのでしょうか?」

「遠慮せずに使って。とにかく今は急がなくちゃ」


 急いでアクセサリーを身につけ支度が完成した。

 ドレスの上から腰に剣を下げたサンドラさんは戦いの女神のようだ。

 聖教会に戻ったあたしとサンドラさんを見て、衛兵は何も言わず通してくれた。

 スタッドさんを入り口に残し、教会の後ろの席にそっと滑り込む。

 聖教会の天井は高く、教会全体に高貴な香りが漂っている。

 陛下の祈りの言葉が響く。

 なんか、僧侶の読経に似てる。どういう事?


「ねえ、サンドラさん、陛下は何を読み上げているの?」

「あれは、古語で書かれた聖書です。陛下はいにしえことばで書かれた聖書を読み上げているのです」


 それで、僧侶の読経のように聞こえたのね。

 陛下の祈りが続く。なんだか、眠たくなってきた。と思ったら、王様の大きな声で目が覚めた。

 一瞬、寝落ちしてたみたい。

 王が一際大きな声で、天に向かって「我に冠を授けたまえ」と祈った。

 お香が更に炊かれ、香りが一層強く香る。お香から立ち上る煙が聖教会の天井にたゆたった。その煙の中に薄く光る輪が現れた。


「おお! 光の冠が現れたぞ!」


 貴族達がどよめいた。

 輪が降りて来る。しかし、薄い。消えそうだ。


「言い伝えでは、あの光の輪が陛下の頭上に降りて来るのだそうです。王に成るべき者と天が認めたら」

「大丈夫かしら? あの光の輪は凄く薄いわ」

「魔素が薄いせいではないでしょうか? さっきの魔導砲が、この辺りの魔素を根こそぎ持って行きましたから」


 話している間にも、光の輪が降りて来る。しかし、時々小さくなったり、薄く消えそうになったりする。


「ほう、これが国王を決める光の輪ですか? なんと、弱々しい」


 他国から来た貴族達の間から失笑が漏れる。

 

「失礼な奴らねー」


(バトラー、魔素を濃くする方法ってない?)

(魔石を大量に破壊すれば宜しいかと)

(人の手で魔素を増やしたってわからないようにしたいわ。そうしないと、陛下の王権が疑われるかもしれない)

(では、一番大きな魔石をこっそり割りましょう。そうすれば、一時的に魔素が増大するかと)

(いいわ。やって!)

(いえ、魔石は出せますが、割るのはアズサ様で無ければ無理でございます。タペストリーの後ろに魔石を出しますので割って頂けますか? サイコキネシスで割れば音は出ますまい)

(わかったわ。魔石、出して!)


 すぐ横の壁にかけられていたタペストリーが揺れて、裾のあたりが膨れた。

 うわあ、おっきい。

 一刻の猶予もない。

 二つの月の重なりがまもなく終わる。

 終わる前になんとかしないと!

 タペストリーの上からサイコキネシスで魔石をぎゅっとするけど割れへん。

 ううう、よし、上下を持って真ん中に亀裂を入れるイメージ!

 なんか、パキパキパキッて音がするような気がした途端、割れた!

 魔素があたりに満ちる。

 光の輪がくっきりと浮かび上がり、キラキラと輝く。

 あまりの美しさに皆一斉にため息をもらす。

 王の頭上に王冠の形をした光の輪がゆっくりと降りて来る。

 王の頭に乗った瞬間、それは実態を持った金の冠となった。

 王が光の冠を戴冠した。


「余は神によって選ばれた。ここに余がパルテス王国第十七代国王となった事を宣言する」


 聖教会にどよめきが広がった。

 そして、王は祭壇を進み中央にある光の泉の側に跪いた。

 泉に手を入れ、王者の剣を取り出し、高々と掲げる。

 貴族達の大きな拍手とどよめき。万歳を叫ぶ者もいる。

 王は剣を掲げたまま、祭壇を降り聖教会の真ん中を堂々と歩む。

 凛々しい!

 聖教会から出て王宮のバルコニーへ。

 王宮に逃れて来た人々が新王の戴冠を祝って歓声を上げた。


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