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20:祈り姫、結界強化を図る。

 フローラ王女は懇意の占い師の行方については、「最近街にもいないのね。流浪癖が出たのかしら」と言っているくらいで、特に気にするでもないらしい。


 そもそもメイガータがフローラに近づいたのは、“祈り姫”の従者、ジルと知り合いたかったためと思われる。

 ジルをレダ王族として引き入れたかった彼女も、ジルとの交渉が決裂した今、おそらくもう接触する事もない。

 

 彼女が感情的になって、[シャクラスタンを手に入れる]と漏らしたのは痛手だろう。今後は王国も警戒する。

 このままシャクラスタンを諦めてくれればいいのだが。

 ……さて、王国のクーデターの可能性が消えた今後、どんな手でレダ復興を考えているやら。



 王太子がアイリスとジェイドを夕食に誘ってくれた。たまに彼らはこうして同じテーブルで食事を共にする。

 王太子は最初は平等にフローラとロデリックにも声を掛けていたが、何度も断られたのでもう誘わなくなった。


 ジェイドもいるので政治的な詳しい話は避けるものの、王太子も愚痴は言いたい時はある。


 王太子は今回の不穏な動きを父王に当然報告していた。

 しかしあまり興味も示さず「そちらは任せた」の一言だったそうな。


(ちっとは考えなさいよ! もう兄様に譲位したらいいのに!)

 アイリスの不服そうな顔に、彼女の心中を察した王太子は苦笑する。


「でも仕方ないところもあるんだ。南のドルピン公国が周辺国を征服して北上しているんだ。西のレジンを追い返したと思えば今度は南からとはね。陛下はそちらに向かえる準備をしている」

「それは、国軍も休む間がありませんね」

「戦場大好き陛下はともかく、将軍たちが気の毒だよねえ」

「それにしてもドルピン公国って軍事国家でしたっけ」

「……それが」

 声を低め、ちらりと異母兄はジェイドに視線をやる。彼は肉に夢中だった。まだ子供のジェイドにはあまり聞かせたくないのだ。


「魔力増幅装置を持っているんだ。今までろくな魔道具も持てない貧乏国だったのに」

「兄様……もしかして……」

「うん、私も同じ事を考えている」


 メイガータたちが魔法具を提供したのだとしたら。


「ドルピンがウチに到達した頃に、体制を整えたレジンの再侵攻があると見ている。同時期に東からは海洋国家が攻めてくるかも知れない。魔獣に疫病と、二度失敗している北のハルマゴール側からは多分仕掛けない」

「海からも……」

「そして国境防衛戦で手薄になった首都を私なら狙う」

 異母兄は厳しい顔をしていた。


「王太子殿下」

 アイリスが改まる。兄と呼ばないなら公の話だ。王太子は居住まいを正す。

「ジル・ベイチェックを<祈りの間>に入れる許可を」

 王族か神官しか入れない儀式の間だ。

「理由は」

「国防結界の強化に彼の魔力も借りたいのです」

 外からは攻めにくく、国内への攻撃は軽減出来るよう更に祈るつもりだ。


「ジルは本当に優秀な従者だな。許可しよう」



 翌日、朝の祈りの時間に、アイリスは守護騎士のジョルジュとジルを従えて行く。騎士を二人連れて行くのはいつもの光景だ。“祈り姫”が祈りを捧げている間、守護騎士は扉の左右に控えているのだ。

<祈りの間>に着くとアイリスは「じゃあジョルジュ、出る時は合図をするわね」と言った。<祈りの間>に入る資格のないジルが出てくるのを見咎められたくない。王太子の許可はあるけれど、外野は何かと煩いのだ。


 アイリスの警護時に、ちらりと部屋の中を見た事はあるが、入室は初めてだ。ジルはアイリスに促され、彼女に続く。心地良い空気がジルの身体を包んだ。


「これは……」


 白亜の女神像をジルは凝視する。


「どうしたの?」

 部屋に入った途端に固まったジルにアイリスは声をかけた。

「……この女神像、とてつもない魔道具ですね」

「こんな大きいのに魔道具なの?」


 神殿や教会にあるような普通の偶像だと思っていた。国境に結界を張る増幅装置だと、アイリスはグインヒルで知ったくらいだ。魔道具との認識は無かった。


 ジルは興味深げに像に触れる。そして目を閉じて神経を研ぎ澄ます。

「中は空洞ですね。内側に幾つもの魔法陣が刻まれています。膨大な魔力を持つ過去の王族たちが力を合わせたのでしょう。制作に姫様に似た魔力が四人分注がれています」


 高度魔道具の構造まで分析出来るほどの魔力を持つジルの実力は底知れない。


(こんなジルに匹敵するほどの魔力を持つメイガータは、やっぱり侮れないわ……。ううん、今は結界に集中よ)


 アイリスは気を引き締める。


「ジル、来てちょうだい」

 アイリスは祭壇前に跪いて胸の前で手を組む。

「私に魔力を貸して」


 ジルは固まる。どうやって? どこに触れる? 肩か? 背後から抱きしめたのでいいのか!? ……絶賛混乱中であった。


(違う、そうじゃない! 隣に立って手を重ねたんだ。落ち着け、俺! 深呼吸だ!)


「………姫様、その姿勢は決められたものなのですか?」


「え? 神殿や教会ではこうするじゃない」

「これは信仰の対象の偶像じゃなくて女神像を象った魔道具です。触れて魔力を流すのが正解だと思います」

 ジルの言葉にアイリスは目を見開いた。


 まさに目から鱗である。

「そうよね。確かに効率的にはそうだわ!」

 今までの時間が悔やまれた。実に勿体無い。


「じゃあジル、来て」

 立ち上がって祭壇の後ろに行き女神像に触れたアイリスは、ジルに手を差し出す。

 

 メイガータの魅了魔法によって、アイリスに対する潜在的な感情を表に引き摺り出されたジルは躊躇する。

 あの時、アイリスに<大切な人>と言われて感極まって抱きしめてしまった。高揚した気持ちのまま、アイリスと手を繋いで施設まで戻った。全くもって不敬である。あとでめちゃくちゃ反省した。


 今は必要で手を握るのだが……。罪悪感が蘇る。


「ジル?」


 不思議そうにアイリスは彼を見上げた。


「いえ……、失礼します」

 

 ドキドキしながら彼女の手を握った瞬間。


「うっ!?」


 ジルは激しい頭痛に襲われてその場に蹲った。


「!? どうしたの!? ジル! ジル!!」

 

 アイリスの悲鳴が響く。

 大丈夫です、と起き上がりたいのに頭は割れるように痛い。

 ジルの身体はそのまま床に崩れ落ちた。




 

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