三十三、結果は?
スタッドさん、サンドラさんと冒険者ギルドへ向かう。
ラーケンさんは船の補修に行ってていないので、宿の受付に冒険者ギルドに行くと言付けを残した。
冒険者ギルドの受付カウンターに行くと、ギルマスの部屋に通された。会議用のテーブルと奥にギルマスの執務机があるだけの質素な部屋だった。ギルマスのジラックさんは矍鑠とした老人で、白い髭を形よく刈り込んでいた。もう一人、痩せた小柄な男が待っていた。
ジラックさんからテーブルに着くよう勧められる。
「探し人の結果が出ました。こちらは探し人ハンターのクラウドです。結果を説明して」
クラウドさんが立ち上がって持っていた書類を読み始めた。
「当該人物の特徴ですが、人族、男性、年齢二十七歳、身長180クピト、筋肉質、髪と目の色は黒。特徴は武芸に秀で、宝石に詳しい。名前は何と名乗っているかわからない。こちらで宜しいですね」
「はい。その通りです」
「似顔絵を使って王都にいる人族に対し検索をかけました」
「え? 検索出来るの? あたし、似顔絵を見た人が見かけたっていう情報を持って来てくれるものだとばっかり思ってた」
「あんた、馬鹿か? そんな事するんだったら、似顔絵一枚じゃあ足りんだろうが。それに、その場合は尋ね人っていうんだ。探し人って言った時点で違うとわかりそうなもんだろうが。何、勘違いしてるんだ?」
「ええ、ええ、どうせ、あたしは馬鹿ですよ。そんなシステムがあるなんて誰も説明してくれなかったじゃない! 初めてなのよ。人探しするのは!」
「はは、これは失礼しましたね。どうか、お気を沈められて下さい。王都には王都に入って来た者、市場を利用した者を記憶出来る魔道具が設置されているんですよ。提出して頂いた似顔絵と魔道具に残っている情報を比較するのです。さらに、王都に住んでいる二十七歳の男性と比較します」とギルマスのジラックさんが説明してくれた。
「あ、すいません。そういう魔道具があるとは思わなかったものですから」
「あまり宣伝してないのです。こういう魔道具があるのがわかると、それを欺こうとする悪い輩が必ず出て来ますからね」
ここは剣と魔法の世界。魔法を使って姿を変えたり出来るんだろうなあ。
「えー、それでは続きを報告します。この三ヶ月間、当該人物が門を通った形跡、市場を利用した形跡はありませんでした。また、王都にて生まれ育った人の中にもいませんでした。庶民、貴族共にです。各地方にて生まれ育った人々の情報とも比較しましたが、いませんでした。ここから推測出来る結論はこの国にいないか、もしくは、既に死んでいるかでしょう。死んだ人間とは比較していませんので」
死んだ? 先輩が?
嘘!
いえ、待って!
待って、待って!
まだ、決まってない。
まだ、死んだとは決まってない。
「あの、死んだ人とも比較できるんですか?」
「出来ますよ。やってみましょうか?」
「ええ、お願いします」
「しばらく、お待ち下さい」
クラウドさんが部屋から出て行く。
先輩は死んでない、きっと生きてる。
きっと、きっと。
それに……。
「じゃあ、あの絵師の人は一体どこで見かけたのかしら?」
「勘違いじゃないのか? 他人の空似とか」
「もしかしたら、他国で見たのかもしれませんね。この後訊きに行ってみますか?」とサンドラさん。
「そうね。そうします」
クラウドさんが戻って来た。
「死んだ人達と照合しましたが、いませんでした。この三ヶ月以内には亡くなっていませんね。もっと前に亡くなっていたらわかりませんが」
「良かった!」
だめ、また、涙が出て来た。
この世界に来たのが一月半前。
ということは、少なくとも、この国の死人の中にはいないんだ。
良かった。
召還者の本拠地はあたしが落ちた場所からそんなに遠くない所だと思ってたけど、もしかして、違う場所なのかしら?
あたしは、遠くに飛ばされたのかしら?
他の国に行ってみよう。
そして、手掛かりを探そう。
もし、捕まっているとしたら、どんな所なんだろう?
あたし達を召還した人ってどんな人なんだろう?
っていうか、召還できる程の強い力を持った人って誰なんだろう?
先輩を探すより、召還出来る人を探した方がいいのかもしれない。
「とりあえず、探し人の依頼はクリアで宜しいでしょうか?」
「はい、ありがとうございました」
「今回はお探しの方が見つかりませんでしたので、残金は半額になります。カウンターでお支払いをお願いします」
カウンターで、残金の半額、金貨一枚を払った。
考えてみたら、探し人の着手金が金貨二枚って高いなあって思ったのよね。
でも、あたしの持っていった似顔絵をコピーするお金かなとか、情報提供者に払う謝礼かなとか勝手に思ってたのよね。
まさか、この世界に顔認識システムみたいなのがあるとは思わなかった。
リニア水路といい、顔認識システムといい、なんだか既視感が強い。
変だな~???
「おい、絵師の店に着いたぞ!」
スタッドさんに促されて、我に返った。
絵師に訊いたら意外な答えが帰ってきた。
「ああ、あの時の。あの素晴らしいミニアチュールの男じゃな。実はな、この絵の男とそっくりだったんじゃ」
絵師が古いスケッチを持って来た。
木の板に木炭で描かれたスケッチ。
若者が椅子に座って、こっちをみている。
「こ、この絵は?」
「ワシのじいさんが描いた絵でな。先々代の陛下の若い頃の絵と聞いとる。じいさんは宮廷画家をしとったからの。信憑性はあるんじゃ。あんたの探しとる男によう似とるじゃろう?」
「ええ、そっくり」
この絵、先輩の絵だ。
Tシャツにジーンズ。
胸にはミネラルショーのロゴ。
別れた時に着てた服だ。
「じゃが、先々代の陛下があんたの婚約者であるわけないしな。他人の空似じゃろうと思うて、ギルドには行かんかったんじゃ」
「この手に持っているのは?」とスタッドさん。
「さあな。何かの魔道具じゃろう」
魔道具?
いいえ、違う。
これはスマホだ。
絶対、スマホだ。
描線だけだけど、スマホのカメラがスケッチされてる。
そうか、あたし、未来に飛ばされたんだ!
リニア水路も顔認識システムも、先輩が王宮の魔法使い達に教えたんだ。
それなら辻褄が合う。
先輩はもう死んじゃってるんだ。
死んでるんだ!
いやあー!!!
「彼の名前は?」
サンドラさんの囁き声が聞こえる。
「ゆきひこ、豪徳寺雪彦……」




