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三十二、貴族と庶民

 冒険者ギルドに併設された食堂でテーブルを囲んだ。

 食事をしながら、互いに質問を続ける。


「あんた、どう見たって貴族の出だよな? 違うか?」

「ええ、貴族です。ですが、貴族は貴族でも、末端の男爵家の三女です。子供の頃から自由にしていいと言われ、剣の腕を磨いてレベルを上げましたら、親の決めた婚約者よりレベルが高くなってしまって。自分よりレベルの高い女性を妻にするのは嫌だと。狭量にも程があるじゃありませんか? まあ、自分よりレベルの高い相手の財産は自分の物に出来ませんから仕方がないんですが。それで、指輪を返して、婚約を解消しました。相手の家は同じ男爵家なんですが非常に裕福で、金銭的援助を期待していた親が怒る怒る。で、家に居づらくなって家を出ました。あの、アズサさんは婚約をしているといいながら、指輪をしていませんよね。何故ですの?」

「貴族の間では、婚約すると指輪を送りますが、庶民の間ではそういう風習はないのですよ」とラーケンさん。

「そうなんですね、それは存じませんでした」

「だったら、指輪をしていた方がいいかな? 婚約者がいるってわかるし」


 指輪なら、バトラーに言えば、適当なものを出してくれるだろうし。


「しかし、そうすると、貴族だと誤解されますよ」とラーケンさん。

「あ、そうか」

「婚約者がいると、周りに知らせたいのですか?」

「ああ、結婚承諾書に無理矢理サインさせようとする賊に襲撃されてな」

「そうなの。だから、婚約してるってわかったら、そういう賊を牽制出来るかなって」

「それは、災難でしたね。ところで、アズサさん、レベルはいくつですか?」

「18です」


 テトがブルースティールスコーピオンと戦って倒した時、テトとパーティ組んでたからその時、一気に上がったのよね。


「「え! 18!」」


 スタッドさんとラーケンさんが異口同音に驚く。


「それは凄いですね。冒険者登録はしてないのですか?」とサンドラさん。

「ええ、必要がないので」

「普通の成人でレベルが5~6だ。ちなみに俺はレベル52だがな」

「さすが、年の功ね。なのに、B級なの?」

「ああ、AやSにランクが上がると国の仕事を引き受けなきゃならんからな。めんどくさいんだ」

「なる。さっき、ちょっとひっかかったんだけど。レベルの高い相手の財産は自分の物に出来ないってホント?」

「貴族の間では、自分よりレベルの高い妻、または、自分より身分の高い妻の財産は結婚しても夫のものに出来ません。庶民では違うのですか?」

「庶民の間では、問題ないですね。結婚すれば女性の財産は総て男性の物になります」とラーケンさん。

「じゃあ、例えば女性冒険者がダンジョンでゲットした珍しい宝も、結婚した相手の物になるの?」

「まあ、そうですね。ですが、自分よりレベルの高い女性と普通は結婚しません。男は自分よりレベルの低い女性と結婚するのです」

「だったら、アズサさんのレベルが高いと噂を流せばいいのでは?」

「そしたら、レベルの高い男が襲ってくる可能性があるな。それはそれで護衛任務のレベルが上がる」とスタッドさん。

「つまり、婚約者をさっさと見つけて結婚させるのが一番いいってことさ。俺一人でも護衛出来るが、女には女にしか入れん場所があるからな。それで、女性冒険者を雇うってことになったわけだ」

「そういう事情だったんですね。ぜひ、護衛任務をさせて下さい」


 うーん、問題なさそうだけど、でも、こんな美形を毎日引き連れて歩くの?

 それに、見慣れてしまったから、あんまり気にならなかったけど、スタッドさんも相当な美形だよね。男女の美形に囲まれて過ごすのか!


「あの、一つお願いがあるのですが」

「はい?」

「あなたの容貌って凄く目立つと思うんです」

「……」

「ですので、それを隠して貰えませんか? 例えば、髪をまとめるとか、フードをかぶるとか」

「わかりました。目立たないようにしましょう」


 こうしてサンドラさんが、あたしの護衛をしてくれる事になった。


 数日後、ボルフィ船長の船団が王都に着いた。皆で港に出迎える。


「よう、ラーケン!」


 ボルフィ船長だ。

 帽子を降りながら船から飛び降りて来る。


「ボルフィ、無事に着いて良かった! 途中、魔物に襲われなかったか? 俺達はジャイアントサラマンダーサーペントに襲われてな」

「ああ、聞いてる。大変だったな。無事で良かった。あの死骸のおかげで、航路が変わったな」

「ああ、ギルドに報告しておいたが、間に合ったか?」

「ギルドの対応が早くてな。俺達は中型船だからな。大して影響はなかったよ。だが、大型船には難しい航路になるだろうな」

「ま、お互い、無事で良かった! はっはっはっは」


 ボルフィ船長とラーケンさんが、バンバンバンと腕や背中を叩き合って喜んでいる。

 あたしは、ボルフィ船長が指揮した三隻の船から小麦を回収、倉庫街へ行って無事納品した。

 サンドラさんがびっくりしていた。

 水運ギルドへ報酬を受取に行く馬車の中で、「あんな大量の小麦を入れられるアイテムボックスをお持ちとは! 自分の目で見るまでは信じられませんでした」と心底驚いていた。


「でしょう。私も初めて見た時は驚きました。なんと言っても、大型船一隻がまるまる入っていたのですから」とラーケンさん。

「大型船ですか!」

「ええ、レッドスター号という大型船がナシムの街の近くで沈んでしまいましてね。それを引き揚げたのですよ。アイテムボックスに収納して」

「えええ!」

「目の前で大型船が吸い込まれて消えていくのですよ。あの時は本当に驚きました」

「まあ、それは見てみたかったですね」

「見れますよ」とあたし。

「え?」

「大型船じゃないけど、小麦を運んで来た中型船。あの三隻の船をラーケン船長に補修して貰って、それから、アイテムボックスにしまうんです。その時、中型船だけど、アイテムボックスに収納する所、見られますよ」

「そうなんですね。それは楽しみにしています」


 ふふっと笑うサンドラさん。

 ああ、もう、なんて素敵な笑顔!


「あの、婚約者さんを探す方法なんですが」

「え?」

「船を収納して見せる興行をしてはいかがでしょう?」

「は? つまり、アイテムボックスに収納する所をみんなに見せるんですか?」

「ええ、そうです。婚約者の方はアズサさんの事をご存知なのでしょう? 有名になれば、向こうから訪ねてくれるのではないでしょうか?」

「ああ、なーる!」


 そうか、もし、先輩が自由で向こうもこちらを探していたら、この方法は有効かもしれない。

 だけど、捕まっていたら、あたし達を召還した者にあたしの存在を知られてしまう。


「その方法は駄目だわ。あたし、目立つ訳にはいかないの」

「それにしちゃあ、荒くれ水夫達を豪華な馬車に乗せて大通りを走ったりしてるがな」

「あの時は、無事王都について舞い上がってたの!」


 ああ、もう、皮肉屋なんだから。


「アズサさん、どうして目立ってはいけないんですか?」

「それは、そのう、襲われる可能性が高くなるからで」


 サンドラさんがため息をついた。


「本当にそれだけですか? あなたは私達に話していないことが、たくさんありますよね」

「え! いえ、そんなことは」

「私達はあなたの護衛です。どんな襲撃があるか、あらかじめ知っておかなければ守りきれません」

「いえいえ、若い金持ちの独身女性なので、護衛を頼んでいるだけなんですよ。本当にそれだけなんです」

「……、わかりました」


 サンドラさんがちょっと悲しそうな顔をした。

 話す訳にはいかないの。

 「どっかの誰かに異世界から召還されました」なんて!


 水運ギルドで報酬を貰いラーケンさんと取り分を分けた。


「ボルフィ船長が話していたのですが、レッドスター号の修理が進んでいないそうです」

「え?」

「なんでも、レッドボアが開けた穴が幾つかあって廃棄した方がいいのではないかと話しているそうです。大型船の建造にはまだまだ時間がかかりますから、アズサさんの中型船をこのまま使わせてほしいとボルフィ船長が言っていました。私からもお願いします。このまま、使わせて貰えませんか?」

「でも、風魔法使いがいないと川上に向かって航行するのは難しいのではありませんか?」

「風魔法使いがいなくても、風を捕らえて川上に進む事は出来ます、遅いですけどね。それに、戴冠式が終われば、レッドスター号で働いていた風魔法使い達がボルフィ船長の元に戻ってくるでしょうから、問題はなくなります。どうでしょう? アズサさん、このまま船主を続けて頂けませんか?」

「そうですね」


 あたしは考えるふりをしてバトラーに相談した。


(バトラー、どう思う?)

(船を遊ばせておくよりは宜しいかと。他にも船はございますし)


「改めて契約を結ぶわけには行きませんか?」

「わかりました。では、船の補修が終わったら改めて契約を結びましょう。カルルカン号もラーケン船長のチームにお貸ししましょう」

「本当ですか? では、元の仕事に戻れるのですね。いやあ、良かった」

「あんた、船が無くなるがいいのか?」

「いいの、だって、まだ、もってるから」

「え!」

「ええ!」


 なんか、いろいろ取り繕うのがめんどくさくなっちゃった。


「ど、どんな船を?」

「うーん、いろいろ」

「いろいろって、わからないのか?」

「あたしはご先祖様の遺産を受け継いで、中身を全部確認する暇もなく故郷を出て来たの。だから、わからないのよ。何がいくつあるか。だって全部出した事ないんだもの」

「あんた、一度確認した方がいいぞ」

「時間がないのよ。あたしは婚約者を探さないといけないんだから。もし、王都で見つからなかったら、手掛かりを探して他国に行く可能性だってあるわけだし。とにかく、探さないと。だって、たった一人の」


 胸がつまった。

 唇が震え、涙が出るのを止めようがなかった。

 サンドラさんが抱きしめてくれる。「大丈夫、きっと見つかりますよ」と慰めてくれた。

 大きく息を吸って吐き出す。目をしばたいて涙を止める。


「今日はもう宿に戻ります。ラーケン船長、中型船の手入れをお願いします」

「承知しました」


 ラーケンさんを港に送ってから、スタッドさんとサンドラさんと一緒に宿に戻った。


 翌朝、冒険者ギルドから探し人の結果が出たと連絡があった。



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