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26:祈り姫、決着をつける。

「私を女王にしたってあんたの傀儡になんてならない。私は私の思う善政を敷くわよ」


「その気概こそ王者に相応しい」

「ふざけているの? 気概だけなら現王に敵う者なんかいないじゃない」

「なかなか好みの性格だ。あなたが欲しいが、妻はメイガータだけと決めているから実に残念だ」


「……メイガータ、このおじさん不誠実な事言ってるけど、あなた、こんな人の嫁になるの?」


 メイガータはムッとして「おじさんじゃないわ」と、どうでもいい部分に反論した。


「一国の王になるのに、私以外に娶らないって断言してくれているんだから、十分誠実でしょ。好色なあなたのお父様と違ってね」


「父王は別に女好きで四人も囲っているわけじゃないわ。ただの政略結婚よ」

 アイリスも別にどうでもいい事に反論してしまった。しかもそれが誠実かどうかは疑問だ。


 ジルがいれば「一国の王になるって言ってますよ」と軌道修正するだろうが、いかんせんアイリスは敵陣に一人である。


「誘拐されても泣き叫びはしないのね」

 メイガータは呆れている。


 どこかの建物の一室に連れてこられただけで、拘束されてもいない。悪意をぶつけられてもいない。危機感を持つ要素が無いのだ。だから深窓王女ではないアイリスは不敵に笑う。


「あなたたちに会いたかったんだから願ったりだわ」


「人相手配書までばら撒きまくって迷惑なんだけど」

「あら? 私は人探しを頼んだだけよ。手段はギルドに任せただけ」

「帝国や周辺国にまで手を広げて! どんな罠が張られているか分からないから、あんまり外に出られないのよ?」

「安心して。ここで会えたから依頼は取り下げるわ」


 ハヴェルは楽しそうに二人を眺めている。

「私よりもメイガータに会いたかったようですが、どうしてでしょう」


「レダ・ジルフォートを操ろうとしたので報復をしに」

 アイリスはキリリとした顔で物騒な目的を言い放った。


「……それがジル様の本当の名前なの? 彼は思い出したのね!?」

 アイリスの報復発言なんか聞いていないのか、急にメイガータが目を輝かせた。


「彼は<森の民>の長の息子で、あの指輪は代々受け継がれている物だそうよ。レダ王家の正しい後継者の血筋なのは、まず間違いないわね」


 時を遡る指輪なんて、過去に何人が使用出来たか……。ジルに伝わったのは単純に家宝としてだった。ひとりふたりの王族の魔力程度では真の効果を発揮出来ないアーティファクト。眉唾だとして真価の伝承は廃れたのだろう。


「ハヴェル様! やはり彼は私たちと同じレダ王族の者ですわ!」


「それはどうかしら」


 アイリスはハヴェルに挑発的な顔を向けた。


「あなたは本当にレダ王家の血筋なの?」


 途端にハヴェルの顔色が変わった。


「なっ!! 当たり前じゃないか!! 本物は行方不明だが王家のアーティファクトのレプリカが家に伝わっている!!」


「レプリカが証拠になるの? 本物は正しい持ち主の誰かさんか、家系に受け継がれているのではなくって?」


「小娘!! 侮蔑は許さんぞ!!」


「本性を現したわね。似非紳士さん」

 怒りで顔を真っ赤にして怒鳴るハヴェルに、アイリスは少しも臆さない。


「貴族の名を騙るのは帝国でも重罪よ」

「黙れ黙れ!! 私こそモノミントの本家血筋なんだ!」


「……嘘なのですか? 私と同じ庶子だと言ったではありませんか……」

 メイガータは動揺している。


「あなたはモノミント侯爵家前当主に認知されていない息子ですよね」

「うるさいうるさい!! 母は証拠としてこの首飾りをモノミント家当主から貰ったんだ!!」


「ギルドの調査を舐めないでください。前当主に手を出されたメイドだったあなたの母親が、勝手に持ち出した物みたいですよ。古い記録ですが盗難届が出されていました。レプリカとは言え素材は金だし、レダ王家のアーティファクトを模した出来のいい代物だから結構な金額の物らしいです。本物は値段が付けられませんが」


「そ、そんな……私を騙したんですか? 正当なレダ王家の子供を作ろうなんて……」


 メイガータは放心していた。


「分かりやすい判断材料があるじゃないですか。あなた、メイガータのブローチは触れます? 資格者はレダの遺物に拒まれないのでしょう? 実際メイガータはジルの指輪を持てましたし」


 一瞬メイガータがぴくりと反応したのは、アイリスが彼女の胸飾りに触れたのを思い出したからだろう。しかし今の彼女にはそれは些末な事だった。


「なんのしがらみもない新天地で、偉大なるレダ王家を復活させようって……、嘘だったんですか……」


「酷いですね、ハヴェルさん。知り合った思春期の少女を王妃にするって甘言で釣るなんて。彼女はずっとあなたを慕い従っているのに。レダの復興ならメイガータを女王にしてあなたが王配になるべきでしょう。尤も血統だけならジルの方がレダ神聖王に相応しそうですが」


「黙れ! 血筋だけで安穏と過ごす愚かなシャクラスタン王家の者の戯言など!!」


「それがシャクラスタンを憎む本音ですか。だから潰したいと? 劣等感の塊なんですね」


「違う! 私には高い魔力がある! 高貴な血の証拠だ!!」


「ご冗談を。一般的には高い魔力だけど、ジルやメイガータはおろか、私にも及ばないのに」


「そんなはずないわ!!」

 絶叫して否定するメイガータをアイリスは冷ややかに見た。

「この男の素の魔力を知っているの? 魔力増幅魔道具を外した事がある?」


「やめろ! メイガータを惑わすな! 忌々しい王女め!」

 ハヴァルが空中に魔法陣を描き呪文を唱えた。アイリスは何もしないでその様子を見ている。

「発動に時間がかかり過ぎね。まあ難しい魔法だけど」

 魔法が発動した。アイリスはわざとらしく大きな溜息をついてやった。


「やっぱり精神干渉魔法は心がざわざわして気持ち悪いわね」

 全身に纏わりつく見えない魔力を、アイリスは手で払う動作をした。


「服従洗脳ねえ。効かないわ。メイガータの協力のないあなたの魔法なんて、魔力増幅してもその程度なのよ」


「っつ!! メイガータ! 増幅水晶を使っておまえも早く加勢しろ! 一国の王女をこのまま返せないだろ!」


 我に返ったメイガータが机上の青紫球を手に取る。が、持つ手が震えている。


「やめなさい、メイガータ! 私を攻撃したら罪が重くなるわよ!」


「姫様!!」


 突然アイリスの目の前に男が現れた。アイリスを背に庇い壁となる。


「ジル!!」


 “祈り姫”が信頼してやまない守護騎士である。


「なに!? 貴様も転移魔法具を!?」


 愕然とするハヴェルにジルは「俺は転移魔法を覚えてんだよ!」と叫ぶ。


「姫様がなかなか許可出してくれないから! もう我慢出来なくて勝手に来ましたよ!!」

「もう少し会話したかったのに」


「どうしてここが!?」

 ハヴェルもメイガータも理解が追い付いていない。


「“祈り姫”の警備が薄いと思わなかったか? おまえらが接触しやすいように姫様自身が囮になったんだよ! 狙い通り拉致されて、この監視魔道具でおまえらの様子を逐一送ってくれていたんだよ!!」

 振り返ったジルは、アイリスの首元のショールの留め具を指差した。


「私たちは嵌められたのか……」

 ……どうせ服従魔法をかけて味方にするからと、色々と話してしまった。王女の煽るような態度は話を引き出すためだったのか……。

 王女誘拐、王女への魔法攻撃、国家転覆罪……監視魔道具に全て記録された……。

 

 観念したハヴェルが膝から崩れ落ちる。そんな恋人にメイガータは寄り添わなかった。




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