一、ここはどこ?
「先輩!」
ハッとして気がついた。慌てて飛び起きる。
あたりは薄暗い。
ここはどこ?
ベッドの上?
それも天蓋付き?
壁が土? いや、岩だ。もしかして洞窟?
洞窟なのに、天蓋付きベッドの上って?
一体ここはどこなのだろう?
病院? いや、病院の訳がない。病室を洞窟に作る病院なんてある訳がない。
先輩と一緒にターソンミネラルショーで石を見ていた。
あれは、変わった模様のオパールだったけれど。
先輩があの石に触った途端に声が聞こえて……。
そして、訳が分からなくなった。
あの時、何か爆発した?
吹き飛ばされた? みたいな?
ううん、引っ張られた?
先輩はどこに行ったんだろう。
(逃げろ、梓!)
先輩があたしを突き飛ばして……。
逃そうとした?
何から逃げろと言ったのだろう。
分からない。ああ、頭痛い。ずきずきする。
後頭部に触ったら、コブが出来てた。どこかにぶつけたみたい。
とりあえず、寝台から降りた。手も足も動く。体のあちこちが痛いけれど、骨は折れてないみたい。
「にゃおーん」
「え? 猫?」
白黒長毛の猫が足元に擦り寄ってくる。
(この子に教えなきゃね)
「え? 今の何? 頭に声が響いた」
(は? あんた、私の声が聞こえるの?)
「え? 猫が喋った?」
「にゃーん」
「そんなわけないわよね」
(うーん、なるほど。自覚がない見たいね)
「ま、また声が聞こえる! な、なんなの!」
「あのね、落ち着いて聞いてね」
「今度こそ喋った! あ、わかった。夢見てるんだ。きっとそう」
猫が尻尾を振って見せる。
「ねえ、落ち着いて。いいこと、この先の洞窟を出ると一つ目の巨人がいる」
「ええ! これは夢だから、夢、夢、だから猫が喋ってもおかしくない!」
猫がため息をついた。しょうがないわねっていう感じ?
「一つ目の巨人は優しい、良い巨人だから。怖がらないで。いい?」
「いいよ、夢だから。なんでもありだし。ていうか、早く醒めないかな」
「あのさ、これ夢じゃないから」
「イタッ!」
ね、猫が引っ掻いた!
「ね、痛いでしょ。これ、夢じゃないから。だから、よく聞いて!」
猫が毛を逆立てて威嚇してくる~~~。
慌ててうなづく。
なんかこの猫怖い!
「あんたはね、この近くに倒れてて、これから紹介する巨人に助けられたの。あんたたち人族は大抵巨人を怖がるのよ。でもね、彼は優しい巨人で怖がられると傷つくの。だから、怖がらないで。わかった?」
あたしはもう一度コクコクとうなづいた。
「ねえ、猫ちゃん。あたしね、ターソンって所にいたの。ここはどこ?』
「にゃーん」
「今更、わからないふりしないでよ。ここはどこなの?」
「あのね、物事には順序ってものがあるの。とにかく、テトに紹介するから」
「テト?」
「巨人の名前。ちなみに我が名はアレクサンドラジュゼフィーヌクリスティオーネ。覚えられないだろうから、メリーでいいわ」
どこがどうしてどうなったらメリーになるか分からないけど、とりあえず、メリーの後について行く。
洞窟の外は!
「何、これ?」
広大な森が広がっていた。ここ、ターソンじゃない。ターソンは乾燥地帯の町。町の外は砂漠だった。こんな森なんかある筈がない。
「テト!」
猫が岩場を降りて行く。あとをついて行った。
小川の側に大きな背中が見える。確かに巨人だ。緑色の肌をしている。その巨人が振り返った。
ツッ、ツノ!
真っ黒なツノが生えてる!
「あんた、ほら、ニコニコしなさいよ」
一つ目は聞いてた、一ツ目は! だけど、ツノって!
「おっ。気ぃついただか? 良かっただ」
キ、キバがある!
キバも黒、真っ黒だ!
巨人が立ち上がってこっちにくる。
で、でかい!
あわわわ。
こ、この巨人は良い巨人、この巨人は良い巨人!
いくら自分に言い聞かせても、怖い!
怖いけど、御礼言わなきゃ。
「あのあの、助けて頂いて、ありがとうございました」
私は思い切り頭を下げた。直視できない。あと、顔に出る。絶対、怖いって顔に書いてある。
あ、足が震える。怖い! 怖いよー。
「オラ、テトっていうだ。おまえさんは?」
「あ、梓 茜」
「アズサアカネって苗字持ちか? 貴族か、なんかか?」
「いいえ、あの、貴族じゃないんで、アズサって呼んで下さい。」
「アズサ、アズサな。腹は? 魚があるぞ、食べるか?」
あたしはコクコクとうなづいた。
とにかく、巨人には逆らわない。
猫と一つ目巨人は魚を生のまま、頭から食べ始めた。私にも一匹放ってくれた。緑色した、見たことのない魚だ。すっごい牙がある。
「あの、あたし、ごめんなさい。魚は料理したものじゃないと食べられないんです」
「あ!? あー! バトラー、人族の食べ物!」
空中にテーブルが現れて、ゆっくりと地面に降りて来た。
白いテーブルクロスがかかっている。
な、何これ!
「バトラー、やり過ぎ」とメリー。
テーブルは空中で停止して、ひゅっと消えた。
次に空中から小さなお盆が出てきた。受け取ったお盆にはスープと飲み物が乗っている。河原の岩に腰掛けてお盆を膝に置いた。飲み物はオレンジジュースに似ている。柑橘系の果物の汁だ。美味しい。スープはポタージュみたいだ。何のスープだろう? こちらもとても美味しい。
「起きたばかりだからね。ゆっくり食べるのよ」
メリーがお母さんみたいな事を言う。
食べながら、周りを観察した。川の向こうには見たことのない植物が生えている。
ここって、いわゆる異世界なのかな?
私は何かに召喚されたのかもしれない。
その手の小説を読んだことがある。
先輩はどうなったんだろう?
この世界にいるのかな?
これからどうしたらいいんだろう?
とりあえず、先輩を探そう。そして、二人で元の世界に戻るんだ。
「あの、この世界の事、教えて貰えませんか? ここはあたしの住んでた世界じゃないみたいですし」
「焦らない、焦らない」
メリーがバリバリと魚を噛み砕きながら言う。
「とにかく、お食べ」
「んだんだ。腹膨れねえとな」
一つ目巨人がニタっと笑った。意外に人の良さそうな笑顔だ。メリーの言う通り良い巨人みたいだ。
食べ終わった食器を洗おうとしたら、バトラーがやるからとお盆ごと空中に消えた。
その後、メリーと一つ目巨人はその辺りになっている木の実、小さなリンゴみたいな実、ベリナルと言うらしい、を食べながらいろいろ教えてくれた。
この世界は魔法の使える世界で、人の世界で暮らして行くにはお金がいること、先輩を探しながらお金を稼ぐなら、冒険者になって世界を回るのがいいだろうってこと。
「でも、私、何も出来ないんです」
メリーとテトが顔を見合わせた。
「そういえば、あんた、ステータスは確認した?」
「は? ステータス?」
「とりあえず、ステータスって言ってみて。」
「えっと、ステータス!」
目の前にウィンドウが現れた。
【名前】アズサ
【年齢】23
【職業】強制召喚された異世界人
【レベル】1
【体力】30
【魔力】30
【スキル】鑑定、言語習得
【特殊能力】テレパシー
何これ?
テレパシー?