三十九、キングワイバーン
王都に入って、宰相にテレパシーでコンタクトした。ワイバーンの心を読んだ話をする。
(テイマーが絡んでいるのではと思われます)
(テイマーが! よく、知らせてくれた。後はまかせなさい。あなたは、すぐに王宮に戻るように)
宰相からの返事をサンドラさんとスタッドさんに話し王宮に向かった。
向かう途中、ワイバーン達が王都の結界に突っ込む度にはじかれているのが見えた。
怒り狂ったワイバーン達。
と、一匹が火を吐いた。結界が赤く光る。別の一匹も火を吐く。ワイバーン達が次々に火を吐き始めた。しかし、結界が赤く光るだけで、ワイバーン達の炎が結界の内に届く事はない。が、熱は伝わってくる。
兵士達がワイバーンめがけて一斉に矢を放った。
さっと避けるワイバーン達。が、よけそこねたワイバーン達が落ちて行く。
冒険者達は魔法使いと協力しているのだろう、強さスピードを強化した矢を放っている。撃ち落とされたワイバーンが結界にはじかれ王都の外へ落下していく。
王都はまるで透明な蓋をされているみたいだった。
その時、何か禍々しい気配が急速に近づいて来るのを感じた。
「待って、サンドラさん! 何か来るわ! 凄くやばい奴が!」
大通りを王宮へ向かっていたあたし達は、向きを変えて魔物領を見た。
真っ黒な点が高速で近づいてくる。
ワイバーンの群れが二つに割れた。
物凄く大きなワイバーンが姿を表した。
「あれは、キングワイバーン!」
サンドラさんの声に恐怖が滲む。
キングワイバーンは王都の真上に到着すると、咆哮を放った。
空気がビリビリと震える。
建物が振動し屋根瓦が落ちて来る。
「結界が効いてない!」
「違います。効いてないのではなく、空気の振動は防ぎようがないのです」
「あいつを倒さないとまずいぞ!」
兵士達がキングワイバーンに向かって一斉に矢を放つ。が、歯が立たない。
と、その時、ワイバーン達が奇妙な行動を取り始めた。
同胞の死骸を持ち上げ、キングワイバーンの前に落としたのだ。
その死骸に向かってキングワイバーンがブレスを吐く。
ワイバーンの死骸が粉々になり、黒い埃となって降って来た。
ワイバーン達が次々に同胞の死骸をキングワイバーンの前に落として行く。
ブレスを吐き続けるキングワイバーン。
黒い埃がどんどん王都に降って来る。
「あの埃は?」
「わからん。だが、吸わない方が良さそうだ。こっちに来い」
スタッドさんが素早く馬を降り手近な建物に飛び込んだ。住人は逃げたのだろう、誰もいない。馬を屋内にいれた。スカーフを出し口と鼻をガードする。
「あれ、結界を通り抜けるの?」
「粒子が小さすぎるのです。結界が空気を防げないように、埃のような小さな粒は結界をすり抜けるのです」
サンドラさんが説明してくれる。
誰かが水魔法を放った。水で洗い流す作戦なんだろう。
が、水にふれた途端、粒子が爆発を起こし燃え上がった。
み、水で燃えるってどういう事!
降り注ぐ火炎。建物が次々と燃え始めた。
誰かが火を消そうと水をかけたら、ますます燃え盛った!
「水で燃え上がるのか! もし、あの埃が目に入ったらまずいぞ。涙で燃えるかもしれない。何か目を保護する物があればいいんだが。あんた、何か持ってないか」
「うーん、ちょっと待って!」
(バトラー、何か目を保護する物ない?)
出て来たのは、丸く透明なヘルメットのような物だった。
(こちらはいかがでしょう? ジャイアントカマキリの目で作った帽子でございます)
かぶって見た。
ちょっと視界が歪むけど、目は保護されそう。
(これ、火には強いの?)
(火消しが、かぶっていた物ですので、火事には強いかと思いますが、申し訳ございません。確認しておりません)
というので、急いで鑑定してみた。
摂氏五百度まで耐えるとあった。
(これと同じのあと二つ)
透明帽子が二つ出て来た。
「これ使って!」
出された帽子をスタッドさんがかぶろうとしたのだが。
「だめだ。耳がひっかかる」
「あ! そうか、待ってね」
(バトラー、エルフ用のある?)
(はい、ただいま)
出て来た帽子は、長い耳が入るよう細工されている。
「よし、これなら大丈夫だ。さ、いくぞ!」
建物の外を見たら、埃が固まりになって何処かへと流れて行く。風魔法使いが、風で黒い埃をまとめてどこかへ運んで行っている。
キングワイバーンが羽撃きで埃をまき散らそうとするが、出来ない。大風は結界にエネルギーを吸収されるようだ。
キングワイバーンは羽撃きをやめ咆哮した。
強烈な振動で風魔法の風が乱れる。火事の炎が黒い埃に燃え移った。爆発が起こる。埃全体に火が回った。王都全体に炎が降り注いだ。逃げ惑う人々。
どうしたら?
炎を避けながら大通りを王宮に向かって駈けた。
と、正面にみえた王宮の門の上に何か大きな機械が姿を表した。
「あれは何?」
「魔導砲ではないかと思います」
「魔導砲? まさか! あれはただの噂じゃなかったのか?」
スタッドさんが驚きの声を上げた。
「あれは、王都の秘密兵器です。空気中の魔素を集め魔物に向かって放つのです」
スタッドさんの「まさか」とは違う意味で、「まさか」と思いながらサンドラさんに訊いてみた。
「これ作ったのって?」
「先々代の陛下が開発されたときいています」
「やっぱり」
先輩があの宇宙戦艦のアニメのファンだって知ってたけど、こんな形で夢を現実にするなんて!
何考えてるんですかー!
話している内に魔導砲に光が走った。
起動音が聞こえる。
周囲の魔素が集まりエネルギーが充填されていく。
「う、、、」
「どうしたの?」
スタッドさんの様子がおかしい。馬を止め鞍の上で頭を抱えた。
顔が真っ青だ。急にどうしたんだろう?
さっきまで元気だったのに。
「魔素が薄い。薄いと、……頭痛がするんだ」
腰につけていた袋から丸薬を取り出して飲んだ。
少し顔色が良くなったようだ。
「なんで、魔素が薄いと頭痛がするの?」
「俺達エルフはな、魔素を体内に取り込んで生きているんだ。高い山に登ったら空気が薄くて、頭痛がするだろ、あんな感じだ」
「うーん、空気が薄い所に行った事がないからなんとも言えないけど、そんなもんなのね」
誰かが旗を振り下ろすのが見えた。
同時に魔導砲から強烈なエネルギー弾が発射された。キングワイバーンを直撃する。瞬間、粉々に分解されていた。
「うわお、凄い!」
それを見たワイバーン達が慌てて逃げて行く。
一発でキングワイバーンを粉々にするなんて!
なんて凄い威力なの!
戦闘は一気に終息した。
人々は燃え上がった建物を打ち壊し、土魔法使い達と協力して土をかけて火を消して行く。
誰かがまた水をかけた。
「やめろ!」
と声が上がるが、火は燃え上がる事なく消えて行く。
どうやら黒い埃は総て燃え尽きたようだ。今、燃えているのは、ただの炎のようだった。
水魔法使いが、その様子を確かめたのだろう、水をかけて火を消して行く。
焼けた建物の匂いが辺りに立ちこめているが、火事は鎮火の方向に向かった。
あたし達は王宮へ急いだ。
王宮には独自の結界が張られていた。
黒い埃も火の粉も王宮には飛んで来ていない。
王宮の門を通る時、エアシャワーのような風を感じた。恐らく、黒い埃を持ち込ませない為だろう。
門を通り抜け振り返った。
魔導砲が見える。
先輩の趣味全開で作られたのが一目でわかる。
そして、威力はさっきの戦闘で明らかだ。
「あれが使われたのは今回が初めてなんです。私達も見るのは初めてで。出来てから数十年経っているのですが、王都がこのような魔物の群れに襲われたのは初めてで。最初は使う事のない武器だと非難されていたそうです。しかし、あれがあって良かったです」
戴冠の儀式は王宮の深奥にある聖教会で行われていた。




