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三十七、アズサ、活躍する

 あたしは王の前に進み出た。


「陛下、お話があります」

「アズサよ、今は忙しい。宰相の指示に従って頂きたい」

「あの、あたし、テレパシーが使えます。魔物達の心を読めるかもしれません。それに、伝令としてお役に立てるかもしれません」

「それは、真か?」

「はい」


 あたしと先輩を召還したのが悪者じゃなくて女神とわかった以上、テレパシーやサイコキネシスを発動しても何の問題もないわけなのよね。

 バリバリ使ったる!

 あたしは陛下に向かって、テレパシーを使った。


(陛下、聞こえますか? アズサです)

(ほう、これは素晴らしい。どれくらい遠くまで届く?)

(全力でやった事がないので、わかりません。アレクシス様を探す為に使った時は、王都の半分程をカバー出来ました)

(ではここから、ギルド砦まで届くか?)

(わかりません)


「ふむ、では試してみよう。宰相、アズサが念話が使えると言っている。城門へ行って対岸のギルド砦まで届くか試してくれ」

「承知しました」


 国王はマントを翻して広間を出て行く。

 あたしと宰相は、城門へ向かった。

 城門の上に立ち、宰相が指し示す方向を見た。

 城門の前からまっすぐに大通りが延びている。その先に大河ラング、そして対岸が見える。


「これで見るといい」


 城門に設置された望遠鏡で対岸を見た。

 砦が見える。


「砦の上にギルド砦の長、エルバーがいる。その者に伝えて欲しい。砦を放棄して王都に戻れと」


 あたしは望遠鏡でエルバーさんを見ながら話しかけた。


(エルバーさん。聞こえますか?)


 エルバーさんが、驚いた表情をした。頭をふって耳を触っている。

 どうやらテレパシーは届いたようだ。


(あたしはテレパシーであなたに話しかけています)

(テレパシー? 念話の事か? これは念話か?)

(そうです。念話です。今、隣に宰相閣下がいます。あたし達は王宮の城門から望遠鏡であなたを見ています)


 エルバーさんが、砦の上に設置された望遠鏡であたし達を見た。

 あたしは望遠鏡から顔を上げて手をふった。


(見えましたか?)

(見えた。宰相閣下に言ってくれ! すぐに逃げた方がいい。魔物の数が多すぎる。王都がいくら結界に守られているといっても数が多すぎるんだ。大河ラングを超えるかもしれないし、結界が破られるかもしれん)

(宰相閣下からの伝言を伝えますね。『砦を放棄して王都に戻れ』との事です)

(わかった。俺たちは王都に戻って王都防衛に務めるが、ここにいる民間人達は大河ラングの流れに乗せて下流へ逃す。皆にも伝えてくれ。逃げた方がいいと)


「宰相閣下、エルバーさんから伝言です。王都がいくら結界に守られているといっても魔物の数が多すぎる。大河ラングを超えるかもしれないし、結界が破られるかもしれない。皆、逃げた方がいいと。エルバーさん達は王都に戻って王都防衛に務めるそうです。民間人は船で下流へ逃すと言っています。皆も逃げた方がいいと」

「ふむ、一理あるな。しかし、王都の結界は最強だ。まず、破られる事はあるまい。だが、間近に魔物を見たらパニックを起こす住民もいるだろう。希望者は船で逃がそう。馬や馬車で逃げるより、大河の流れに乗れば遠くまで逃げられるだろう。伝令、王都守備隊に希望の者は船で逃がすよう伝えよ」

「はは」

「あの、あたし、船を持っていますので、港に行こうと思います」

「いや、あなたには戴冠式に出るよう陛下から要請が出ています」

「だったら、船を出して戻ってきますから」

「うーん、確かに船は多い方がいいが……、戴冠式は」


 宰相は空にかかる白い二つの月を指差した。


「月が重なり始めると同時に始まります。それまでに戻ってきて下さい」

「承知しました。必ず戻ってきます」


 空にかかる白い二つの月を見上げた。

 あと、2~3時間といったところか?

 あたしは、サンドラさんに馬に乗せてもらって港に向かった。



 街にはスタンピードが発生したと伝わっているのだろう、逃げようとする人達でごった返している。王都警護の兵達が皆を落ち着かせようとしている。


「王都の結界は最強である。破られる事はない。皆、家の中に入ってスタンビートが収まるのを待て」

「いつ収まるんだ! 王都に閉じ込められて食料がなくなったらどうするんだ!」

「そうだ、そうだ」


 この男の発言がきっかけだった。

 閉じ込められる!

 この恐怖に皆は一斉に港に向かって駆け出していた。

 女の人がつきとばされてこけている。倒れた老人がふまれた。道のはじで泣き叫んでいる子供。

 あぶない!


「あんた、テレパシーが使えると言ったな」

「言ったけど」

「住民全員に安心しろ、落ち着けと伝えられるか?」

「うーん、やってみる」


 あたしはテレパシーを最大限に使った。

 優しい光が降りそそぐイメージを送る。


(落ち着いて! みんな落ち着いて!)


 人々の走る速度が落ちた。

 けど、まだ走っている人がいる!


(落ち着けーーー!!!!)


 人々が耳を押さえてしゃがみこんだ。

 スタッドさんもサンドラさんも、耳を押さえている。


「この馬鹿者! やり過ぎだ!」


 スタッドさんから怒られた。


「仕方ないじゃない、初めてなんだから。加減がわからないのよ!」


 言い返しながら、優しい言い方でメッセージを送る。


(王都の結界は最強です。食料もたっぷりあります。王都に残っても大丈夫です)


 立ち止まってキョロキョロする人達。

 みんなの心に届いたみたい。

 良かった。


(周りを見て。ゆっくり歩いて下さい。走らないで)


 人々が歩き始めた。

 老人や女性を助け起こす人が出て来た。

 家に戻る人、港に向かう人。

 皆が落ち着きを取り戻した。

 テレパシーによる大勢へのメッセージ送信は成功したようだ。

 よかった。

 港では王都を守る将軍が待っていた。


「王都の結界は最強である。食料も十分ある。だが、逃げたい者もいるだろう。船は十分ある。落ち着いて乗るように」


 港に泊まっていた船に人々が乗り始めた。

 水運ギルドの近くにラーケン船長がいた。


「ラーケンさん、ボルフィ船長達にも船を出すように言って下さい」

「おまかせ下さい。水運ギルドには緊急避難のマニュアルがあります。船の運行を司る者達は皆、マニュアルに従うでしょう」

「あと、あたし、船をもっているんですが、動かせる人はいるでしょうか?」

「うーん、水運ギルドに登録していない船を緊急だからと出したら、そのまま、持ち逃げされるかもしれません」

「えええ! そんな事あるんですか?」

「ありえますね。至急登録しましょう。お持ちの船を港に出して下さい。大きさは?」

「レッドスター号と同じくらい」


 ラーケンさんもスタッドさんも目をむく程驚いたけど、何も言わなかった。


「スタッド、アズサさんを第一埠頭に連れて行ってくれ! あそこなら大型船を出す空きがある筈だ」

「わかった!」


 ラーケンさんが水運ギルドへ走っていく。

 あたし達は第一埠頭に向かった。

 大勢の人々が船に乗ろうとごった返している。


「この船に乗船出来るのは、ここまでだ。これ以上乗せたら船がしずむ。後は次の船にしてくれ!」


 大型船の船員がどなっている。船にかけられたブリッジが外された。 


「次の船って、船はどこにあるんだ!」

「第2埠頭にいけば、中型船がある。そっちに行ってくれ!」


 人々が一斉に第2埠頭へと動きだす。

 皆がいなくなった頃を見計らって、バトラーに大型船を出して貰った。

 空中に船の舳先が現れ船体、マストと滑るように大河ラングに浮かぶ。

 サンドラさんが、目を丸くしてみている。

 というか、周りにいた人達がみな、唖然となって見ていた。

 しばらくすると、ラーケンさんが水運ギルドの職員と一緒に戻ってきた。

 ボルフィ船長達も一緒だ。


「ラーケンさん、中型船の操船はどうしたんですか?」

「ボルフィ船長の部下が操船しています。人手が足りない分は、緊急事態なので、ギルドが手配してくれました」

「え! ギルドがですか! 良かった! 船があっても動かせないと意味ないですもんね」

「しかし、これが、アイテムボックスに入っていたとは! いやはや、凄まじいアイテムボックスですな」


 新たに出現した船を見上げてラーケン船長が感嘆の声を上げた。

 水運ギルドの職員もまた、唖然としながら船を計測、特徴を書類に書き入れた。

 職員の後ろにいたドワーフがその場で標識を作り始めた。


「おい、船の名前は?」


 ドワーフの親方がぶっきらぼうに訊いて来る。


(バトラー、この船の名前は?)

(サウスガーディアン号でございます)


「えっと、サウスガーディアン号です」

「サウスガーディアンね」


 ドワーフが金属製の標識にサウスガーディアンと刻んでいく。のみに魔法をまとわせているのだろう、滑らかに刻まれて行く。音もほとんどしない。微かに煙りが立つばかりである。


「さ、出来たぞ」


 標識を持ってドワーフの親方が船に乗った。そして、ロープを船舷から降ろしたかと思うとあっというまに標識を取り付けてしまった。

 ボルフィ船長が舵の前に立った。

 船員達が慌ただしく出航の準備をしている。


「住民のみなさん、出航の準備が出来ました。順番に落ち着いて乗って下さい。押さないで下さい。焦らず順番に乗って下さい」


 住民達が船に乗り込んで行く。

 どさっ!


「何をやってる! 大事な荷物を落とすな!」


 身なりのいい太った男が声を荒げた。

 従者の一人が荷物を落としたのだ。

 従者といってもまだ若い。子供にしか見えない。


(あんな子供にあんな大きな荷物を持たせるなんて)


 子供がもう一度荷を担ごうとしている。

 あたしはそっと、サイコキネシスを使った。

 子供は急に軽くなった荷に驚いた顔をしたけれど、主人に急かされあわてて他の従者に続く。

 荷物を担いだ子供が上って行く間、サイコキネシスで荷物をわずかに支えておいた。

 甲板についた所で支えるのをやめた。

 子供はわずかによろけたけど、踏ん張った。

 子供が振り返ってこっちを見た。

 あ! 目があっちゃった。

 知らんふり、知らんふりっと。

 善行なんて、恥ずかしくて名乗れるわけないじゃん!

 人々が次々に船に乗って行く。

 最後の一人が乗って、船が港を離れた。オールが力強く一斉に漕がれた。船が大河ラングの流れに乗ろうとした時。


「ワイバーンだ!」


 誰かが叫んだ。

 嘘! 予定より早い!

 遠くに現れた群れはあっというまに近づいて来ている。

 サウスガーディアン号が大河ラングの流れに乗った。

 ワイバーンの一部がサウスガーディアン号目指して飛んでくる!

 まずい、追いつかれる。


「おい、カルルカン号を出せ! 討伐に行くぞ!」

「了解!」


 第一埠頭にカルルカン号をだして、飛び乗った。

 ラーケン船長が、近くにいた兵士達に声をかけた。数人の兵士がカルルカン号に飛び乗り櫂を握るや、埠頭から船を押し出した。

 ラーケン船長が舵を持つ。あたしは、風魔法を使って帆を孕ませた。

 サウスガーディアン号を追う。

 ワイバーン達が襲って来た。

 

 

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