三十八、ワイバーンの群れ
急いで結界を張る。
ワイバーンの注意をこっちにひきつけなきゃ。
(バトラー、ワイバーンの好きそうな肉ない?)
(ゴールドホーンブルの死骸がございます)
(それ出して!)
目の前に現れたゴールドホーンブルの死骸をサイコキネシスを使ってワイバーンの口めがけて投げつけた。
ワイバーンが噛み付く。
別の一匹がゴールドホーンブルに噛み付く。獲物の取り合いになった。
二匹のワイバーンによって引き裂かれたゴールドホーンブルの肉が大河ラングへ落ちて行く。
更に別のワイバーンがそれを空中でキャッチ。
あたしはもう一匹、ゴールドホーンブルの死骸をワイバーンに向かって投げつけた。
「それはなんだ?!」
スタッドさんがワイバーンに向かって剣をふるいながら訊いて来る。
「ゴールドホーンブルの死骸よ」
「それは分かってる。どうやって、投げた?!」
「あー、言ってなかったけど、あたしサイコキネシスが使えるの」
風魔法で帆をはらませながら答える。
「念動力が使えるだと! もっと、早く言え! まだ、ゴールドホーンブルはあるのか?」
(バトラー、ゴールドホーンブルの死骸、三匹分ある?)
(はい、ございます)
(出して!)
「あるわよ!」と怒鳴り返す。
ゴールドホーンブルの死骸が三つ、出て来た。
「魔物領の方へ投げろ! 出来るだけ遠くだ!」
スタッドさんが叫ぶ。
あたしは、ゴールドホーンブルの死骸をサイコキネシスの力が及ぶ限り遠くへ投げた。
魔物領の奥へとゴールドホーンブルの死骸が飛んで行く。
一匹、二匹、三匹!
それを狙ってワイバーンの一部が向きを変えた。
が、ゴールドホーンブルの死骸を無視してあたし達に襲いかかってくるワイバーンが数匹。
スタッドさんが、剣に雷魔法を乗せて攻撃、一匹倒した。別の一匹があたしの方へ向かって舞い降りてくる。
サンドラさんが剣をふるった。
あたしも、ワイバーンを肉で追い払う作戦からワイバーン討伐作戦に切り替えようとして、テトの言葉を思い出した。
(頼んでくれろ。まず、頼んでみてくれ)
そうよね、まず、ワイバーンに襲わないでって頼もう。
テレパシーを使ってワイバーン全体に叫んだ。
(お願い、襲わないで!)
ワイバーン達が一斉にひるんだ。
(お願い、やめて! 襲わないで!)
ワイバーンの心に混乱が芽生えた。
ギッギッ、ギャーッ、ギャーッ(タマゴ、カエセー カエセー)と叫んでいる。
え? 卵?
ワイバーンの心をテレパシーでスキャンする。
(卵が盗まれたぞ! 人間が盗んだぞ! 取り返せ! 人を襲え! 卵を盗んだらどうなるか、思い知らせろ)
はあ? 何、これ? 誰の声?
もしかして誰かがワイバーンに偽の情報を流してる?
何の為に?
が、考えを巡らせている暇はなかった。
一匹があたしに向かってくる。
「高圧水刃!」
ウォーターソードがワイバーンの翼を切り裂く。
大河ラングに落下するワイバーン。
次のワイバーンを探して振り返った。
サンドラさんが苦戦している。
サンドラさんの剣では、ワイバーンの皮を貫けないんだ。
(バトラー、ミスリルの剣、一番新しく作られたの出して!)
手元にミスリルの剣が現れた。
「これ使って!」
サンドラさんの足元にミスリルの剣を滑らせた。
受け取ったサンドラさんが、さっと剣を抜くやワイバーンの首を跳ねた。
次々にワイバーンが襲ってくる。
まだ、サイコキネシスをうまく使えない。襲ってきたワイバーンの嘴を止めるぐらいだ。
とりあえず高圧水刃を打って打って打ちまくった。
数匹が大河ラングへ落ちていく。
よっしゃー、この調子で全滅さしたる。
と思ったら、スタッドさんが雷撃をバリバリ放ってワイバーンの討伐は終了していた。
船に落ちたワイバーンの死骸はバトラーに収納して貰う。
サウスガーディアン号は、あたし達がワイバーンと戦っている間に河下へ逃れていた。
バトラーに出して貰ったポーションをみんなで飲んだ。
治癒魔法を使って傷を治す。
「ねえ、ワイバーンの心を読んだら、変な声が聞こえたんだけど」
あたしはスタッドさんに、ワイバーンの心に響いていた声の話をした。
「誰かが、魔物達に王都を襲わせているのかもしれないな。恐らく、戴冠式を邪魔する為だろう」
「王様に戴冠させないってどういうこと? 戴冠してもしなくても王様には変わりがないでしょうに」
「いいえ、戴冠しなければ正式な王ではないのです。そして、正式な王でなければ、王権を表す王者の剣を受け取れません。王者の剣は前国王が亡くなられた時、自動的に聖なる光の泉の底に戻るのです。王都ルフランが何故、この地に作られたか、聖なる光の泉があったからなのです」
サンドラさんが説明してくれた。
「でも、そしたら、王様があぶないんじゃない?」
「王はいつも暗殺の危険にさらされています。国王とはそういうものです。国王になる者は魔力もレベルも高くなければなれないのです」
「てことは、王様は魔物狩りをなさったんですか?」
「ええ、日常的に行っていますし、近衛の者達とグループ登録をして彼らが魔物を倒して得た経験値も王様に加算されるようになっています」
「なるほど!」
「ワイバーンを操るとなると、恐らくテイマーが一枚噛んでるな」
「でも、一体誰が?」
「ヴォルフガング様には、御年三十歳になられる御兄君がおられます。先代国王の第三夫人を母上にお持ちのディートハルト様です。御母君のご身分が低いので、王位継承権はございません。しかしながら、武に優れ、気さくな性格もあって国民には人気のお方なのです。その方を国王にという一派がいるのです。彼らの妨害工作ではないかと思います」
「いわゆるお家騒動ね。国王を戴冠させるのは教会の司教様?」
「いいえ、神によって冠を授けられます」
「え? どういうこと?」
「王宮の聖教会で、創造神ミルゲより賜った聖書を読み上げ神に祈るのです。今日、我らの空を巡る月が重なり創造神様に祈りの道筋が出来ます。重なりが始まり、終わるまで途切れなく祈り続けると天から光の王冠がおりてきて王になる者の頭に乗るのです。諸侯はこれを見届け、王となった者が聖なる光の泉から王者の剣を取り上げるのを確認するのです」
う! さすが、異世界! 神話と魔法の世界だ。
「誰かが戴冠式を邪魔しようとしているなら、それを阻止するのが、臣民としての務めよ。あたしは臣民じゃないけど、でも、先輩のお孫さんが王様になるのを邪魔する奴がいるなんて、許せないわ。とにかく、戴冠式が行われる聖教会へ行きましょう。テイマーが絡んでいると報告しなきゃ」
「いや、港に戻れば、ワイバーンの群れと鉢合わせする。王都を守る結界に入る前に襲われるぞ!」
「じゃあ、どうするの!」
「ラーケン、イルカ漁をやっていた村のあたりに船をつけてくれ」
「了解!」
ラーケン船長が舵を切る。ほどなくして、イルカ漁の漁師達がいる村にカルルカン号をつけた。カルルカン号をラーケン船長に預けて、村人から馬を借り王都に向かった。




